33話 大一大万大吉の加護
常闇の世界から目が覚めると、一番最初にに見えたのは限界まで近寄った家康の顔だった。
家康の顔だった!?
「家ッ!? ――いったぁあい!」
鈍い音を立てて僕と家康の頭がぶつかった。額がジンジンと痛む。家康の石頭め!
「家康! 痛いじゃない、か……えっ、何? どうしたんです?」
家康に怒鳴りつけようとしたら、急に家康の目から涙が溢れてきた。無表情のままだから若干不気味だ。
「……心配……」
「どうしたもこうしたも、当たり前だろ!? ダチが目の前で倒れたんだぞ!? 心配しない方がおかしいっての!」
「そう、だったんだ……。ありがとう、心配してくれて」
そうか。僕は自分で思っている以上に家康に好かれていたんだな。でも、僕の意識が戻ったからと言って問題が解決したわけではない。
僕が気絶していた間にESS陣営はほとんどがリタイアしている。それに、僕も、先の疲労と寝不足で、あと二、三回ほど能力を使えば、また気絶するかもしれない。
「よし、決めた。家康、吉宗。綱吉は、僕が確実に道連れにするから。後、任せた」
「はぁ!? どう言う事だよ!」
「じゃ、僕は行くよ」
「オイ、話聞けよ!」
やっぱり、急にこんな事を言えば吉宗も混乱するよね。ずっと黙ったままの家康が少し不安だけど、大丈夫なのか?
「……三成……任された……」
「……! うん!」
家康に背中を押されて駆け出した。アイツも、僕が心配だろうに。また後でジュースでも奢ってあげなきゃ。
「伊達殿……いや、政宗! 僕はこれから綱吉を殴りに行く! これだけあれば兵站は充分だろうから、後は任せた!」
「はぁっ!? 石田オマエ、無事だったのか!? んで、後は任せたって……オイ聞けよ!」
一旦、兵站係のスペースまで来て政宗に伝言を伝える。政宗も僕がリタイアしたと思っていたみたいでとても驚かれた。
「うふ、貴方の方から来ていただけるなんて、幸運です。さあ、今度こそ『狗神様』を顕現させましょう!」
「今度は、その手には乗りませんよ!」
再び綱吉の前に立つ。綱吉の傍には変わらず二匹の犬神がいる。だけど、治部様に斬られたせいか、少し禍々しい気配が薄れている気がする。
さて、ここからが正念場。もう、あまり力の入らない足を踏ん張って能力を発動させる。
イメージは、後に残る、道しるべ。僕が大きな障壁を取り除き、後につなげる。みんなを守る、正の感情。
「咲け、咲き誇れ。燃やし尽くせ、左近花!」
左近花がグラウンドを埋め尽くす。予想以上の量に僕もビックリだ。だけど、コレならいける。敵陣営はみんな、左近花に足を取られている。
「灯せ、魂の篝火。行くべき方向を照らし出せ、鬼灯!」
淡く光る鬼灯が綱吉と頼朝への最短距離を照らし、鬼灯の光に当たった犬神達が消滅していく。
チャンスは今しかない……! 今度こそ、最後の力で預かったハリセンを振り上げて綱吉の頭に叩き込む。
「綱吉ッ! 覚悟ぉ!」
小気味の良い音を立てて綱吉の頭にハリセンが当たる。綱吉自身も気を失ってしまったらしい……ヤバいな、やり過ぎた、かも。
ただ、僕も、もう限界だ。強い眠気に襲われる。意識を手放す前に、義経に、伝えなきゃ。
「義経! 道は、開いた、から! 後、よろしく、ね……!」
嗚呼、くそ。あまり頑丈でない、僕の体が恨めしい。こんな事なら、もっと、運動するんだった……。
「石田君……わかった! ありがとう! ぼく、必ずやり遂げるよ!」
決意に満ちた義経の顔は、兄との関係に悩む少年では無く、一人の武将だった。




