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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     滅びの道に救いの手

 「もう……ここで忠臣ごっこはお終いですな」

 その黒い身体がみるみる膨張し、巨大な狼の姿をした妖魔へと姿を変えた。

 「なっ……!?」

 『鳥族ハココデ滅ビルノダ!』

 咆哮を上げ、狼は牙を剥き出しにして駆けた。

 刹那、その牙と爪に次々と切り裂かれ、倒れる鳥族の民。

 悲鳴が上がり、逃げ惑う者達。

 子供を抱え、逃げ遅れた母親にもその牙は襲い掛かる。

 もう駄目だ、と彼女は諦めた。

 が。

 ガキッと何かが牙にぶつかる音がした。

 閉じていた目を開ければ、先程死刑宣告をされた盗賊の長が衿泉から返してもらった鉤爪で狼をおさえていた。

 「早く逃げろ!」

 「は、はい……っ!」

 慌てて母親は逃げていった。

 「ったく、鳥族に化けていた裏切り者だったのかよ……」

 『忌ミ子ヲココデ葬リ去ル。ソレガコノ身ニ与エラレタ使命ダッタノデナ!』

 徐々に狼の力が陳鎌の力を勝り、踏ん張っても後ろへと押され始める。

 が、狼の後ろに衝撃が走った。

 「お前の相手は私だ」

 物見台から飛び降り、仁王立ちする黎琳。

 『ホウ、波動使イノ小娘カ。面白イ!』

 陳鎌から身を引き、黎琳との戦闘体制に入る狼。

 「黎琳、僕も――」

 「お前はいいから姫や春零の所へ行ってろ!」

 いつになく怒鳴り声が刺々しい。どうやら死のうとしていた事にかなり腹を立てているらしい。

 「後でこってり絞ってやるから、覚悟しとけよ!」

 『行クゾ!』

 戦いが始まった以上、ここに居るのは危険だ。ましてや陳鎌は牢を脱出する際、かなりの体力を使ったのだ。疲労も溜まっているし、万全とは言えない。

 彼女の言葉どおり、先に避難をした蓬杏らの元へと陳鎌は向かうのだった。


 そして辺りには誰も居なくなった時、黎琳は唐突に呟くのだった。

 「お前、溜謎の手先だな?」

 『!……アノ男、ベラベラト我々ノ事ヲ喋リオッテ。ソウダ。我ハ溜謎様ノ側近ダ!』

 「ご丁寧に名乗りをどうも!」

 地を蹴り、巨体の下へと潜り込む。

 『!!』

 「これでも喰らえ!」

 強烈な気の塊を炸裂させる。皮膚が引き裂かれ、赤黒い血がドボドボと落ちてくる。そして衝撃波によって浮いたその身体は地へと叩きつけられる。

 浴びてしまった血液を舐めとり、黎琳は不味いと言わんばかりに唾を吐いた。

 『コノ老イボレヲ、炎ニ焼カセルトハ、アノ姫モ惨イモノダ……。アレサエナケレバ、モット……』

 「言っておくが、あの姫は故意にお前を業火に晒したのではないぞ。威嚇程度にするつもりだったが、加減が出来なかっただけだ。本当は、確かに親代わりとしてずっと側に居たお前を大事に思っていたようだぞ」

 『……ハッ!笑ワセルナ!我ハ溜謎様ニシカ使エテオラヌ!ソシテコレカラモダ!ソレニ、仮ニ我ガ死ンデモ、鳥族ハ滅ビル!アノ方ガ自ラソウスルダロウヨ!』

 「何!?……話をするだけ無駄だったようだな。この調子じゃ大した情報も掴めそうにないし、本人が来ているのならば丁度いい」

 直接聞いた方が早い。

 ――とにかく、この雑魚は始末するか

 とどめの一発を顔面に喰らわせた。

 『ゴフッ……!』

 鼻も目も完全に赤黒く血塗られ、狼は絶命した。

 「悪いが、お前にこれ以上時間を割いている時間は無い」

 鳥族達が逃げていった方向から悲鳴が再び上がった。

 すぐさま黎琳はそちらへと駆け出した。相手が溜謎であれば、鳥族も、仲間達も危険だ……!



 「……!!」

 逃げ出した一行の前に一匹の妖魔が立ち塞がっていた。

 狐の耳と尾を持つその妖魔は何の躊躇いもなく、先に避難していた鳥族の民を殺していた。

 彼らの地で染め上げられた右手を綺麗に舐め、今度は自分達を餌にしようとその口の端が引き上げられた。

 「お前達は別の場所へ!」

 衿泉が一歩前に出た。続いて陳鎌も。

 銀蒐も戦おうとしたが。

 「銀蒐は春零達の護衛として、一緒に行け!」

 「しかし……!」

 「ここは俺達に任せておけ!」

 「……了承した!」

 彼らを逃がし、衿泉は溜謎へと剣を向けた。

 『ふうん、その構えは前に滅ぼした村で派生した流派だね』

 「!」

 頭に血が昇ってゆくのを衿泉は感じた。

 こいつが、家族を、皆を、殺した……!!

 「衿泉抑えろ!」

 陳鎌の叫びではっと衿泉は冷静さを取り戻した。

 そうだ、相手の挑発にのってはいけない。戦場での基本だ。

 それに、憎しみに支配されて何かを手にかけるのは、あの姫のしようとしていた過ちと変わらない。

 『そして盗賊の長は、愛する人が妖魔であり、目の前で死を見た罪深き忌み子だったよねぇ?』

 「どうしてそこまで知っているんだよ!?」

 くすっと悪戯っぽく笑い、彼女は自己紹介をした。

 『わたくしの名は溜謎。……殺しあおうじゃない、人間!』

 彼女の纏う気が黒く、棘棘しさを瞬時に帯びた。それを肌で感じ取った二人は危機感を抱いた。これは今まで会った妖魔とは比べ物にならないと本能で悟っていた。

 武器を握る手に脂汗が滲んでくるのが分かった。

 「衿泉、これはまた僕が招いた災いだったりする?」

 「いや、これはお前が招いたものじゃないと確信しているから安心しろ」

 「それは良かった……」

 恐怖を振り払い、陳鎌は構えた。

 「こっちも守りたいものがあるんだ!負けられないさ!」

 「……同感だ!」

 『かかって来るがいい!ひよっこ!』

 二人同時に溜謎へ向かって駆け出す。攻撃範囲の広い衿泉の双剣が先制攻撃を仕掛けた。しかしあっさりかわされ、次にやって来た陳鎌の鉤爪も掠りすらしなかった。

 それどころか隙を突かれ、胸へと手が突き出された。

 ドオンッ

 爆発が起き、二人とも吹き飛ばされた。皮膚と肉が焼かれ、血が噴き出ていくのを見つつ、地面へ倒れこんだ。

 ――やばい、もう少しで心臓が止まりそうだった

 こんな衝撃を胸に受ければ、心臓が止まってしまっても不自然ではない。

 陳鎌は気を失っているのか起き上がろうとする素振りすら見せない。剣を握りなおし、何とかその場に立ち上がる。

 「ほう、まだ動けるんだね」

 胸の傷など眼中になかった。

 ここで立たなければ確実に殺される。そう分かっていたから。

 まあ立ったところで歯が立たない事も分かってはいたが。

 『次は加減しないよ……!』

 「……っ!」

 迫り来る死を前にして、脳裏に浮かんだのは――。

 今まさにその衝撃波が心臓目掛けて放たれようかという瞬間。

 横から凄まじい衝撃波がやって来て、溜謎を薙ぎ倒した。

 『……っは!』

 「――そこまでだ、溜謎」

 衝撃波の主がゆっくりこちらへと歩み寄ってくる。

 夢ではないかと衿泉は思った。

 先程脳裏に浮かんだ応龍の姿がそのままそこにあったのだから。

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