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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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      南の戦い

 「焼き尽くしてしまうのじゃ!」

 「ちょっと待った!それは何が何でもやめて……!」

 そんな制止も聞かないで、彼女の炎が放たれた。案の定、それはここ一帯に広がる森の木々に引火し、山火事を起こしかねない状況に陥るのだった。

 ――敵を殲滅するだけなら、僕の力だけで良かったものを

 全く面倒を増やしてくれる、迷惑姫様な事で。

 陳鎌は蓬杏との連携を未だとれずにいた。何せ我慢する事を知らずに育った我儘姫だ。抑制し切れてもいない力をばんばん使って、果たして本当の害を成しているのは妖魔達なのか、蓬杏の炎なのか、と言ったところだ。

 生憎水源など近くにはない。鎮火は今すぐには出来なさそうだ。

 炎に逃げ惑う妖魔達へ追い討ちをかけようとした時だった。

 「誰も森を燃やせなんて言ってないっての!!」

 空から声がし、見上げれば、蓬杏に似かよった年齢と思われる少年が浮いていた。自分達を攻撃してこない事から、七神の一人であると察した。

 それでも上から目線で物を言われるのは頭に来たのか、蓬杏が反論した。

 「森は事故で引火しただけじゃ!故意にやってはおらんわ!」

 「事故だろうが、故意だろうが、被害を被っているのは同じことでしょ」

 さらりと少年は言ってのけ、蓬杏はぐうの音も出なかった。

 「僕なら普通に、一石ニ鳥にしてやるよ!」

 言うなり、彼の手から滝と呼べるほどの水流が放たれた。真上でやるものだから、危うくその水流に二人も呑まれそうになった。が、木の上へと避難したため、事なきを得たが。

 逃げ惑っていた妖魔達に今度は水流が押し寄せた。木の上に避難しようとしても、かなりの量と高さで押し寄せていたため、どうしようもなかった。成す術なく水に呑まれていく妖魔達。引火した炎も水に触れる事で一瞬にして消え失せた。

 まさに有言実行と言ったところか。彼は鉄砲水で妖魔を残さず倒し、火事までも収めてしまった。

 「どうだい、僕の圧勝は?」

 「どうやら七神様は僕達もまとめて押し流すつもりだったように思えたけどなぁ?」

 売られた喧嘩は律儀に買う。それが陳鎌の性格だ。

 鋭く睨む陳鎌に対し、蒼翠はただ邪気のない得意気な笑みを返すのだった。

 「黒の森も止まったようじゃ!」

 「んじゃ、次行ってみよ~!」

 「そうするのじゃっ」

 くるりと向きを変え、一転して意気投合する蓬杏と蒼翠。何だか助っ人が厄介者に変わったような気がするのは気のせいだろうか。

 こうも気分屋なのは意思疎通が取りにくくて困る……!

 「油断してると次来るかも知れないってのになぁ」

 陳鎌も踵を返し、二人を追おうとした時だった。

 『ふむ、いい心構えをしている。が、それはもう少し実際の行動に反映させた方がよい』

 背後に突然一匹の火の鳥が現れ、背を撃たれたのは。

 突然の事で反応出来ず、前のめりに倒れる陳鎌。その鈍い音でようやく蓬杏と蒼翠が新たな敵の襲来を悟るのだった。

 「これは……聖獣?」

 『左様。まあ実の所、魂を具現化させられた、準妖魔のようなもの』

 「何じゃその赤は妾そっくりではないか!?真似するでないぞ!」

 こんな時にそんな口を利けるのは彼女くらいしかこの世にはいないだろう。火の鳥――南を守護する聖獣・朱雀は高く笑った。

 『実に面白い娘だ。恐らくそなたには我が血縁の血がより濃く流れておるのだろう。誇り高きその血を大事にせよ』

 「誇りならば、とうの昔から持っておるのじゃ!」

 『ふふふ……惜しいのう。少なからず、同じ血を受け継ぐ者同士がここで討ち合いになるとは』

 言うなり、飛翔する朱雀。凄まじい温風が二人を襲う。

 「これくらい!」

 蒼翠が水で壁を創り、それを凌ぐ。

 どうして、と言わんばかりに蓬杏の目は悲しみに満ちていた。

 『さあ、その力で我を凌駕せよ!』

 「上等!こう見えても僕は七神だからね。どうなっても知らないよ!」

 蒼翠が空中へ飛び出し、朱雀との戦いを始める。

 蓬杏は地上で手を拱いているしかなかった。

 本来鳥族はある程度成長すればその翼で空を飛ぶ事が可能な種族である。しかし彼女はまだ幼い。まだ練習すらも始めていない段階なのだ。

 一発力んでみたが、羽根はぴくりとも動かなかった。もう一度でようやく一振り動いた程度だった。

 「~!!」

 苛立ちを朱雀へぶつけようとした時、蓬杏の腕をがっちり掴む人物が居た。

 「陳鎌!?意識があったならあったで言うのじゃ!」

 「五月蝿いなぁ……こっちはぎりぎりなんだけど」

 よくよく見れば、脇腹から出血している。

 「直接攻撃を受けての怪我じゃないんだけど、倒れた場所が悪かったな……」

 倒れていたその場所には運悪くも露出している石の姿があった。彼の血で赤茶色に染まっていた。

 傷の手当てをしたいと言えども、生憎そんな技術蓬杏には持ち合わせていない。陳鎌自身もこれは不味いと焦っているようだ。傷はそれほど酷くないが、血が止まっていない。

 「蓬杏……これを外して……」

 上目で示したのは、額当て。

 「それでどうするつもりなのじゃ!?」

 「いいから外せよ!」

 ぐっと奥歯を噛み締めて、蓬杏は陳鎌の額当てを外した。第三の目が露となり、一気に妖魔の気が濃くなる。

 ゆらりと立ち上がった陳鎌はまさに妖魔に冒される寸前そのものだった。

 「陳……」

 「用が済んだら……頼んだぞ」

 言うなり、陳鎌は地を蹴った。風圧が起こるほどの跳躍だった。蓬杏は目を瞑り、一瞬彼を見失った。

 そして目を開け、見上げた時には赤の雫と鳥が上から降ってくる所だった。それが蓬杏に容赦なく降り注ぎ、嗚咽を漏らしながら蓬杏は避けた。

 地面に叩きつけられた朱雀は尚も立ち上がろうとした。しかしその喉笛を鉤爪が容赦なく襲った。

 処刑にでもされたように朱雀の首は刎ねられた。

 「僕の獲物に手を出すなんて、生意気な!」

 蒼翠は涙目で陳鎌を睨んだ。しかし睨み返されたその目に怖気づき、眉を顰めた。

 「お前……さっきのとは違う。そして、妖魔との混血だったんだ」

 陳鎌は何も応えない。いや、応える理性を失っているのだ。今彼は妖魔の血に実を委ね、殺す事への快感を愉しんでいるのだ。

 そして躊躇いもなく七神の一人に襲い掛かった。水流に乗って蒼翠は何とか避けたものの、先程とは打って変わって違うその強さに驚きを隠せなかった。

 「早く額当てを嵌めなければ!」

 「混血は排除すべきだ。助ける義理なんてないよ!」

 「やめるのじゃ!」

 水を凍らせ、その礫を陳鎌に浴びせる蒼翠の攻撃を蓬杏が炎で防ぐ。氷が一気に水となり水蒸気となったことで、爆発のような音と風が起こった。

 流石の陳鎌も吹き飛ばされ、地面に伏す。

 「……陳鎌!」

 ただ必死だった。

 彼女が一刻も早く彼の元へ向かうために、その羽根が宙を運んだ。飛べた、と喜んだのもつかの間。陳鎌に向かう。

 額当てを急いて震える手でし直して、蓬杏は急激な眠気に伏した。

 「……ちゃんとやってくれたじゃん、蓬杏」

 「馬鹿……者……」

 二人の意識が落ちる前に蒼翠が呟いた。


 「こんな無茶振りなのを黎琳が仲間に引き入れてるなんて、どうかしてるよ」


 お前が言うな、という言葉は声にならなかった。

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