26話 借りモノ競争
保健室からESS部の待機場所に戻ると、吉継が僕の座れる場所を確保してくれていた。相当心配をかけたみたいで、しきりに大丈夫かと聞いてくる。申し訳ない事をしてしまったなあ。
僕が大丈夫だと確認すると、吉継は座っていた場所を僕に譲って立った。最初の競技である借りモノ競走に参加するらしい。
『さあ、始まりました! 本日最初の競技は借りモノ競走! お題に合う物や人を借りてゴールまでの速さを競います!』
生徒会のアナウンスで借りモノ競争が始まる。そういえば、僕がESSの腕章をもらうまでは、部活の勧誘が激しかった。何故だろうと思っていたけれど、競技の激しさを見れば納得だ。みんな、全力でプレーをするから、一人で何回も出るのは無理がある。
借りモノ競争には吉継だけで無く家康も参加しているみたいで、今は家康の番だ。家康はお題の書かれた紙を見つめていた顔を上げると、僕の方へ一直線に走って来た。
「……三成……マンドラゴラ……いける……?」
「マンドラゴラ? 貴方、一体どんなお題なんだよ?」
僕の疑問に家康が紙を見せてくれた。紙に書かれていたのは『ファンタジーなモノ』だ。なるほど、マンドラゴラはファンタジーだな。
「まあ、それぐらいならわけないよ。……出てこい、マンドラゴラ!」
「……ありがとう……」
家康はマンドラゴラを受け取って、走って行った。でも、ファンタジーなら、転生者である僕ら自身もファンタジーなのでは? マンドラゴラを持った家康が一着だったけれど、審査員もマンドラゴラから逃げている。うるさいものね。
そうこうしている内に吉継の番が来た。吉継、転生能力の影響で何も無いところで転ぶけど、大丈夫なのか?
僕の不安は的中して、吉継は数歩走っては転ぶ、を繰り返していた。お題の紙を持った吉継が僕の方へ来た時には、他の競技者はゴールへ向かい始めていた。
「三成、一緒に来て欲しい」
「うん。それはいいんだけど……」
一緒について行くのは構わない。だけど、吉継に合わせて走ると、確実にビリだ。
「……吉継。借りモノ競争ってモノが走ってもいいんだよね?」
「あァ、構わないが。……三成?」
「それなら吉継。僕に背負われて。僕が走る」
僕が吉継を背負って走れば、一着は無理かも知れないけれど、ビリにはならないはずだ。
吉継を背負って走っているけど、吉継は僕より背が高くて重いから、結構キツい。気を抜くと足が絡れそうだ。
「よし、ゴールだ! ……あっ!?」
「三成っ!?」
ゴールした途端に、気が緩んで自分の足に躓いてしまった。これじゃあ受け身が取れない……!
……あれ? 来るはずの衝撃を感じない。恐る恐る目を開けてみると、吉継が僕を抱き抱えていた。
「ふぅ、間一髪。だな」
「あ、ありがとう、吉継」
「なァに、親友だからな。これくらい当然の事だ」
「うっ……また吉継はそんな、恥ずかしげも無く……それはそれとして、お姫様抱っこは男子として恥ずかしいよ」
僕が少し睨みながら訴えると、ようやく吉継は僕を降ろしてくれた。順位は二着だったらしい。審査員がやって来て、吉継にお題のチェックをしていた。合格をもらったみたいで、僕は待機場所に戻って良いと言われた。
「そういえば吉継。吉継のお題って何だったの?」
「僕のお題か? 『何度生まれ変わっても必ず出会いたい存在』だな」
「んなっ……!」
吉継には、本当に敵わない。僕なら素直にいえない事を、こうも易々と……僕だって、何度生まれ変わったって、必ず吉継に出会ってみせるんだからね! 僕、結構執念深いんだから!
――
マンドラゴラ
ナス科マンドラゴラ属の植物。
幻覚、幻聴の神経毒が根に含まれている。
ファンタジーとしては、人の様に動き回って、叫び声を上げる存在として描かれている。
うるさい。




