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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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第十一章:七神と守護陣

 「かなりの広範囲だ……手分けして妖魔退治に向かわねば」

 銀蒐の推測どおり、山を中心に東西南北死の森は広がっていく一方だ。更にはそれに乗じて妖魔も進軍している模様なので、何としてでも人里へ辿り着く前に撃破したいところだ。

 『とりあえず、二人一組になってそれぞれの方向に別れよう。香耀は一人で大丈夫だな?』

 「問題ない。これくらいの傷など、妖魔を相手にする障害にはならん」

 『じゃあ、陳鎌と蓬杏は南を、春零と銀蒐は東を、香耀は西、私と衿泉は北だ』

 「異議ありっ!」

 『緊急時であるので異議は却下だ、陳鎌』

 蓬杏と組まされるのは御免だと言おうとしたその口を黎琳が塞いでやった。がっくり肩を落とす陳鎌を尻目に、やる気満々の蓬杏。そのやる気が空回りしなければいいのだが。

 「では、南のこの二人は我が風で送る。お前は東にその二人を送れ」

 『分かった。くれぐれも無理は……』

 「「「大丈夫だ」」」

 小さな風の渦に包まれ、陳鎌、蓬杏、香耀の姿は消え失せた。

 香耀が居なくなった事で風圧がまともに残りの三人に襲い掛かった。息をするのが精一杯。少しでも気を緩めれば振り落とされてしまいそうだ。

 それでも黎琳はその速さを落とそうとはしなかった。そこまで柔な者達でない事は重々承知していたし、そうでもしないと侵食の待ち伏せは出来ない。

 ようやく侵食の先へ追いついた。

 『降ろすぞ』

 地面へ急接近し、着地する。その反動で転げ落ちるように春零と銀蒐は黎琳の背中から降りた。

 「衿泉殿、そちらは任せた」

 「そっちも」

 「春零は負けません!負けられませんから!」

 『……行こう』

 しばしの別れを惜しんでいる場合ではないのだから。私念を振り払い、飛翔する。

 遠くなっていく二人の姿を後ろめたく思いながら黎琳は北へ向かう。

 『少し侵食を遅めるべきだな。あまりにも早すぎる』

 口から濃縮した気の塊を発射する。それが侵食の最先端へ命中し、その速さが鈍化する。

 「これでやったのか?」

 『いや、完全に止めようと思ったら、大掛かりな術を使わなければならない。そんな事をしたら、黎冥の戦いに臨めない――』

 ここで全力を尽くすわけにはいかないのだ。

 歯痒いが、後はどこまで妖魔達を食い止めるか、それにかかっている。

 『そろそろ降りるぞ』

 「ああ」

 再び下降する。着地の前に衿泉が自ら飛び降り、着地した。そのため、黎琳は人間の姿へ変化する時間を持つ事ができた。

 銀髪の少女の姿へ戻り、構える。

 鈍化したとは言え、それなりの早さで妖魔の大群は押し寄せてきていた。今、死の森そのものの侵食力はほとんど無に等しいだろう。それを推し進めているのは、悲願のためにただ人を滅ぼさんとする強い闇の心だ。

 「……行くぞ、黎琳」

 「言われなくともな!」

 地を蹴り、軍勢へと向かっていく。

 そうして妖魔達との衝突は幕を開けた。


 北では黎琳と衿泉が戦う。

 西では一人、香耀が戦う。

 東では春零と銀蒐が。

 南では陳鎌と蓬杏が。


 「おお~やってるやってる!」

 「所詮あれではただの時間稼ぎにしかなれないでしょうに」

 宙に立つ二人の影。天界に住まう対の双子の七神だ。

 蒼翠は早く戦いの渦へ出向きたいらしい。少々高揚した様子で姉の桜紅に言う。

 「それで、いつまでこうしていればいいのさ!?」

 「許可がもうじき降りるでしょう。今の素のまま力を無闇に使えば、地上の秩序をも破壊しかねないからね」

 七神が地上への干渉を禁止されている理由。その局所的な力が地上の保たれている均衡を乱しかねない他にない。応龍はそもそも天龍と人間の間で生まれた存在なので、強大な力を持てどそれの地上への影響力は何倍も少ない。

 黎冥復活によるこの緊急事態に、七神は動かざるを得ない。応龍の力を持ってしても、それで互角。そこから地上を元に戻す事はほぼ不可能だろう。

 とは言え、制限をかけるのにはかなり時間がかかる。

 「もう待てない~!!」

 「あ、こらっ!」

 姉の制止も聞かずに蒼翠が先走った。

 と、その前に一つの影が立ちはだかり、その胸に思いっきり顔をぶつける弟。

 「どうして止めるのさ!緑晶(りょくしょう)!」

 「後先考えないで突っ込むのは馬鹿のやり方だ」

 「馬鹿とは何だよ!馬鹿とは!」

 「緑晶……ありがとう」

 「ふん、弟も解せぬとは、不甲斐ない限りだわ……」

 冷徹なその青緑の目が睨みつける。とても豊穣の緑の神とは思えない冷たさだ。

 葉を連想させる尖った緑の毛先が彼女の性格を物語っているようだ。

 「あの二人は?」

 「ああ、あの二人は恐らく天界だ。仮に狙いが天界破滅ならば、あそこを守護する者達が必要だからな。それに我が力は大地ありてその真の力を発揮する。これ以上の援軍は必要ない」

 「まあ確かにそうなんでしょうけど……」

 相手が相手なので、一抹の不安が残るわけなのだが。

 「おっ、来たっぽいぞ!」

 天から舞い降りてきた三つの円陣。力の制限をかけるための術が施されたものだ。ようやく準備出来たらしい。

 空に上り、真っ先にその円陣をくぐり抜ける蒼翠。身体に青の稲光が数瞬駆け巡る。力の制限がかかった事で、窮屈さが押し寄せる。続いてくぐった二人も不快感を覚え、顔をしかめる。

 これで準備は整った。

 「応龍は一人ででも大丈夫だろうし、その反対の南側に行こうっと!」

 勝手に決めて、勝手に行ってしまう蒼翠。もう彼を止める術など何処にもなかった。

 頭を抱え、その背中を見送る桜紅。あんなお調子者の弟が居たら、迷わず縁を切っている、と緑晶は一人心の中で思うのだった。

 このまま呆れている場合ではないので、桜紅もすぐに頭を切り替える。

 「じゃあ、西にでもいかせてもらおうかしら」

 「……東か。いいだろう。桜紅、この任務が終わった暁には――分かっているだろうな」

 「分かっているわ。別に情けをかけているつもりはなくてよ」

 それ以上の追求を許さずに、桜紅は西へと向かう。緑晶も東へ進路を向けた。

 一人戦う元同志の姿が小さく見える。彼女は裏切り者として、傷つけられ、それなりの強度の封印までもされてしまった。使える術はさほどのものではないだろう。

 情に流されるつもりはない。

 ここで彼女に倒れてもらっては困る。ただ、それだけ――。

 息を切らし、今にも倒れそうな香耀に桜紅は声を飛ばすのだった。


 「七神の名が聞いて呆れるわ!香耀!」




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