25話 開会式
さて、今日は待ちに待った体育祭。父上達も仕事を休みにして応援に来てくれた。無様な所を晒さない様にしなければ、と気合を入れていると、近づいて来た兄様が乱暴に僕の頭を撫でながら激励の言葉を贈ってくれた。
「みっちゃん! いよいよだな。無茶はするな……って言いたいけど、言ったところで無茶をするのがみっちゃんだしなぁ。ま、怪我はするなよ、三成」
「うん。ありがとう、兄様。無茶は……うん、善処するよ」
「うたちゃんも、怪訝するなよ。それと、みっちゃんが無茶しないように見張っててね」
「もちろん。みっちゃんは私がちゃんと守るから!」
「えっ、僕が守られるの? 僕が守るんじゃなくて?」
兄様達と話をしているうちに先生から号令がかかった。いよいよ開会式だ。
「――以上で学園長先生の話を終わります。次は、選手宣誓。今年の御籤で選ばれたのは、三年武蔵組の平将門君、二年桃山組の石田三成君です。平君と石田君は前に出て来てください」
先生達の長い話が終わって、選手宣誓の時間。この学校では、選手宣誓の生徒をおみくじで選ぶらしい。現代の感覚に慣れた僕は少し驚いたけれど、昔の感覚からすれば納得だ。昔のおみくじは神様の意思だったのだから。
選手宣誓は今までの学校と違って、二人バラバラにするらしい。初めての僕には、あまりよく分からないから、将門公に先にやってもらうことにした。
「せんせー、ことしは、オカルトけんきゅうぶが、かつよー」
えっ!? こんなので大丈夫なの?
僕の混乱を他所に、今度はとうとう僕の番だ。えーっと、何を言えばいいんだ!?
「せっ宣誓! えっと、えー……」
ダメだ、何も浮かばない! 何で、あらかじめ何か考えて来なかったんだよ僕! どれもこれも、頼朝公のせいだ!
「……えーっと、よ、頼朝公はぶっ飛ばす!」
あっヤバ。コレは流石にダメでしょ。名指しでぶっ飛ばすって宣言しちゃったし。
なんか、ちょっと、キャパオーバー、かな、めまいが……
「きゅー……」
「石田君!?」
「みつなりくん!? だいじょーぶ!?」
将門公たちが、なにか言ってるけど、よくわかんないや……
気が付いたら僕は保健室に居た。選手宣誓の時に気絶したらしい。本当に恥ずかしい事をした。
「石田君、気が付いた?」
「あ、はい。ありがとうございます、先生」
保健室の少彦名先生が声をかけてくださった。先生は、僕が少し落ち込んでいるのに気がついたからか、悪戯っぽく笑って励ましてくれた。
「石田君が失敗した訳じゃないさ。選手宣誓は毎年こんな感じだぞ? 特に、戦国の世を生きた面々が選ばれた年は本当にブッ飛んだ宣誓になる」
「そう、なんですか?」
「そうそう。君のお母さんは『優勝したら正継さんに告白する!』だったし、明智光秀君は『本能寺を燃やしたい!』だったな」
「僕の方が、圧倒的にマシなんですね……」
「言ってる事はマシだけど、気絶は初めてだったな。君も、大人しくても戦国武将だったって、再認識したよ」
……なんだろう。こんな事で再認識されても嬉しくない。でも、失敗した事をいつまでもウジウジ言ってたって意味がない。切り替えて宣言通り、頼朝公をぶっ飛ばさないと!
――
今回の初出人物
少彦名命
『古事記』『日本書紀』に登場した神様。医療関係の神社で祀られている。
日ノ本高校の保健室の先生。
たまに、生徒と一緒にイタズラを仕掛けてくる。
明智光秀
本能寺の変で織田信長を討った戦国武将。
日ノ本高校の卒業生。
寺を見ると火をつけたくなるらしい。
御籤
おみくじ。現代では運試し程度だけど、昔は神様の意思を聞くための大事な儀式だった。




