14話 和歌同好会
今まで会計の仕事で忙しかったから気づかなかったけれど、僕は転校してすぐにESS部に入ったから、この学校にどんな部活があるのかを、まったくわかっていない。そこで、信長様と生徒会長殿に相談すると、僕はもう部活に所属しているため、主要なものしか周れないけれど、部活見学の許可をいただけた。
そして、今日は、その第一回目。和歌同好会に来ている。事前に聞いた話だと、和歌同好会は、部長以外は女性しかいないらしい。本来なら、男性も入部できるけれど、部長が怖くて、みんな逃げてしまうんだとか。――なんなら、佐々木殿と将門公も震え上がっていた――
ESSの部室から三部屋離れたところにあるドアを開けると、うたが居た。僕はうたの入った部活を全然知らなかったけれど、同じ階にある部活なら、僕の部活を知っていたのも納得だ。
「みっちゃん! 卑弥呼ちゃんから話を聞いて、みっちゃんが来るの、待ってたよ!」
「うた! びっくりした。うたって和歌、興味あったっけ?」
「いんや、全く! 初芽ちゃんから誘われて入ったんだぁ」
「そうだったんだ」
僕とうたが話をしていると、女子制服を着た、部長であろう男子生徒が来た。……んん? 女子制服を着た?
「アナタが見学のコ? とっても、うたちゃんに似ているわねん! アタシは和歌同好会の部長である紀貫之よん、ヨ、ロ、シ、ク、ネ!」
「ひゃいっ! 石田三成ですっ!」
紀貫之? この人が? 驚いた。現れ方もそうだけど、紀貫之の性別に。あの人、男だったんだ。そして、僕は、昔からよく本を読んでいた。その中には当然、『源氏物語』や『太平記』、『土佐日記』があった。特に、『土佐日記』は僕のお気に入りだ。だからこそ、僕は、紀貫之のサインが欲しい! 前世なら無理だけど、今世ならできる! こういう時、転生してよかったと思う。
「あのっ、僕、貴方のファンです! サインしてください!」
「あっらぁーー! カワイイじゃなぁい! サインくらい、いくらでもしてあげるわよん! それに、そんな堅苦しくしなくてもいいわ! 『きぃちゃん』って呼んで頂戴!」
「うん、きぃちゃん! ありがとう!」
「うふふ、みっちゃんなら、きぃちゃん先輩と仲良くなれるって思ってた。サイン、よかったね」
「うん。ありがとう、うた」
とても変わった人だけど、周りが言うほど怖くはなかった。人生経験の豊富そうな、面倒見のいいタイプの人だ。本人は、あだ名で呼んでほしいみたいだけど、個人的には『きぃちゃん』より『姐御』って感じだなぁ。ついうっかり、口を滑らせないように気をつけないと。
その後、また遊びに行く事を約束してESSの部室に戻って信長様に報告すると、ひどく驚いた顔をしていた。何でだ?
――
今回の初出人物
紀貫之
『土佐日記』の筆者で(おそらく)日本最古のネカマ。
和歌同好会の部長。
『圧が強い』と怖がられがち。
初芽局
元は徳川方だったけど石田方に寝返った忍者。三成の側室とも言われている。が、後年の創作である可能性が高い。
和歌同好会の部員。
うたの親友。




