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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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      主神の陰謀

 「……ええ~、帰るの~?」

 「ぐだぐだ言ってる場合じゃないの。あの捕縛陣はいつまで持つか分からないものである事には変わりない。けれど、その目標が地上から天上界へ向けられた以上、どのみち戻らなければならないわよ」

 いつもの駄々ごねが始まった。

 何か気に入らない事があると、まるで幼児のように駄々をこねて、周囲を困らせるのだ。普通にただそんなに単純ならまだましなのだろうが、これがほぼ自覚あっての行動である以上は腹立たしい事に変わりない。

 あの守護陣はあくまで地上での動きを封じるものに過ぎない。天へと上りつめることはわざと出来るようにしたようだ。そうでもしないと、七神は力を制御した上での戦いになる。制御だの、そんな事を言っていて、まともに勝てるような相手ではない事は皆承知している。

 ――本気で決着を着けなければならない時が、来た

 今持てる全ての力でやれる事をやろう。

 「なあ、香耀。お前も行くのか?」

 「……主神は許さないかも知れないが、行く」

 この緊張感でピリピリしている時に主神の元へ姿を見せるのは、いわゆる自殺行為と代わらないだろうに。

 「私も行く」

 「なら、俺達も――」

 「我らが主神の住む天上界に人間を連れていく事は出来ない」

 きっぱりと緑晶は言った。

 どうやらここで仲間達とは本格的な別れとなりそうだ。

 相手が神とだけあって、五人は何も反論しなかった。緑晶は意地悪でそう言っているのではなく、筋の通った事を言っているのだとよく分かるからだ。

 「皆、よくここまで頑張ってくれたよ。本当に、有難う。お前達こそ、人々を妖魔の脅威から救った救世主だ」

 「黎琳……春零は最後まで一緒に戦いたいです!でも、駄目なんですね」

 「黎琳殿、相手は手強い。油断は禁物だ」

 「一発ぐらいぶん殴っときたかったんだけどなぁ」

 「そうじゃそうじゃ!妾はもう空を飛べるようになったのじゃから、嫌と言ってもついてゆくぞ!」

 それは困る。

 「私はお前達と出会えて本当に良かったよ。……また会おう」

 衿泉が何か言いかけたが、結局何も言わず終いだった。

 待ちわびている七神達の下へ駆け寄る黎琳。さあ行こうか、と言う時だった。

 「!?」

 七神達が顔をしかめたのは。

 どうやら主神から何かしらの連絡があったようだ。追放されてしまった香耀にはその連絡は無論行き届いていないようだったが。

 なかなか動こうとしない彼らを見かねて、どうしたのかと駆け寄ってきた衿泉。何だか目も合わせづらくて、黎琳はあらぬ方向を見ているしかなかった。

 「まさか、あの主神を動かすとは……黎琳もやるようになったものだ」

 「本当だね!黎琳、喜んでよ!主神が皆連れてきていいって!」

 「え……?」

 一瞬、何がどうなってるか分からず、思考回路が停止した。

 あれほど天界を神聖視し、人間が来るなど威厳の損失だのうんぬんかんぬん言うような主神が認めたと言うのだから、そうなっても仕方がないのだろうが。

 込み上げてきた感情は、単純に嬉しさと――

 折角別れの挨拶を交わした直後だと言うのに、と言う恥ずかしさだった。

 ――どうしよう、仲間に会わす顔がないではないかっ!!

 知らせを聞いた仲間達はそんなのお構いなしに嬉しそうに黎琳の元へとやって来た。

 「そう来なくっちゃね!」

 「流石は主神じゃ!妾達の思いはお見通しってやつじゃの!」

 「……最後まで宜しく頼む」

 「春零、頑張りますっ」

 徐々に恥ずかしさが薄らいで、素直に喜べるようになった黎琳は微笑んだ。

 衿泉も、心なしか口元が緩んでいるように思えた。

 その後ろで、戸惑いを隠せない七神一行。どうやらそういう前触れは見れなかったようだ。

 果たして本当に理解を示しただけなのか、それとも何か別の理由があっての事なのか。

 「藍樺……貴方はどう思うの?」

 答えが返ってくる筈もなく、香耀は一抹の不安を覚えるのだった。




 「貴方様は一体何をお考えなのでしょうか?」

 主神の妻であり、彼とは対の大地を司る女神である梅牒(ばいちょう)はその妖艶な身体を主神に沿わせた。

 何故このような時に人間を天界へ招くような事をするのか、腑に落ちなかったのだ。

 しかもこの緊迫した時に、呑気に酒を煽っている。これは只事とは捉えにくい。

 主神はまんざらでもなくこう言った。

 「何、全ては我らが繁栄によって成り立つもの。我らはあのような下賤な輩などに屈せぬわ。勝利の前祝いのようなものだ」

 そこまで自信に満ち溢れる要因は一体何なのだろうか。

 正直、梅牒は攻めて来るだろう闇の応龍の脅威に怯えていた。何故なら、最初に黎琳と出会った時、その凄まじい力の断片を見た事があるからだ。あれから成長している応龍と匹敵する脅威が迫っているのだ。そこまで勝てる気がしない。正気出ないのなら尚更どんな手段をも講じてくる可能性が高いからだ。

 「……」

 側に控える(いかずち)の神、瞑雷(べいらい)も心なしか余裕があるように思える。

 「……そのご立派な策、わたしにも教えてくださいな。二人で隠してにやにやされていては、流石のわたしも耐えかねますわ」

 「いいだろう。もっと近くに寄れ」

 七神の耳飾りを付けたその耳を主神の口元へと近づける。

 ぼそぼそっとその内容が明らかにされる。

 「……!」

 「どうだ?これこそ長年の因縁を断ち切るにふさわしい策であろう!」

 「まさか、貴方様はこの百年間をそのために……!?」

 「それなりの年季が入った代物だ。負けなど絵空事に過ぎぬわ!」

 「……ふふ」

 意気投合する二人に梅牒は眩暈がした。

 これが世界を統べる主神たる判断なのだろうか。

 一体何がこう主神を突き動かしているのだろう?

 ――確かに香耀はわたし達を裏切った。けど、これはその報いとでも言うの……?あまりにも、酷すぎる

 「わたしは貴方様のお考えに――」

 賛成できかねる。

 それは声にならなかった。

 主神の目を見た途端、身体の自由が利かなくなったのだ。

 「心優しいお前は理解を示すのに時間がかかると思ったわ……。我が妻として、傷つかぬようにこうさせてもらうぞ。そう悪くは思うな、梅牒」

 はい、としか言えなかった。と言っても、いいえ、と言う答えは最初から梅牒の脳内にもなかった。

 主神の意思には絶対服従。それが出来ぬ者に待っているのは――。

 死、またはそれに見合った報いなのだから。

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