30話 合戦開始
リレーの後に昼食休憩を挟んで、とうとう最終決戦の合戦だ。今回の合戦は文芸部が中心のチームとESS部が中心のチームに分かれている。
『さあ、いよいよ最終種目・合戦! 勝利を決めるルールは三つ! まず一つ、自陣営の総大将の弁当が箱ごと取られれば即試合終了! 次に、片方の陣営が全員棄権、もしくは続行不可能と生徒会が判断すれば、その時点で勝利が決まる! 最後に、敵陣営の弁当の具を専用のタッパーに一つでも多く奪うべし! 勝った陣営には部活の活動予算の増加が約束されます! 各々、頑張ってくださいね!』
アナウンスでルール説明がされる。と言うか、合戦ってそんなルールがあったんだ。信長様はただ、おかずを取り合うだけとしか言わなかったから初耳だ。あの人、やる事が大雑把だからなぁ。
グラウンド内の合戦コートに入る。僕の担当は敵陣の妨害と自陣営の兵站、防御だ。余程のことがない限り、僕が前線に出る事はない。それでも、勝敗を分ける重要なポジションに就いて、緊張で背筋が伸びる心地だ。
作戦の最終確認のために伊達殿に話しかけようとしたら、寝不足のまま無理をしていたからか、ふらついてしまった。
「……っ!」
「オイ石田ッ! 大丈夫か?」
「うん。ありがとう、伊達殿。僕は大丈夫だから、最終確認をしなくちゃ」
「それならいいんだけどよ……。無茶はすんなよ。オマエ、あの関ヶ原の時も腹壊してたらしいじゃねぇか」
うわ、バレてる。でも、流石に関ヶ原ほどの無茶はしない。だって、誰かの命がかかっているわけでもないしね。
「それじゃあ僕、最初のうちは防御と妨害に徹するから、兵站がヤバそうになったら呼んで。すぐに戻るよ」
「応。倒れんなよ」
「わかってる。行ってきます」
『みなさん、定位置に着きましたね? それでは、合戦開始!』
「大将首はもらった! 『逃げの小五郎』!」
「そうは行かへんで。大将首は『黄金の茶室』に避難済みや!」
「防御、固めます! 生い茂れ、マングローブ!」
法螺貝の音と共に合戦が始まる。機動力の高い木戸には警戒していたから、アイツの襲撃は想定内だ。ただ、利休殿が『黄金の茶室』に信長様の弁当を移動させていたことは想定外だ。でも、茶室があるなら即負けする事はない。僕も草木を生やして防御と妨害を徹底しよう。
「なーんかイヤな予感がする気もあるけど、今はまだ、気にしなくてもいいよねぇ。……輝け! 『太閤秀吉』!」
秀吉様も防御・妨害に加わってくださった。敵陣営が秀吉様の方に引き寄せられる。ただ単に「目立つ」だけなのに、こんなにも色々なことが出来るなんて。最初に微妙な能力だと思った自分を殴りたい。
「うわぁっ! 逃げろ! 犬神だ! 呪われるぞ! 」
「イヤだ。来るな、来るなよォ!」
「ふふ、あっはははは! 逃げ惑え! 泣き叫べ! 貴方達のその負の感情が『犬神』を育てるのです!」
コートの一角からどんよりとした空気と共に敵味方の部員達の恐怖に染まった叫び声が聞こえた。綱吉の能力である『犬神』だ。
「あぁ、お犬様! この綱吉、すぐにでも貴方様の元に駆け付けましょう!」
綱吉がうっとりとした声で僕の方を向く。我ながら、面倒くさいヤツに目をつけられたものだ。
……ごめん、伊達殿。無茶をしないって約束、破りそうかも。




