39話 中間テスト
結局、道長先輩の言っていた事は分からず、体育祭と後夜祭は幕を閉じた。
家康と治部様が何かの鍵を握っている事は確かだけど、今焦ったって仕方がない。治部様だって、精神世界で「時が来れば教える」と言っていたし、気長に待つことにした。
体育祭も終わって、今度は大型連休……の前に、学生なら誰だって避けられない恐怖がやって来る。
そう、中間試験だ!
僕は、公立の学校にいた頃から、勉強を教えてほしいと頻繁に言われてきた。それでもやっぱり、僕にだって苦手科目はある。
そういう訳で、僕は今、兄様と勘兵衛に泣きついているのだ。
「兄様ぁ……こんなの、正気の沙汰じゃ無いと思うんだけど……何なんだよ『この時の王様の気持ち』って。僕は大名であって王様じゃないんだけど」
「まあまあ、こういうのは、本当にその人物の気持ちになる必要はないんだから」
兄様はそう言うけど、本気で意味がわからない。なんで大名の僕が王様の気持ちを答えなきゃいけないんだ。そもそも、大名に心の内を読まれる様な王様の国は速攻で滅ぶと思う。
「殿、少し休憩してはいかがです? あまり同じ所ばかりしていても集中出来ないでしょう?」
あまりにも考え込む僕を見かねて、勘兵衛が休憩を提案してくれた。
「うん。それじゃあ、お茶にしようかな。今日のおやつは何?」
「芋けんぴです。治部殿が芋の栽培を始めたので、作ってみました」
芋けんぴか。この家で一番料理上手の勘兵衛が作るなら、既製品よりもずっと美味しいはずだ。そして、うん。今日は僕がお茶を立てようかな。
それにしても、治部様の作った芋、か。なんか、ものすごい速さで家に馴染んだなあ。
治部様が来てすぐの時、勘兵衛は警戒していたけれど、一晩明ければあの態度だ。なんでも、僕の知らない僕自身の事で話をしたらしく、今日から勘兵衛の部下――僕の専属執事になったのだ。
「……案ずるな……お前は……私が、必ず守るぞ……」
「ん。それは、わかってる。……だから、いつになっても良いから絶対に、治部様の隠してる事は教えて」
「……ああ……もちろんだ……が、先ずは……国語の……王様の気持ちを……考える所からだ……」
うぐぐ……! 痛い所を突いてきたな……!
ああもう、休憩なのに、問題の事を考えてしまうじゃないか。
「殿ー! 芋けんぴ、持ってきましたよ!」
「よし来た勘兵衛! 先ずはお茶! 僕が立てる!」
僕が頭を抱えていると、勘兵衛がお菓子を持ってきてくれた。やっぱり、持つべきは勘兵衛だ!
「ははぁ、もしかして殿、治部殿から正論パンチをくらいました?」
「別に、そんなんじゃねーですし……」
「そんな落ち込み気味の殿に、一つアドバイスです。殿の苦手な『登場人物の気持ちを述べよ』系の問題は、文章の中に答えがあるんですよ。間違い探しみたいなモンです」
勘兵衛にまでツッコまれてしまった。でも、うん。勘兵衛はフォローまでやってくれるし! 痛い所を突くだけじゃないし!
「それじゃあ、休憩が終わったら実践してみましょうか。当方も見守りましょう」
「はぁぁい……」
その後、勘兵衛達の教えの甲斐もあって、なんとか問題を解ける様になった。だけど、他の元大名のメンバーがこぞって「大名に王様の気持ちがわかる訳ないだろバーカ!」と解答して、朝会で先生から怒られたのはまた別の話。




