第十二章:勝利に必要な犠牲
またまた定期テストの時期が迫って参りましたので、より一層更新が遅れる可能性があります。
ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程宜しくお願いします。
七神一行が用意してくれた転移の陣によって、人間である仲間達は地上から天界へ行く事が可能になった。しかし七神達に任せていると、香耀以外彼らに配慮しないものだから、結局ほぼ黎琳が調整をする羽目となってしまったのだが。
「別に僕達だってやろうと思えば何とでも出来たんだからね!」
負け惜しみのように言う蒼翠に黎琳は冷ややかに言った。
「数秒であの天界へと転移させて、窒息あるいは膨張粉砕させようとしたお前が何を言うかっ」
あのまま言っていたら、間違いなく彼らの命はなかっただろう。
未だに不安を隠せないでいる春零に大丈夫、と宥める銀蒐。一方では、やっぱり自力で行くと言い出した蓬杏を陳鎌が喧嘩腰で説得を試みている。
「お前の背に乗っていくのは無理なのか?」
「そしてここにも頭の回らない馬鹿が一人、か」
ふうっとため息を着き、その馬鹿に一蹴りお見舞いしてやった。
双剣が折れてしまい、防御する術がなかった衿泉はまともに急所にくらってしまい、その場に突っ伏す。
「そこまで死ぬ覚悟があるのなら、死んでもらおうか?」
「そういう意味で、言ったんじゃない……!と言うか、今のほうが、死にそうだから!」
「冗談だ」
悶えている衿泉に、流石にこれ以上毒を吐くわけにもいかない。
「本当に、死んでもらったら困るからな!これは、私個人の意見ではなく、全体としての意見だからな!」
下僕には「飴と鞭」が一番の教育方法なのだと桜紅から先程こっそりと教えてもらったが、彼女は一体こんな知識を何処で手に入れたのだろう。
そしてその戦略は上手く行ったようで、衿泉は歯向かうのを止めた。心なしか、少し頬が赤いような気がする。どうやらちゃんと飴を舐めてくれたようだ。
「よし、そろそろ行くぞ!」
「ほら、もう行くってるじゃんか~」
「う……置いてきぼりは嫌なので、今回は妾が折れてやるのじゃ」
陣の中へ全員が入り、準備が整った。
七神達は自らの力を使って浮上する。黎琳も龍の姿へと戻り、その翼を羽ばたかせる。次いで衿泉達の身体もゆっくりと浮上した。
「……っ!」
自力で空を飛ぶなど、人間にはどうあがいても体験できないものだ。違和感を覚えるのは無理もない。
しかしその事を考慮しても、心なしか衿泉の顔が妙に青ざめているような……。
それにいち早く気付いた銀蒐は小声で彼に言う。
「怖いのなら、目を閉じていればいい」
「!」
思わず肩を跳ね上げた衿泉は銀蒐に苦笑いして目を伏せた。
「……?」
勿論、彼が高所恐怖症である事を知らぬ黎琳は軽く首を傾げた。まあ彼女の場合、例え知っていてもお構いなしなのだろうが。
ぐんぐん上昇し、眼下の世界が遠くなっていく。頭上には厚い雲の塊がある。
「――もうすぐだ」
七神はそう言って先に速度を上げて行ってしまった。
「全くせっかちな奴等だ」
悪態を着き、黎琳は彼らを追った。
雲をつき抜け、天界の入り口へと到達する。
古代式の玄関から神聖さを醸し出しているのは認めざるを得ない。ここから先で無礼を働いたら、瞬殺されると考えた方がよい。
「ここが、天界……」
ゆっくり着地し、眺めて感嘆する一行。
再び黎琳は人間の姿へと変わり、香耀の元へと近づいた。
香耀は一応追放された身だ。こうして再びこの地へとやって来るとは思ってもみなかっただろう。複雑な心境であろう事は目に見えていた。
「主神は何を考えているのか、分からない……。解せぬ事が多すぎる。気をつけて、黎琳。きっと何かを企んでいるに違いない」
「それも気付けぬほど私は子供じゃない」
「!そう……」
確かに香耀からすれば、こちらはまだまだ未熟者であろうが、ここまで軽視されては困る。
何が起こったとしても、守るべきものは主神に逆らってでも守り抜かねば。
「まるで絵に描いたような建物じゃの!」
「神々が住むって言うから、もう少し派手な装飾でもしてあるかな~なんて思ったけどな」
「……幻想的です」
「お前ら、観光に来た訳じゃ無いんだから、もう少し緊張感持てよ」
呆れて衿泉が釘を刺す。流石は我が下僕。主人の心理をよく把握している。彼が仮に制さなければ黎琳自らが釘を刺しただろう。手段的にはもっと乱暴なもので。
「さっさと主神の元へ赴くぞ」
緑晶は苛立ちを込めた声でそう言った。馴れ合いを好まない彼女からすれば、鬱陶しいのかも知れない。
珍しく黙って蒼翠が後につく。今ここで騒ぎ立てれば逆鱗に触れる事を本能で感じ取ったのだろう。続いて桜紅が苦笑を浮かべて歩く。
「さあ、行くぞ」
黎琳を筆頭に仲間達も奥へと進む。
背の高い柱が幾本も立ち並ぶ廊下。今日だけは主神の元へと通じるこの廊下がとても長く感じる。
「来たわね」
主神の妻が今かと待ち侘びていた。
「主神がお待ちかねよ、黎琳、そして人間のご一行。香耀、お前も」
「分かってる。行くぞ」
はっきり言うと、この女もいまいち掴みどころがなくて苦手なのだ。主神の妻だけあって、それなりの強力な力も秘めているので、敵に回すには手強すぎる。
黎琳の険しい視線に気付いて、梅牒は薄く笑みを浮かべた。この嫌らしい反応も正直気に食わない。が、今は相手にしている場合でもないので、特にとっつく事無く通り過ぎる。
彼らが更に奥へと進むのを見送り、蒼翠が単刀直入に言った。
「それで?今更彼らを天界に招くなんて、何考えてるんだ?面白い事でもあるの?」
「あら、まさかあの連絡事項を信じていないの?」
「我々には少々理解しがたいのよ。人間とつるんでいる黎琳をあれだけ嫌悪していた主神がどういう風の吹き回しでこんな事をするのか。そして……極めつけは香耀の招致。考えたくないけど……彼女の目の前で香耀を処刑でもしようとしているのかしら?」
「ふふ……役者は揃ったわ。七神でも、主神の考えは覆せない。それがどんな結果を生もうと、ね」
静観していた緑晶が動いた。
「そんなに焦らなくても、我々には特等席が設けられているわよ。ふふ……」
いつになく怪しげな艶を出す梅牒に、三人は顔をしかめた。
主神の策謀が露となる瞬間が近づいていた。




