2話 ESS部
放課後。僕は大量の書類を前に悲鳴を上げていた。
秀吉様が困っているとは言っていたものの、まさかここまでとは……普通なら過労死モノだ。
部長の織田信長様は「いや〜、佐吉が来てくれて助かった!オレ達はこういうチマチマしたの、苦手でなぁ……アッハッハ!」と笑っていた。――本能寺の変が何で起きたのかが少しわかった気がした――
活動記録を見るに、この部活はESS部を名乗ってはいるものの、やってることは控えめに言ってかなり自由だ。
最初の頃はまだいい。真面目……かはさておき、英語に関する活動をしていた。
だが最近はどうだ。
曰く、海外文化が知りたいからGWに海外旅行をする。
曰く、海外の人とコミュニケーションが取りたいから兄弟校の西洋高校、東洋高校に殴り込みに行く。
曰く、海外料理の研究と称して中華街で買い食いをする。
曰く、曰く……
はっきり言って無法地帯だ。いつの南北朝時代だよおバカ!
本来は僕以外にも会計係がいたらしいがこれらの無茶無謀に耐えきれずに逃げたのだとか。
「……秀吉様。正気です? この仕事量」
「あー、うん。頑張って。ワッシとヤスも手伝うからさ……」
「……ファイト」
秀吉様も家康も遠い目をして答える。2人が手伝いを申し出るのだ、きっと戦国の頃よりも激務になるにちがいない。
うん。はっきり言って心が折れる。転生前でもこんな量の書類は見なかった。僕だから大丈夫だけど、他の人が逃げるのは仕方のないことだと思う。
とりあえず、手伝いはありがたいのでお礼を言っておく。
「秀吉様……ありがたき幸せです……」
「うーん……」
信長様が難しい顔をして唸っている。僕、何かやらかしたのだろうか?
もしかして……どこかに焼き討ちを仕掛ける気なのか!?
「信長様?」
声をかけると信長様はカッと目を見開いて言った。
「そう、それだ! 佐吉、オマエは真面目すぎる! 今は主従じゃなくて同級生だぜ?もっと気安く接しろよ! 部長命令な!」
突然の部長命令。今はただの同級生でしかないことは頭ではわかっている。それでも、やっぱり尊敬する方には丁寧に接したい。
それに今更気安くなんて言われても……
「は……? はぁ!? いきなり言われても困るんですけど!?」
「そんじゃあ、そうだなぁ……ワッシのことをヒデって呼んでみなよ」
まさか、まさかの提案。秀吉様、ちょっと軽すぎません?
「ヒェッ……! そっそんな、恐れ多いことを……!」
「……三成……余は……?」
家康が空気を読まずに突っこんできて思わずイラつく。……もしかして福島達もこんな気分で僕と話していたのだろうか? アイツらには少し悪いことをした気分だ……いや、今はそれじゃない。家康だ。
「空気を読めくださいよ家康ゥ! 今は尊敬する秀吉様からあだ名で呼ぶことを許されて『はわわっ……』ってやってるところでしょうが!」
そもそも、家康は家康で充分だ。あだ名を考えるにしても思いつくのは「タヌキ野郎」程度。僕のネーミングセンスの無さは石田家イチなのだ。兄様から「ペットの名付けは私かうたに任せなさい」と言われたのはいい思い出だ。……転生前はそんなこと無かったのに、なんでだろう?
「ヤスには気安くできるのにねぇ………」
「まっオレらに対してのことはまた追々、な!」
「ワッシらも佐吉に馴れ馴れしくしてもらうためにちょっとだけやる気を出そうか。ねえ、部長殿?」
秀吉様と信長様が何か話し込んでいる。……むむむ。内容はわからないけれど、なんだかいい雰囲気で書類仕事をごまかそうとしている気配!
「……あっ! ああーーーッ! なんかちょっといい雰囲気になってごまかそうとしても無駄ですよ! 僕に会計をさせるなら上役もキリキリ働いてもらいますからね! 特に秀吉様! ……じゃ無かった、ヒデ……様! 怠けないでくださいね!」
少しだけ秀吉様に対して不敬な気がするけど大丈夫だよね?うん。そもそも、サボろうとしたのは秀吉様だから。
「でもまあ、この調子ならすぐにでも態度を崩してくれるだろ」
「今後に期待だね」
……なんだろう。何を言ってもムダな気がするような……
「ちょっと! 聞いてます!? 未提出の部費の回収に行ってきます! 行きますよ、家康!」
「……うん」
家康の首根っこを掴んで部費の回収に向かう。家康なら不敬とかはないでしょ。たぶん。だって、身分は僕の方が低かったけれど、最終的には敵将同士だったから。
殺し合いをした相手に遠慮は無用。ガンガンこき使ってやります!
「行ったか?」
「行ったねえ」
部室に残っているのはワッシと御館様の二人。今は全員出払っている。
「さて、今年の体育祭についてだ」
「うん。今年は勝てそうかい?」
「応とも。佐吉が入部してくれたおかげで兵站が間に合いそうだからな」
「……去年はそれで負けたもんね……」
去年の苦い記憶がよみがえる。兵站がしっかりしていなかった為に最後で逆転負けをしたのだ。
「それに、佐吉の能力なら毎年人手不足の体育祭実行委員に恩が売れる」
「確か、あっちも会計係が極端に少ないんだっけ」
噂程度に聞いたことがある。体育祭実行委員は毎年数人程しか集まらないのだとか。
そんな中に佐吉を投入する。……忙殺される佐吉には申し訳ないが実行委員はあの子を崇めるだろう。だってあの子、計算関係はホントに出来る子だもの。
御館様はそこにつけ込んで忖度をしてもらうつもりらしい。
普通ならこんな事はできないがココは日ノ本高校。現代の法律に違反しない限りある程度は自分たちの生きた時代のくらし方ができる。つまり、現代で言う汚職まがいの事もバレなければ問題ない。
さあ、下剋上の相談を続けようか。
――
今回の初出人物
織田信長
本能寺の変でやられた人。いろんなゲーム、マンガなどで主役になってる。
少年マンガの主人公みたいな雰囲気を出してる。転生前より知能が下がってる。
福島正則
五奉行の一人で三成ガチアンチの東軍の人。徳川政権で最初に改易されたちょっと可哀想な奴。
まだ直接会っていないため今は三成のイマジナリーフレンド状態。
1〜2話のキャラクターデザイン