13話 オカルト研究部
一昨日の土曜日以降、僕はありのままの自分を出して、周りに甘える事ができるように意識していた。とはいえ、転生を自覚する前から無意識のうちにやっていた習慣は、そうそう抜けるはずもなく、今のところは、可もなく不可もなく、といった風だ。そして、今日も今日とて、何故か僕に懐いた将門公がクラスを訪ねてきた。
「みつなりくん、なんか、ふんいき、かわった?」
「うん。なんと言うか、まあ、吹っ切れたって感じかな」
「そっか。よかったね」
将門公は、初めこそインパクトが強くて驚いたけれど、実際は机を突き合わせて一緒に勉強をする、といった風に至って穏やかなものだ。クラスのみんなも、将門公の様子に驚いていたけれど、今では、わからない問題を教えてもらったりしている。
「そうだ、みつなりくん。きょうの、ほうかごは、じかん、あいてる?」
「放課後? 空いてま……空いてる。何かあった?」
「おれの、ぶかつ、みせてあげる。ほうかごに、むかえにくるね!」
教科書とノートを片付けた将門公は、言うだけ言って戻って行った。あの人、来るのも帰るのも急なんだよなあ。僕も、そろそろ片付けないと。次の授業はとても厳しいことで有名な先生だからね!
――
放課後になって、将門公が約束通り僕を迎えにきた。なんでも、公の部室は部員の案内がないとたどり着きにくいのだとか。廊下を歩いていると、まだ明るい時間帯のはずなのに辺りが暗くなってきた。不気味に思って、内心で恐怖に震えていると、いきなり将門公が振り返った。
「みつなりくん! ここが、おれたちの、ぶしつだよ!」
「ここが? 何もないけど……」
「よくみて。これが、どあのぶ、なんだよ」
言われてみた所を目を凝らして見てみると、確かにドアノブのようになっている。開けてみて! という公の声を受けて、ドアを開ける。廊下は夜のように暗かったのに、部屋の中は夕焼けのようだった。部員の人達が何かの道具を囲んで呪文のような言葉を呟いている。そのうちの一人が、ふと、顔を上げて僕らの方を見た。彼、どことなく家康に似ているなぁ。
「よしむねくん、けんがくのこ、つれてきたよ!」
「おう、ありがとな、将門センパイ! アンタがセンパイの言ってたミツナリ君か。いつも、センパイと叔父貴が世話になってるな! オレは徳川吉宗。よろしく」
「僕は、今年から転校してきた、ESS部会計係の石田三成。その、『叔父貴』って、もしかして、家康のこと?」
「おう!オレのお袋の弟なんだ」
僕の疑問に答える吉宗は、部屋の薄暗さも相まって、とても眩しい。その眩しさは、どうしてこの部活なのか、小一時間ほど問い詰めたいくらいだ。そう思っていると、案の定、顔に出ていたらしく、吉宗が入部の理由を教えてくれた。
「オレがこのオカルト研究部にいる理由、知りたいんだろう? まあ、大した理由じゃねえんだけどさ、オレ、オバケとかが大の苦手なんだよ」
「ええっ!? それなら、何でまた」
「だからこそ、オバケ嫌いを治そうと思った。それだけだ」
吉宗はすごい。僕なら、楽な方に逃げて克服なんてしようともしない。態度のことも、そうだ。気を抜くと、すぐに殻を作ろうとしてしまう。
「すごいなあ……僕も、頑張らないと」
「そうか? アンタも充分すごいと思うけど」
「僕、すぐにネガティブになって苦手な事から逃げようとするけど」
「それでも、肝心な事からは逃げないだろ? 今も前も、叔父貴が絶賛してたし、アンタが佐和山でやってた政策、徳川の治世でも引き継がれてたんだぞ」
「そう、なんだ。なんか、照れ臭いなあ」
でも、なんだか少し嬉しい。僕のやった事って無駄じゃ無かったんだなあ。
「みつなりくん、きょう、これて、よかった?」
「うん、とっても」
将門公が僕の顔を覗き込むようにしてたずねる。公にも、心配をかけていたのかもしれないな。申し訳ない。それでも、吉宗と話して、得るものが大きかったからいいや。
――
今回の初出人物
徳川吉宗
米将軍や暴れん坊将軍とも呼ばれている紀州出身の江戸幕府の第八代将軍。目安箱で民衆の意見を聞く政策もとっていた。
オカルト研究部の副部長。
米を操る能力がある。




