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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     志高く

一話分抜けていました。本当に申し訳ありません。

二章最終話を追加しましたので、そちらをご覧下さい。

 一向に襲い掛かる妖怪の集団。

 馬の姿をした妖怪が突進しようと前足で地面を蹴る。

 そこへ、何処からともなく歌が流れ出す。

 淡く、切ない旋律に妖怪は戦意を喪失する。

 隙を逃さず衿泉がたたみかける。両手に握られた双方の剣で斬りつける。

 悲鳴にも似た奇声を上げ、倒れる妖怪。じゅうっと音を立てて黒い身体は浄化されていく。死体を残すのも気味が悪いので黎琳が気を流しているのだ。

 「春零の歌はかなり効果があるようだな」

 「春零は戦えないので、このような形でしか役に立てませんけど……」

 「何言ってるんだよ、それだけでも凄い事さ!」

 ぽんぽんと頭を叩く衿泉。俯く春零の顔は真っ赤だ。

 踏み入ってはならないような空気がその場にあった。

 むうっと唸って、わざと気付かないふりして黎琳は二人の間に割って入る。

 「それよりも、気付いているか。都に近づくにつれて妖怪の数が増えている事に」

 「言われなくても分かるさ。昨日は三回でくわしたのが、今日は五回目だ。しかも一つ一つの集団の頭数すら増えている」

 何だかまるで、都から妖怪が湧き出ているかのように。

 嫌な予感が的中しているような気がしてならない。

 急ぎたいのは山々だが、実力も上げておきたい。もし春零の村に現れた奴を相手にしなければならないのなら、確実に力をつけておかないと。

 「あの……こんな時になんですけど、衿泉さんってどうして強くなりたいんですか?どうして当てのない旅に出ようと?」

 「俺には帰る場所がなくなってしまったからな。無力のせいで何も守りきれなかった。そんなのはもう沢山だ。真っ向から立ち向かえるような力をつける。そして、同じ思いを他の誰にもさせたくはない。俺がその理想の世界を叶える為に出来る事をしようという思いが強さを求める理由さ」

 その目は何か別次元の物を映し出しているように思えた。

 これを聞いた黎琳は感心と共に、疑念を抱いた。

 自分自身は何のためにこんな事をしているのだろうか、と。

 既に衿泉は自分自身の意思で戦いに道を見いだそうとしている。それに対して自分はどうなのだろうかと考えてしまう。

 ただ命じられて戦う自分は使い捨ての操り人形みたいだ。

 ――このままじゃ、駄目なのか?

 戦う意味を、戦いに生きる意味を探す必要があるのかも知れない。

 その先に、強さと明るい未来が待っているような気がして。

 「春零は最初、ただ村を追い出されて、あてがないからついていく事に決めました。でも、春零にも出来る事がちゃんとあるって知りました。こうやって一緒に行動するのも何かの縁なのでしょうし、春零は衿泉さん達のお手伝いをしたいと思います」

 と、春零の身体がふらついた。どうやら春蘭が表に出てきたらしい。

 「償い、と言うべきなのか分からないけど、人助けには貢献する。春零の歌の力はかなり役立つはずだ。あたしもこの子を守るためならいつだって身体をはってやる」

 「ってお前自身の肉体はねえだろ……」

 「それはそれ、だ」

 笑う二人。何だか除け者扱いにされたようで。

 少しむくれっ面をしてみる。急に自分の存在を思い出したように話題を振ってくる。

 「そう言えば、あまりお……じゃなくて、黎琳の事は聞いてなかったな」

 「え」

 「何処出身とか、何歳とかさ。名前と自分の身分を言っただけだっただう?」

 細かな事まで気にしてなかった。いつかは身の上話とかするだろうとは思っていたが、まさかここで言ってくるとは……

 話を聞きたいと言わんばかりに黎琳を見る二人。

 そんな二人の期待を裏切って、冷たくあしらう。

 「別にそんな事どうだっていいだろう。ただ、一つだけ言える事は……」

 少し含み笑いをした。

 「私もまた、帰る場所なんてない。それだけだ」

 問い正される前に踵を返し、先へと歩く。

 そう、帰る場所なんて無い。天界など、本来の帰るべき場所ではないのだから。

 「……」

 「黎琳も、帰る場所がないのですね。何だか寂しさを強さで押し殺しているように見えて仕方ないです」

 助けてもらった時はたくましく思えた背中がやけに細っこく思えた。

 が、次の瞬間黎琳に一匹の狼が襲い掛かっていた。

 「!」

 いつもぬかりなかったはずの彼女が完全に出し抜かれ、もろに攻撃を喰らっていた。

 そのまま倒れる黎琳に狼――の姿をした妖魔が乗りかかる。

 「黎琳!」

 剣に手をかけようとしたその時だった。

 まだ何もしていないと言うのに狼の身体は真っ二つに切り裂かれていた。黒い血を撒き散らし、狼は倒れた。

 血しぶきが飛び散り、黎琳の背中は黒い血で染め上げられていた。

 「おい!大丈夫か!?」

 すぐさま駆け寄り、黎琳を抱き起こす。

 「べ、別に平気だ……!」

 近い。衿泉の顔が近すぎる。

 動悸がした。息苦しさに黎琳は衿泉を押し退けた。

 立ち上がろうとするも、腰に痛みを感じ、すぐにへたり込んだ。

 ――この私が、動揺していたのか?……くっ

 「平気じゃないじゃないか」

 黒に紛れて赤い血が流れているのに気付いたらしく、衿泉が近づいてくる。

 もう放っておいてくれ!

 そう言いたかったが、声にならなかった。

 突然衿泉が黎琳を抱きかかえたのだから。

 「なっ……!」

 「走ったらそれほどかからないだろう。都でしっかり手当てしてもらおう」

 「馬鹿言ってんじゃない!確かにもうすぐ着くだろうが……、今すぐ降ろせ!」

 こんな傷、すぐに治す事が出来る。

 なのに衿泉は降ろそうとしない。逆に力を入れてしっかり担ぐ。

 「しっかり捕まっておけよ」

 「人の話を聞け!下僕の分際で……!」

 「聞かない。だって俺はお……黎琳の下僕じゃない」

 怒りを爆発しそうな黎琳にあっさりと衿泉は言った。

 「俺達は、旅仲間、だろ?」

 旅仲間。その響きがとても美しかった。

 水臭いです、と春零も頷いた。

 同じ境遇を持っていても、本質的に衿泉や春零とは違う。だって自分は、人間ではないのだから――。

 それなりに距離を置くべきだと思っていた。

 だけど、彼らは一人の黄黎琳として、仲間として、認めてくれているのだ。

 「それに、仲間一人救えない奴が本当の強さを持っているとは言えないだろうが。……黎琳には借りもあるからな」

 何だかくすぐったい。

 いつかはこの温かさから離れなければならない。だけど、今だけは。

 大人しく黎琳は志高き戦士に身を預けた。

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