38話 後夜祭(後)
義経の手前だから、後夜祭を楽しんで来るって言ったけれど、やっぱり結果が気になる……! 治部様と家康に見張られているせいで行けないけれど。
治部様と家康は、頼朝公とは別のベクトルで口下手だ。けれどその分、目がよくモノを語っているから、二人に見つめられると居心地が悪い。
「……居心地が悪いと……思っているなら……余計なことは……気にするな……」
「えっあっ、顔に出てた?」
「……三成……いつも……顔……出る……」
うぐぅっ……みんな、僕は顔に出るって言う……。ちょっと、話題を変えよう。うん、そうしよう。
「そういえば、ずっとスルーしてきたけどさ。家康って、どうして僕に、そんなにも好意的に接してくれるの?」
うーん、いきなりコレは重すぎたか? でも、ずっと気になっていたのも事実。
互いに人格が入れ替わったから、互いに殺し合ったから、遠慮は無用。とは言え、激しく争い、僕の一方的なものかもしれないけれど、憎みあった相手だ。どうして、こんなにも僕に好感を持ってくれるのか……。
僕が問うと、家康は今更そんな事を聞くのか、と言わんばかりに目を見開いて答えてくれた。
「……元々……三成……家臣……欲しい……」
ゆっくりと話す家康の話をまとめると、こうだ。
元々、あの時代の家康は、僕の様な数字に強い家臣を欲していたらしい。それでも、僕は豊臣に忠誠を誓っていたから、豊臣政権がある限り僕を召し抱える事はできない。だから、豊臣を乗っ取れば僕を手に入れられると考えて、結果的に僕を死なせてしまう事になったのだとか。
そうして転生してから、身分社会でない世の中だから、僕を召し抱える事は諦めて、友達になる方向に舵を切ったらしい。そうすれば、今度こそ末永く、僕と関わり続ける事ができると信じて。
「そうだったんだ……まあ、言ってくれれば手伝ったのに……とかは言わない。僕はあの時、豊臣家に命をかけていたから。間違っても、秀吉様の言ったことを無視していた家康には従わなかった」
でも、今は命令とかは無いし、
「でも、今ならたぶん、友達になれると思う。今の僕は、何かに命をかけている訳ではないし」
そう言うと、家康は、ふわりと微笑を浮かべる。……なんだか、今日の家康は表情筋が仕事をしているなぁ。
「……そう……ありがとう……」
そうして、いつの間にか、飲み物を買ってきてくれた治部様が戻ってきた。
グラウンドの隅に移動し、座って雑談をしていると、ふと、影が差した。
見上げてみると、体操服の上に学校指定の外套を羽織ったウサギ耳の三年生――マンガ研究部副部長の藤原道長――が立っていた。道長先輩は僕達をジロジロと見つめてニタリと笑うと、ドヤ顔で言った。
「やあ、ESSの二人と加護の化身。今夜は良い夜ウサね。望月がいつもより輝いて見えるピョン!」
治部様も家康も、あからさまに面倒だという顔だ。僕としても、少し面倒くさい人だと思う。
「えっと、道長先輩。なんか、語尾がブレブレだと思うんだけど……『ウサ』なのか『ピョン』なのか、ハッキリしてほしいと言うか……そもそも今日は、満月ではなく新月だから、月は出ていないと言うか……」
僕が正論で返すと、先輩は面白くないといった表情で強引に話題を変えてきた。
「むぅーーっ! 語尾はロマンなんだウサギ! って、そうじゃ無い、ナイ。ボクチャンは意味深な事を言いにきたんだウサ」
……っ!? 先輩が意味深な事、と言うと、治部様が警戒したのか、ビリビリとした空気になった。家康も、どことなく真剣な雰囲気だ。
この二人が共通して警戒する事といえば……僕の知らない僕自身の事、か?
「そーんな警戒されるなぁんて、心外だピョン! ボクチャンはそこの、狐憑きのミツナリ君に情報をあげようと思っただけウサなのに」
「僕に、情報……?」
「……三成……耳を……貸すな……」
治部様がそれとなく僕を庇う。でも、少し気になる。綱吉も僕を狐憑きと言っていたけれど、どう言う事なのか。
「こぉんなに警戒されると、言いたいコトは全然言えないけれど一言だけ言うウサ。キミなら、ゆぅ〜っくり、少しづつだけど、キミとそこの化身との関係という真相に、たどり着けるハズだウサギ!」
道長先輩の赤い目が、月が無いのに、月明かりに照らされた様に不気味に輝く。
それにしても、僕と治部様の……言われてみれば、僕は何一つとして知らないような……?
楽しいはずの後夜祭で一つ、謎が深まった。治部様は、本当に僕の味方なんだよね?
――
今回の初出人物
藤原道長
平安時代の貴族。天皇の親戚になる事で政治の実権を握っていた。
ウサミミの三年生。
とても自信家で、マンガ研究部の部長の座を狙っている。




