19話 文芸部
今回、見学に行く部活は校内イチの勢力を誇る文学部だ。文芸部の部室に向かうために教室を出ようとしたとき、秀吉様に呼び止められた。何かあったのかと思っていると、文芸部の部長には注意するようにとのことだった。なんでも、部長の源頼朝には、洗脳系の転生能力があるのだそう。
秀吉様に言われたことを思い返しながら廊下を進む。文芸部の部室は生徒会室のすぐ隣。僕に何かあれば助け舟を出すと副会長殿も言ってくれた。ノックをして部屋に入ると、文芸部の幹部級であろう腕章をつけた三年生が僕に声をかけた。
「お前が石田三成か。私は源頼朝。お前もESSなどという野蛮な場所から脱出し、我が文芸部に来ないか? お前の能力、ESSにはもったいない。」
「……はい?」
多分、今、僕は顔が引きつっている自覚がある。でも、誰が予想できただろうか、いきなり退部を勧められるなんて! ここに居るのが僕ではなく、吉継あたりなら、頼朝公の発言には何か真意が隠されているのではないか、と考えるだろう。でも、不器用な僕にはそんなこと出来っこない。……単に、僕の仲間を侮辱されて怒ってるっていうのもあるけど。
「貴方は、一体何なんです! 文芸部に来ないかですって? 行くわけないでしょう、僕の大切な人達を侮辱するような所に!」
「……? 何を、」
嗚呼、イライラする! 彼が無自覚にこっちを煽る言い方になっているのも含めて、すごくムカつく! 僕がこんなに怒ったの、家康以来だ。今はまだ、理性で抑えが効くけれど、殴りかかるのも時間の問題だ。
「大切な……? お前、奴らに洗脳されているのか? ならば私が助けてやろう。『山より高く、海より深く、』お前は、私のカゴの内」
一瞬、思考が途切れそうになった。コレが彼の能力か。そんなことより、もう我慢ならない。コイツ、あろう事か、僕が洗脳されてるとか言い出した! それに加えて『私が助けてやろう』だと? 一周回って冷静になった。コイツは潰す。僕が。絶対に、だ。
「貴様ッ……!」
「わっ、わーーーーっ!センパイっ、ボク、石田センパイを連れて、ちょっと外に行ってくる、よ☆」
独特な話し方の一年生が僕の手を引いて部室から出る。正直、助かった。あのままだと彼の顔面が僕の拳でヘコんでいたかも知れない。僕にそれだけの腕力があれば、だけど。
「ふーーーぅ☆ここまで来ればいい、かな☆あ、名乗り遅れたね☆ボクは木戸孝允、ヨロシク、ね☆」
「ここまで連れて来てくれたのには感謝します。が、僕は貴方がたとは、よろしくするつもりはありません」
木戸孝允か。確か、中学校で習ったな。家康の幕府を潰した政府の一人。一途な人だった、と聞いていたけれど、なんだか軽そうな人だ。そしてムカつく。
「うーん、仕方ない、か☆……ま、ボクとしては部が大きくなれば頼朝センパイはどうでもいいけど、さ☆あんなのでも、色々あるんだよね☆傍で見てると何だか放って置けなくって☆」
「そうですか。ですが、それがなんだって言うんです? そんな理由では、彼が僕の友人に対して言った事は、ナシにはなりませんよ。……僕、帰ります。彼を前にして冷静に居られる自信がない。頼朝公には適当に誤魔化しておいて下さい」
秀吉様が部長に注意しろとおっしゃるのは、今回で理解できた。僕と彼らは根本的に合わない。傲慢ともいえる態度の部長に、諌める事なく媚びへつらう部員。僕が大嫌いな構図だ。でも、大嫌いだからと言って交流を避ける事ができないのも事実。……胃が痛いなぁ。
――
今回の初出人物
源頼朝
鎌倉幕府を開いた人。
文芸部の部長。
傲慢な態度と言葉選びだが、その真意は……?
木戸孝允
維新三傑の存在が薄い人。桂小五郎とも。
文芸部の会計。
目的の為なら汚れ役もこなす。
『山より高く、海より深く、』
鎌倉幕府が後鳥羽上皇と戦う時に北条政子が大名たちを前に言った言葉の一部。「頼朝様のご恩は山より高く、海より深いから、お前らは幕府のために、朝廷相手に戦ってくれるよね?(意訳)」
転生能力としては、頼朝に助けられた心当たりがある人間は頼朝に従いたくなってしまう、というもの。三成のように「はぁ? そっちが勝手にやっただけでしょ?」なタイプや、平家の人間、清正のように人間でない相手には効かない。




