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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     切れない縁

投稿ミスでご迷惑をおかけします。

 『ねえ、いつまで知らないフリを続けるつもりだい……?』

 くすくす……。不気味な笑いが頭から離れない。

 あまりの気分の悪さにそのまま嘔吐してしまいそうだ。

 身体が何かに浸食されていく感覚。

 『ほら、抵抗しなさいよ……自分の身体で何をされているのか知りたいだろうに』

 抵抗する気力など湧かない。

 だって相手は――。

 春零の意識は闇へと堕ちていく。

 代わりに出てきたもう一人が身体を支配する。

 目つきや纏う気色が一変する。浮かべた笑みはただ恐怖を引きつらせるだけだ。

 その手は近くを通っていた若い女へと伸ばされていく――。


 「きゃあああああ!」

 見知らぬ女の悲鳴が聞こえたのは、春零が出てしばらくの事だった。

 まさかと思い、二人は外へと飛び出す。

 突然の出来事に右往左往する周囲の村人達。

 「退け!」

 邪魔者を押し倒し、中心へと出る。

 「!春零……!」

 「お前が……連続殺人の犯人か!」

 振り返った春零の頬には血がべっとりとついていた。

 既に春零に拘束されている女は虫の息といったところにまで陥っている。

 先程の少女と同一人物とは思えない悪意の塊が渦巻いていた。村人も信じられないのだろう。健気に頑張って生きていたこの美しき少女が血に汚れた殺人鬼だったなどと。

 拘束していた女を荷物同様にその場に落とす。頬についた血を指でとり、舌で嬉しそうに舐める。

 狂気し変貌した少女に誰もが恐怖を感じた。

 「……っ」

 本当は信じたくなかった。

 正体を隠しているとは言え、あまり好意的と言える様な態度をとらない自分にも何の隔てなく接してきた春零。

 初めて「知り合い」とは違う関係が出来たと思っていたのに。

 あれは、全て、偽りだった――?

 「昨日はどうも、お二人さん」

 低い声でそう話しかけてくる。

 「昨日は……ってお前達、もしかして昨日の夜外に出ていたのか!?」

 信じられんと周囲の村人は騒ぐ。

 「外野、五月蝿い。殺されたくなければさっさと家の中にすっこんでいろ!」

 苛立ちを込めて黎琳が大声で怒鳴ると、村人達はあっさりと家に逃げ帰った。しっかり鍵もかけて。

 とはいえ、隠れながらも様子を窺ってはいた。

 一般人を巻き込んで戦って被害でもあったらたまったものじゃない。任務内容にそぐわないので、上からお叱りを受けるのは分かっている。

 「あ〜あ、お楽しみが……」

 「人を殺す事の何処が楽しいんだ!それも、残酷に……!」

 「あ?」

 腕組みし、直入に答える。

 「死ぬ間際の怯える様子は面白いったらない!赤い酒は美味だ。そして先程まで生きていた人間がここまで変貌すると思うとゾクゾクしてならないね」

 狂っている。

 その一言しか彼女を表現する事は出来なかった。

 「さあ、さっさとお二人さんを殺して、楽しませてもらうよ……!」

 言うなり春零は地を蹴った。衿泉へ一直線に向かう。

 「落ち着いて対処すればいい!」

 「分かってるさ!」

 意識を集中させ、時を待つ。彼女が目前に迫った時点で頃合いを見計らって二振りの剣を十字に振る。

 「なっ……?」

 胸元がはだける。

 慌てて衿泉は反射的に目を逸らしていた。

 「な、馬鹿!」

 視線を逸らした隙に一気に間合いを詰め寄る。

 「がはっ!」

 首を掴まれてしまった。そのままいとも簡単に春零は持ち上げる。

 油断していたせいで腕の力が一気に抜け落ちる。両手の剣が乾いた音を立てて地面へと転がる。

 攻撃を仕掛けようとした黎琳に春零は衿泉を盾にとった。

 「貴様……!」

 「昨日の戦いでお前よりこっちの男の方が少し腕が劣っているのは分かっちゃったからね。しっかり利用させてもらうよ」

 か細い息で何とか意識を保ってはいるものの、掴まれた手の力が入ればたちまち意識を失ってしまう。最悪の場合は、窒息死――。

 ――どうすればいい!?

 打つ手がなく、奥歯を噛み締める。

 「さっき、あたしの事を春零って言ったでしょ?気分がいいから特別に教えてあげる。あたしは春零じゃない」

 「!!」

 春零であって、春零じゃない。

 「あたしは春蘭。春零の双子の妹よ」

 かくり。

 衿泉の首がうなだれた。

 「ああ、もうお終い?つまらないの」

 垂直に落下し、倒れた。身動き一つしない。

 ――衿泉!こんなところでくたばるような男じゃないだろっ……!

 胸の奥が熱く、疼いた。

 ここで感情的になっても仕方がない。必死に冷静さを取り戻す。

 「……だったら、春零を何処にやった」

 双子。それなら辻褄が合う。外見もそっくりだし、春零だって何を問われているのか分からない様子だった。

 だが、村人達はこの家には春零一人が住んでいるとは言わなかったか。両親を亡くし、一人孤独と闘って暮らしているのだと。

 「まだ全てを話している訳じゃないよ。肝心な部分が抜けている」

 言うなり自分の胸に人差し指を突きつけた。

 「あたしは春零と一体化しているんだよ」

 「なっ……!?」

 「既にあたしの肉体は滅んでいるのさ。母の腹から出てきた時には生きてはなかった。精神だけが遺された。春零は何とか生きながらえる事が出来た。……あたしは誰にも気付かれずいつまでこのままこの世に留まるのかと思っていた。だが、あたしは知ったんだ。双子という魂の関係を利用すれば春零の身体を乗っ取る事が可能だとね」

 つまり、彼女は春零の身体を乗っ取って意のままに操っているのだ。

 もし犯行がばれたとしても、彼女が引っ込んでしまえば周りは理解しにくい。当然ながら何もしていない春零が罪に問われる事になる。

 何とも卑怯な……。

 「あたしは生きる!そして人を殺すのさ!自分と同じ目に逢って、地獄の淵で彷徨うがいい!春零、あたしと運命共同体だと言うのなら、同じく地獄を見るのだ!」

 今度は自分の首を絞め始める。

 「あ、ああ……」

 「やめろ!」

 駆け出す。

 「春、蘭……」

 か細く出された声。

 それは間違いなく、春零が発した声だった。

 「春零は、このまま……死んでも、いいんです、よ」

 春蘭が大きく目を見開いた。

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