表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
74/96

      託された思い

あけましておめでとうございます。

今年も龍神烈風伝を宜しくお願いします。


年末に予定していた更新を年始に変え、一気にまとめて更新する事に致しました。

これより三話更新しますので、どうぞ続きをお楽しみ下さい。

 「香耀!?」

 先程の反動で身体が上手く動かず、足がもつれかけながらも彼女の元へと走った。

 酷い有様だった。鋭利な刃物で皮膚も肉ごと裂かれたような傷跡が胸から腹にかけて数本刻まれていた。もう流れる血すらもさほどないと言わんばかりだった。

 そして力を使いすぎた後に見られる顔のやつれ様。見るのも痛々しい。

 「おい……しっかりするんだ、香耀!私はここに帰ってきたぞ!」

 その声に反応し、うっすらと目を開ける香耀。

 「黎、琳……」

 「香耀!」

 これ以上声を出させるのは危険だ。

 そう判断し、七神が使う気を使った一種の意思伝達法を使って彼女の意思に直接話しかける。

 ――私が居なくなった後に一体何があったんだ?

 弱々しく、彼女は答えた。

 ――結局主神と、一戦交えた……。怒りを、ぶつけた結果、だ

 何と無謀な事を。一介の七神の一員が主神に勝てる見込みなど一欠けらもないだろうに。

 それだけ怒りに震えたのだろう。本当に血の繋がった娘同然の存在を消し去ろうとしたのだから。

 玉座に機嫌の悪そうに座る主神を睨みつける。

 ――運命に抗った結果を、とくと見せるがいい……主神も、認めざるを、得ないだろう

 「私に託された真の力を知っていたのか!?」

 思わず声を出してしまった。

 ――あの父親、用意周到だったようだ……全てを知った上で、出来る術を全てかけていたらしいからな……挙げ句の果てには、術を使った手紙まで、死後に送ってくる、始末だ

 そこまで父上は子のために出来る事を全てやってくれていたのだ。未来への希望を決して捨てないで。

 ――黎琳、願いが、ある……

 ――何だ?

 ――黎冥を、そして、溜謎を……救ってやって、くれ

 思わず黎琳は顔をしかめた。黎冥は分かるが、一体どうして溜謎を救えと言うのか。あいつはこの地に災いをもたらした張本人である。その罪と共に葬り去る事はあれども、救う事など言語道断だ。

 その思考を読み取ってか、香耀が苦々しそうに言う。

 ――あれも……運命に、恵まれなかった、一人なのだ……今の、お前なら、出来るだろう……?

 そこまで懇願されては頷くしかない。

 安心したように、香耀は全身の力を抜く。

 その身体が砂となって零れ落ちていく。

 「駄目だ、香耀!お前は私の母親代わりとして、まだ側に居なきゃならないんだぞ!」

 返事をする事なく香耀は砂粒となっていく。

 「嫌だ!行くな……!香耀!!」

 引き止めようとその身体を抱えようとしたが、全て砂となって掌から零れた。まるで本人が望んだかのようにその砂は風に舞い上がり、手の届かない場所へと運ばれていく。

 咄嗟に掴んだ一握りの砂を抱きしめて、黎琳はその場にうずくまった。

 「黎琳、泣きたいなら泣いとけ」

 「私は、泣き方なんて、知らない……!」

 「それは知らないふりして泣かない事を習慣づけてしまったからだろ。ほら」

 「う……衿、泉」

 差し伸べられたその手を掴み、自分の元へと引き寄せる。がっしりとしたその胸にうずくまり、ようやく黎琳は全ての感情を表へと出した。

 「……ふ、ああ……あぁぁぁぁ!」

 涙に濡れる彼女を優しく抱き留める衿泉。仲間達も少しの間とは言え、行動を共にした香耀を思い、黙す。

 「主神、今回はやり過ぎたな」

 「蒼翠!」

 「本当の事でしょ。素直に認めないと、子供みたいだよ?」

 「……」

 姉の制止を聞かずに蒼翠は自分の意見を曲げずに主神へぶつけた。痛い所を突かれた、と言わんばかりに主神は何も言えなかった。

 「我が弟が出すぎた事を……申し訳ありません。しかし、貴方様は既に気付いておられると信じております」

 「そこで一緒に画策してた瞑雷も反省しようねぇ?」

 「!」

 柱の影に隠れていた七神が一人、瞑雷が姿を現した。もう隠れても無駄だと察して梅牒もこちらへとやって来た。

 「梅牒の術もお解きになられたらどうだろうか」

 緑晶が全て見え透いたと言わんばかりに言うので、主神は険しい表情を浮かべながら術を解いた。

 正気に戻った梅牒は慌ててその場に跪き、再び請うた。

 「もう一度、お考え直し下さい!そのような事をなされば、またあの子と同じような事に……!」

 「あの子?」

 彼女が口走った「あの子」という存在を知らない黎琳一同、蒼翠、桜紅、緑晶が首を傾げた。余計な事を言ってしまったといわんばかりに主神が頭を抱える。

 梅牒や瞑雷は皆に話していないとは思っていなかったらしく、慄いていた。

 「主神、いくら自らが絶対的な存在と言えども、していい事といけない事がある事くらい、分かるだろう。この期に及んで都合の悪い隠し事など許さない」

 本当は呆れて仇討ちに殺したいくらいだった。

 でもそれで本当に全てが解決するのか。そんなはずもない。

 それに――側に居てくれる大切な仲間達も、それを望まない。そんな姿を見せたくもない。

 まごまごしてまだ口を割ろうとしない主神に半ば脅迫のように気を練り始める。

 「今の私なら恐らく主神に致命傷を与えられるかもな?」

 言葉だけではなく、実力的にも危機感を覚えたのか、怯えたように主神は話し始めた。

 「……娘が、居るのだ。梅牒との前に、地上で出会った一人の女とできた……」

 「娘!?」

 子供を作りたいとは思わないような人だと思っていたが。

 「地上と天界の血を引く者として、いずれ我が後継者として奉られ、そしてその出自を一生責められるのは目に見えていた。だから普通の少女として地上で暮らす事を願った。だが……」


 『現実は違った。そうだよね?』


 何度か聞いたその声に反射的に戦闘体制に入る。

 謁見の間の入り口、そのど真ん中に彼女は立っていた。

 とうとうやって来たか、そう思っていたが、七神達は冷静だった。

 「わざわざ幻影を使ってここへ乗り込んできて、どうするつもりなのかしら?溜謎?」

 「幻影?」

 「だって全然そこに居ないんだもん。それくらい分かるよ」

 確かに気配はない。刺々しい黒い気配が何一つ感じられない。

 ご名答、と言わんばかりに溜謎は両手を上げた。

 『お望み通り、会いに来てやったわよ、お父さん?』

 「「!」」

 その場の空気が一瞬で凍りついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ