43話 沖縄
特に何かトラブルが起こる事もなく、無事に飛行機は沖縄に到着した。ここからは、先に到着している先生と合流して、バスでホテルに向かう手筈だ。とノブ様が言っていた。
それにしても、暑いな。まだ五月で、しかも夏用の制服なのに少し汗をかくほどの暑さだ。
「いやぁ、よく寝た! やっぱり、睡眠は良いねぇ」
「ヒデ様、寝癖がとんでもない事になっていますよ?」
「えぇ〜、元々だよぉ」
「それならいいんですけど……」
場所と時代が変わっても、常に睡眠を求めるヒデ様は変わらない。と言うか、絶対に寝癖がとんでもないことになっていると思う。元の癖毛より、爆発具合が三割増だもの。
「ノブ君、ヒデ君、引率お疲れ〜。こっからはワシらが引っ張るから、休めってクソおでんが言ってるのじゃ〜」
気の抜ける様な声と共に現れたのは、日ノ本高校で英語教師をしているロキ先生だ。乱雑に切られた金髪と目深に被った大きな猫耳ベレー帽の合間から、眠たげな目が覗いている。
そして、ロキ先生の後ろに立っている銀髪の大男が、先生の義兄。西洋高校で進路指導を担当しているオーディン先生だ。ものもらいが治らないらしく、政宗の様に眼帯をつけている。
「うむ。では行くぞ! ホテル大友・沖縄支店に!」
威勢のいい先生の声かけを聞いてバスに乗り込もうとした時、宮笹とお釈迦様が不思議そうに声をあげた。
「あら? 麒麟先生はいらっしゃらないのですか?」
「根来先生も居ないけど……」
どうやら、来ていない先生がいるらしい。だけど、来ていないならオーディン先生が気づくのでは?
「ぬ? あの二人はホテルで準備をしておるのだぞ。聞いておらぬのか?」
「あっ、ヤバ……」
「信長公……」
原因はノブ様だったらしい。顔を青くして焦っている。
みんなからコッテリと叱られて落ち込んだ様子のノブ様を引きずって、今度こそバスに乗り込む。約二時間の陸の旅だ。
バスの座席は、僕の隣に宮笹。前が鑑真とマリーで、後ろは佐々木殿とゴリ……小越だ。小越と佐々木殿は、互いに気が合ったみたいですっかり二人の世界に入っている。……途中で乱闘にならなければいいんだけどなぁ。
「そういえば、マリーさんと石田さん、宮笹さんに相談があるのです」
後ろ二人を警戒していると、ふいに、鑑真が話を切り出した。高位の僧でも相談事ってあるのか。
「相談? 答えられる範囲でなら、僕らで良ければ……」
「ありがとうございます。実はですね、今、東洋高校のESS部は廃部の危機にあるのです」
「廃部!? 一体、何をしたっていうのよ!」
サラリと衝撃的な事を言ったな、この僧は! すぐに反応できたマリーを除く、僕と宮笹は驚きのあまり声が出ない。
「いえ、何もしていません。規則でして、一学期中に二人、部員を集めなければならないのです。今は、私とシッダッダ様しか部員がいませんから」
「ああ、そういう。要は、会計と書記を早めに見つけろ、と。そうね……西洋高校では同じ国の出身者で部員が構成されがちよ」
「日ノ本高校の場合は、戦国武将、キリシタン大名、婆娑羅大名が集まりがちだなぁ。前世で縁のある人とかを誘ってみてもいいんじゃないかな?」
「あー、でも、部活ってさ、趣味の合う人達の集まりでもあるんじゃない?」
部員集め。中学の時も高校に上がってからも、勧誘が激しかった印象しかないな……。それにしても、意外と、案が出るもんだな。
「なるほど……参考になりました。連休が明けたら、試してみます! ありがとうございました」
自分達の実例を出しただけではあるけど、解決したみたいで良かった。鑑真もなんだか、スッキリした様な雰囲気だ。
そうして話しているうちに、ホテルはもう目の前。沖縄の伝統的な家の様なデザインの建物だ。海も近くにあるけれど、今はまだ冷たいかな? とても楽しみだ。
――
今回の初出人物
ロキ
北欧神話に登場するイタズラの神様。
日ノ本高校の英語教師でESS部の顧問。
元々は、引きこもりのニートゲーマーだった。
オーディン
北欧神話の主神でロキの義兄。
西洋高校の体育教師。
ものもらいが治らない事を隠して、周りには片目は他の神に捧げたと言っている。ものもらいの事がバレている事に気づいていない。
麒麟
中国の神話に登場する伝説上の動物。
東洋高校の美術教師。
ニンジンに目がない。




