9話 生徒会
――部活専用校舎・出雲棟――
出雲棟の三階に位置する生徒会室で役員達は皆必死になって算盤を弾いていた。会計係である小野妹子は目の下に濃いクマがはっきりと浮かぶほどだ。
「かいちょ〜……ボク、もームリですぅー……いつまでたっても同じ数字ばっかりじゃないですか〜」
「我慢なさい……と言いたいところですが……さすがにそうは言ってられませんね……」
「ええ、和算では限界がありますね……」
米神を押さえがらボヤくのは生徒会長の卑弥呼。人間とアンドロイドの双子だ。
「そういえば、最近のESS部は会計関係が改善してきているね」
「大友くんが復活した感じ?」
「いや、新しく石田氏が会計係になったって聞きましたぞ」
「あー、だから織田くんが腕章取りに来たんだ」
最近のESS部が勢力を以前より増してきていることについて話し合っているのが副会長の中大兄皇子、書記の厩戸王に広報係の天武天皇だ。
少し思案して中大兄皇子が椅子から立ち上がる。
「うーん、それじゃあ少し、石田君と交渉してこようかな。厩戸王もついてきてほしい」
「うん、いいよぉ」
――
「こんにちは、君が石田三成? 僕は生徒会副会長の中大兄皇子。よろしくね」
「ボクチンは書記の厩戸王さ!」
「はあ、どうもです……?」
昼休みに部室で昼食を食べていたら生徒会の方に話しかけられた僕です。
僕、何かやらかしたか? もしかして部室は飲食NGだった? 信長様は大丈夫って言ってたけどあの人、かなりいい加減なところがあるからなぁ。
「今日は君個人にお願いがあってきたんだ」
「お願い……ですか……?」
あ、注意じゃないのか。なら安心だ。
「キミの計算能力を生徒会のために役立てる名誉を与えてあげようと思ってね!」
「……はい?」
ちょっと何言ってるのかわからない。というか、言い回しが高飛車すぎやしないかこの書記殿は?
「こら、人にものを頼む態度じゃないだろう。ごめんね、石田君。彼にはこの後、ちゃんと言い聞かせておくから。厩戸王はちょっと黙ってて」
「あっハイ」
「で。僕らのお願いっていうのはね、生徒会の会計の仕事を君に手伝ってほしいんだ」
生徒会の仕事を手伝う? 僕が? 生徒会ってそんなに人手不足なのか? そもそも僕はESSの分で手いっぱいだし。無理でしょ。
「もちろん、ただでとは言わない。手伝ってくれるなら君の契約できる足軽の数を増やしてあげよう」
あ、それはすっごく魅力的。手伝ってくれる人が増えるのは単純にうれしい。
でも、何か、こう。何かが引っかかるような……
「もしESSのことが気になるなら、手伝う間だけ腕章を外すといい。何なら生徒会の腕章を貸し出そう」
……! それはダメだ。腕章を外すのはESSに、みんなに対する裏切りだ。
そんな不誠実なこと、僕にはできない。
「すみません。僕にはできません」
「それは、なぜかな?」
「一時とはいえ、腕章を外すことは部に対する裏切りです。僕はそこまで不誠実なことは無理です」
「……事実ではあるけれど、ハッキリ言うね……」
「それが、僕ですので」
副会長殿が目を細めて言うけれど、ぶっちゃけ怖い! 顔のいい人の目を細める仕草はホント怖いんだからな!
「……そっか。それなら、この話は無しだね。それにしても君、本当に生きづらそうな人だね」
「石田三成は、そういう人間ですから」
ホント、損な生き方だとは思うけどね。秀吉様や僕の友人達はそんな僕が好きだと言ってくれた。ならば僕は、僕らしく生きるだけだ。
「それじゃあ、僕はもう戻るよ。またね、石田君」
「ええ、お力になれず、すみません」
副会長殿はさっきまで目を細めていたのが嘘みたいな笑顔で去っていった。……だから、そう急に表情を変えるのは怖いからやめてってば!
――
生徒会室へ向かう道中、中大兄皇子はガックリと項垂れていた。
「あーあ……やっちゃったよ……ついうっかり言ったけど、腕章の下りは悪手だった……」
「そーだねぇ……マジで、なんて報告しようか……」
先の会話を思い出しながら厩戸王が言う。
「とりあえず、石田君の忠義心を甘くみすぎていた、と。もし、もうどうにも立ち行かなくなったら土下座でもして頼み込めばいい」
彼も、僕らの事を嫌ってる訳じゃないみたいだし、と言って苦笑する中大兄皇子は部屋に向かう速度を速めていった。
――
今回の初出人物
卑弥呼
邪馬台国の女王。九州説と畿内説がある。
生徒会長で片方が人間、片方がアンドロイドの双子。
どっちが人間かは本人のみが知る。
中大兄皇子
天智天皇。大化の改新をやった人。
生徒会副会長。
白馬の似合う王子様系イケメン。
厩戸王
聖徳太子。冠位十二階を制定した人。
生徒会書記。
身内には結構フランクな話し方をする。
小野妹子
遣隋使で厩戸王の書いた手紙を皇帝・煬帝に届けた人。
生徒会会計。
かなり苦労人。
天武天皇
中大兄皇子の弟。飛鳥浄御原宮を作った人。
生徒会広報係。
見た目は中大兄皇子にそっくりだけど中身は法律オタク。




