15話 動物を愛する会
今日、見学する部は、正式な部活ではないけれど、勢力の大きい所らしい。そして、部長は家康の従兄弟なんだとか。正式な部活でないため、部室を持たない代わりに、中庭で活動をしている、『動物を愛する会』だ。
「……貴方、見学ですね。……見えます。見えますよ。……貴方、狐憑きですね?」
「だっ、誰!?」
「……失礼。私、徳川綱吉と申します。動物を愛する会の会長です。……さて、私の質問に戻ります。……貴方、狐の神霊に憑かれているでしょう? ……私には見えます。私には、わかります」
ぶ、不気味だ。一体なんなんだ、狐に憑かれてるって。もう、いっそ、この人がオカルト研究部に入るべきだったんじゃないか? 僕がたじろいでいると、綱吉が後ろに控えている部員たちに声高に言った。
「貴方達! お犬様がいらっしゃった! 狐は犬科! よって、狐憑きのこの方は、お犬様! 丁重にもてなしなさい!」
「だ……誰が、誰が豊臣の狗だ、バーーーーカ! トリカブトぶつけるぞ、このアンポンタン!」
僕は! 狗なんかじゃ! ない!
僕が息を切らせながら言いきると、綱吉をはじめとした会員達が、下を向いて震えていた。……ヤバい、言いすぎたかも。僕が少し反省しようとした時、急に綱吉が高笑いをしだした。
「……ふふっ。ふふふ、あははははは! いいです、とっても良いですね! お犬様からの施しであれば、毒も甘露となりましょう!」
「……っ! くそっ、何を言っても無駄じゃないか! 家康ッ! いーえーやーすぅーっ!」
もう、ここまで来れば、いよいよヤバい。事前に家康から、僕の手に負えなければ助けを呼ぶように、と言われていた。それにしても、遅いな、家康。呼べばすぐに来るって言ってたのに。綱吉が、こちらに向かって、少しずつ詰め寄ってくる。……全然来ないじゃないか、家康のバカ。バカ康め。
「ミツナリッ!」
「吉宗!? 何で、吉宗が?」
「話は後だ! アンタ、アイツの足止めはできるか?」
急な事で驚いたけれど、吉宗がいるなら心強い。僕は、制服のポケットにあらかじめ仕込んでいた球根を投げて、能力を発動させる。
「咲け、絡みとれ! 左近花!」
今回の左近花は佐々木殿対策に強化したものだ。人の力では、よほどの事がない限り破られる事はない。案の定、足を取られている綱吉に、吉宗が背後からまわり込む。
「ツナヨシ、テメェ! ちったぁ自重しろや!」
「ガフッ!?」
吉宗が力一杯、綱吉をハリセンで叩く。音が派手で痛そうだ。吉宗が持っていた迷子紐で、綱吉を遅れてやって来た信長様と秀吉様に引き渡すと、僕の方に振り返った。
「わりぃ、今回は身内の恥を晒しちまったな」
「いや、大丈夫。それより、彼と家康は?」
「叔父貴は階段でヨシツグを巻き込んで転んだんだとよ」
吉宗が一度、話を切って言い淀む。もしかして、綱吉の話はタブーだったのか?
「ツナヨシは、今は大丈夫だ。アンタは……知っておいた方がいいな。アイツは、転生能力が未だに安定していないんだ。普段は大人しいモンだが、動物関連の事に関わると、ああやって狂ったような態度になって、最終的に呪いを振りまく。本人曰く『犬神』だ。アンタは、お犬様認定をされているから、細心の注意を払えよ」
吉宗は言うだけ言って戻っていった。それにしても、犬神、か。何だか碌でもないことが起きそうな、嫌な予感がするなぁ。
綱吉が、去り際に「嗚呼、最高のお犬様が来た。犬神様の顕現はもうすぐだ……」と呟いていたのを聞き逃していて後悔するのは、また別の話。
――
今回の初出人物
徳川綱吉
生類憐みの令を出した犬公方。生類憐みの令発布以前はマトモだったのにね。
動物を愛する会の会長。
わんわんお。U ´ ω ` )




