16話 クッキング同好会
昨日は、本当にひどい目にあった。あの後から僕は、授業以外では綱吉に会わないようにしている。会うたびに発狂なんて嫌だ。生徒会長殿達もさすがに申し訳なく思ったのか、今日は、主要では無いものの、少し大きく和気あいあいとした雰囲気の部活を見学させて貰える様になった。
今回は部員の人が迎えに来てくれるらしいので、一緒に行きたいと言った吉継と共に教室で待つ。吉継が言うには、僕の知っている人らしい。
「お久しぶりやね、石田様」
「利休殿! 四百年ぶりだね」
迎えに来てくれたのは、前世で知り合った茶人の千利休殿だった。利休殿が来たと言うことは、今回は茶道部なのだろうか。
「利休殿。利休殿の部活は茶道?」
「いんや、クッキング同好会をやってますねん。せっかくの第二の人生やし、楽しんだモン勝ちやと思うんです。知らんけど」
「それに三成、利休殿の料理は美味いんだ」
「そうなの?」
以外だなぁ。利休殿は、今世でも茶道を極めるんじゃないかと思ってた。料理ができるとは思っていなかったけど、吉継がいうなら、相当美味しいんだと思う。
クラブ用の校舎・出雲棟ではなく、授業用の校舎・山科棟の廊下を歩いて調理室に着いた。調理室からは美味しそうな匂いがしているけど、時々、爆発音が聞こえてくる。……大丈夫だよね、この部活?
「り、利休さん? なんか、爆発してます?」
「あぁ、伊達様が遊びに来ちょりますね。あの人、転生能力で料理できるんは、ええんですけど、いかんせん作るときに爆発すんのが、心臓にわるいんです」
「伊達様……伊達政宗殿か。あの人、確か前世から料理ができたっけ」
伊達殿はクラスが同じだから話すことはある。それでも、転生能力の話は知らなかった。そして、伊達殿の料理上手は戦国の頃から有名だったけど、作るときに爆発するのは嫌だなぁ。利休殿に促されて調理室に入ると、中で伊達殿がフライパンから何かを皿に盛りつけているところだった。
「伊達様、調理室で爆発させんのは、やめい言うてますやん。転生してアホになりました?」
「おお、利休。遅かったじゃねぇか! ちょっと場所、借りてたぜ。そして、俺はアホにはなってねぇよ! ……おっ、石田に大谷じゃん。さっきぶり!」
「さっきぶりだね、伊達殿。そういえば、何作ってたの?」
「おう、卵焼きだ! 味見するか?」
そう言って伊達殿が出した皿には、黒い、炭のような、名状しがたいナニか乗っていた。……これ、本当に食べ物なのか? もし、食べ物なら、食材に対する冒涜だと思う。僕が返事を忘れて絶句していると、吉継が何のためらいもなく、自称・卵焼きだと言うナニかを食べた。
「うん、いいんじゃないか?ただ、僕と三成の好みはダシ多めだ」
「ん、了解。また今度、作ってみるから味見は頼んだぜ」
「よっ、吉継? アレ、食べて大丈夫なんです? ってか、アレって食べれるんです?」
僕が問い詰めると、吉継は困ったような顔で笑った。
「まァ、初めて見ると、どこからどう見ても暗黒物質だからなァ。一応、見た目はアレだけど味と品質は保証できる、といったところか」
「そんで、付け加えますと、伊達様のんは美味いんですけど、真田兄弟のんは見た目はええんですけど仲身は激毒なんで気ぃつけてくださいね」
何だか、世の中、ままならないなぁ。信繁と真田殿には申し訳ないけど、彼らの手料理は口にしないでおこう。
――
今回の初出人物
千利休
安土桃山時代にわび茶を大成したすごい人。
クッキング同好会の部長。
たまに乱入する伊達政宗に胃がキリキリしている。
伊達政宗
仙台の領主。料理好きで有名な戦国武将。
野ッカー部(野球とサッカーを同時にする部活)の部長。
料理の見た目はダークマターだけど、味は一級品。
真田信繁
日本一の兵とも言われる戦国武将。幸村の名前の方が有名。
野ッカー部の副部長。
料理の見た目は完璧だけど、味はダークマター。
真田信之
信繁の兄。信幸とも。
野ッカー部の会計。
苦労人ではあるけれど、弟と一緒に周りを振り回すことの方が多い。




