37話 後夜祭(中)
大慌てで源兄弟を探すと、案外すぐに見つかった。派手に言い合いをしているせいで目立っていたからだ。まだ拳を交えてはいないけれど、手が出るのは時間の問題かも。
「だからぁっ、ボクの話を聞いてって言ってるじゃないですか!」
「知らん! 貴様の話など聞く価値も無い!」
「ボクに負けたクセに!」
「貴様に負けたのでは無い! 石田三成に負けたのだ!」
「年下に負けた宣言って恥ずかしく無いんです? ねえ、ねぇねぇ!」
……うん。派手な言い合いだなぁ。頼朝公、クール系のキャラが崩れてるし。義経は頼朝公を煽って大人気ないし。
こんなにも激しく言い争って目立つと、後で恥ずかしい思いをするんじゃないか? 頼朝公は別にいいんだけど、義経には嫌な思いをして欲しく無いなぁ。よし、ここは僕が止めに入ろう!
「あの、義経、頼朝公。かなり目立ってるけど、大丈夫?」
「義経ぇぇぇ! 貴様はいつだって私から色々と奪って行く!」
「えっちょっ頼朝公?」
もしかして、周りが見えてないな? それなら、義経だけでも……
「はぁっ!? そんなの、兄上の被害妄想じゃないですか! この分からず屋!」
「えぇー、義経? ちょっと落ち着こう?」
「石田君はちょっと黙ってて!」
「ひゃいっ! すみませんっ!」
ダメだ。頼朝公からは完全に無視されてるし、義経からは怒られてしまった。やっぱり、僕には見守る事しかできないな……。
僕が一人で落ち込んでいる間にも喧嘩は続き、言葉は更にヒートアップしていった。
「分からず屋で結構! 大体、私は貴様など、弟とも思っていない! 兄などと呼ぶな!」
「例え貴方が兄で無くとも、ボクらは従兄弟だから貴方はボクの兄上なんですぅー!」
かなり、不味い方向に向かって行っている。このままだと、お互いが傷つく結果になるんじゃ……
「ああ言えばこう言う……! 貴様なんて、生まれて来なければ良かったのだ!」
コレは、いけない。生まれてきた事にとやかく言うのは絶対にダメだ。頼朝公って、本当に人の地雷を踏み抜く事ばかりだな……!
なんて事を考えている間に、僕から手を出してしまっていた。
パァンと高く乾いた音が響く。突然、間に入って平手打ちをした僕に、頼朝公も義経も唖然としている。
「生まれて来なければ良かった人間なんて、いる訳ないでしょう! 貴方、口下手なのは別にいいんですけど、自分の影響力を少しは考えなさい!」
ホント、何で権力者は良くも悪くも、自分の影響力を考えない様な事をするんだよ。
「そして、もっと周りに目を向けろ! 義経は貴方から何かを奪おうとしたんじゃ無い。悪い方向へ進む貴方を止めたがっていたんだ! 自身を諌めてくれる人は、とても貴重なんだから、無下にしないで、ちゃんと見てよ。……部外者が失礼しました」
一通り、言いたい事を言ったけど、コレ、完全に僕、いらない事をしたよね? また不要な恨みを買ってたらどうしよう……。
「いや、ありがとう、石田君。きみには、助けられてばかりだよ」
義経がふわりと笑いながら言う。けれど、その笑顔も少し悲しげで、やっぱり、あの一言には傷ついているんだ。それなのに、
「でも、コレはボクと兄上の問題だから。ここからはボクが説得してみせるよ」
それなのに、前を向いて逃げない義経はすごい。僕も、力になりたいけれど、こう言われれば手出しはできないや。
「それじゃ、ボクは向こうでもう一度話してみるから。石田君は後夜祭を楽しんでおいで。初めてなんでしょ?」
「うん、ありがとう。……手伝いが欲しければ言って。必ず、力になるから」
義経は未だに唖然としたまま固まっている頼朝公を引きずって校舎に向かった。モヤモヤするモノが残るけれど、楽しんでおいでと言われれば、行くしかない。
二人の行く末が、良いものだといいんだけど、大丈夫だよね?
でも、そういえば、何か忘れて……あぁーーっ! ESSへの暴言を謝ってもらっていなかった!




