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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     姉妹の未来

学校が始まるのでスローペースの更新になるとは思いますが、よろしくお願いします

 「春零……私達の大切な子供」

 両親は春蘭を亡くした事から過保護になっていた。

 沢山の愛情を受けられるのは嬉しかった。

 だけど、隣は何故か孤独な風が吹いているようだった。

 春蘭は実体としては存在していなかったけど、確かにそこに居た。

 同じように愛情を注がれたかっただろう。

 ただ一人に向けられたその愛情がどれだけ苦痛だっただろう。


 「春蘭……」

 「っつ!」

 春零の身体から黒い影が飛び出した。

 黒い影と思われたものは、確かに人の形をしていた。春零を思わせる波打つ金髪が黒い妖気に覆われていた。

 「何故だ……!何故あたしを拒絶しないの!?何故?何故!」

 彼女の心は泣いている。

 その悲しみにあの妖気は付け入っているのだ。

 「通常死を迎えた魂は天へと導かれ、新たな命に吹き込まれるのを待つ。だけど稀に強い生への固執を持つ魂は理に背き、地上へと遺される。どうやらそんな魂に妖気を吹き込んで仲間を増産させているようだな」

 振り返れば、居るはずのない人物の姿があった。あの時、黎琳を地上に送ってから天界へ戻ったはずの七神の一人だ。

 「香耀……、こんな所に出てきていいのか?」

 「一目見ただけで正体が分かる訳がない。我々は外見は完全に人間そのものだ」

 無意識に黎琳は自分の、普通の人間とは異なる部分に手を触れていた。

 誇り高き七神の女戦士、香耀は腰に提げていた細身の長剣を抜いた。真っ直ぐに春蘭に向けて構える。同じく黎琳も指先に気を集中させ、構える。

 が、そんな二人と春蘭の間に春零が立ちはだかった。

 「やめて!」

 「退きなさい、娘。それは既に妖気を大量に吸い込み、元の魂の意志をかろうじて取り留めている状態。いつ妖怪と化すか分からないものを野放しにしておく訳にはいかないだろう」

 「春蘭はそんなに弱くないわ!」

 振り向き、春蘭と向かい合う。

 「春蘭、春零はさっき言った通り、死んでも構わない。生きたいと願うのならこの身体を明け渡してもいいわ。それだけ春零にとって春蘭という存在は大きな存在なの。春零が春蘭を憎みきれなかったのも、春零にも罪があると思ったからなの。春零も罪多い娘だから、春蘭を憎む資格もないし、憎もうとも思えなかった。大切な、姉様だから」

 冷たさを感じていた胸の奥が優しく、温かくなる――。

 春蘭を取り巻いていた妖気がみるみる薄くなる。

 ぽたぽたっ。

 目から溢れ出た滴。そのまま二人は抱きしめあった。

 先程の温かさに加えて胸が苦しくなる。春蘭が無事に双子として生きていたら。双子ではなかったら。こんなにも辛い思いをしなくても良かったのかも知れない。

 彼女らの互いを想う気持ちは強い。

 「なあ」

 何故だろう。目の奥が熱い。

 初めて黎琳の涙を見た香耀ははっと息を呑んだ。

 「本来なら許されるものではないのだろうが、あの二人は一緒に居るべきだ。春蘭の妖気を私の気で浄化して、今までどおりにやらせてやってほしい」

 「……彼女は罪を犯しすぎた」

 許される訳がない。

 「が、神の掌の中、逃れる事も出来まい。罪に問うのは運命共同体である彼女も魂となって還る時になっても構わないだろう」

 抱き合う二人を見ていると、引き離す事など出来ない。

 「これはあくまで七神の意志ではない。口外するな。いいな」

 「……ありがとう、香耀!」

 背を向けて去る香耀。

 ――全く、普段情に流されないと言うのに、あの子があまりにも感情的になっているからつい……

 それはただ昔から共に居るからだけではない。同じ姿を重ねてしまうのだ。かつて七神を統率していた者の事を。

 頬に流れていた涙を拭い、黎琳は二人へと歩み寄った。すると春蘭の方が春零から離れた。

 「あたしを浄化するんだな……。知らぬ間に妖気があたしを蝕んでいたようだ。これ以上地上へ居たらあたしはあたしでなくなってしまう。もう春零に罪を擦り付ける事もしたくない……」

 「春蘭!消えてしまっちゃ嫌!」

 「……私の陽気で妖気を祓う。無垢な魂となったら春零の身体の中に入れ。今の二人なら妖気を寄せ付けずに済むだろう」

 ぽうっと淡い光が指先に灯る。それとほぼ同時春蘭の身体を駆け巡る光の珠。黒い妖気は瞬く間に消え失せる。

 「さあ」

 妖気を祓われた春蘭は無害だ。春零の身体に意志として残っても問題はない。

 「こうして対峙する事は出来なくても春零の中にあたしは息づいている。別れではない、これは二人の人生の始まりだ」

 「……うん!春蘭!」

 春零が手を差し伸べた。ゆっくりと春蘭の魂は彼女の身体の中へと入り込んでいった。

 閉じていた目を開け、春零は黎琳の手を取った。

 「ありがとう、黎琳!本当にありがとう……!」

 礼を言われるのは何てすがすがしいのだろう。黎琳も頬を緩める。

 二人の人生は今ここに始まった。いつか春零も滅ぶ時が来るだろう。その時には裁きを受けなければならない。

 待ち受ける運命は決して明るくはないけれども。

 猶予ある時間を力強く生きていくだろう。

 「ところで、黎琳。貴方は一体何者なのですか?普通の人間なら魂の姿となった春蘭を見る事は出来ないだろうし、魂の浄化も出来ないでしょう?」

 「私は――」

 「うっ……」

 「!衿泉!」

 彼の事をすっかり忘れていた。慌てて駆け寄る。

 「大丈夫……な訳ないな。今日も宿をここにとって、ゆっくり休もう」

 「……」

 「自分の不甲斐なさを感じているのか?まあ誰だって女のあんな姿を見まいと反射的に顔は背けてしまうだろうな。仕方がない」

 「あいつは、倒さないのか?」

 「お前だって気がついていただろう。あれが彼女の本来の姿ではなかった、とな」

 だから息の根を止める事が出来なかった。あの時素早く二刀目を入れたら彼女を倒す事など簡単だった。それをしなかったと言う事は、倒すべきではないと判断したからだ。殺してはならない、隠された真実がそこに秘められていると知ったからだ。

 肩を抱え、立ち上がる。春零は会話を聞いているうちに服の胸の部分が裂けている事に気付き、慌てて隠した。

 「でも、村人の理解は得られないぞ」

 言うなり騒動が収まったとみて出てきた村人の目は鋭く春零を睨んでいた。


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