運命の分かれ目
申し訳ありません!!
また話の順番を間違って投稿してしまっていました……。
こちらの話が先です。
読者の方には、読みづらくしてしまって、本当に申し訳ありません。
激しい戦いが目の前で繰り広げられている。
母親と子供である自分――そして双子のもう一人の兄妹との間で。
「私に兄が居るなんて、初耳だぞ」
狂う自分の姿に震えを抑えきれずに居た黎琳だったが、口調だけはまだ強気だった。
『そもそも応龍の伝説は後から神がとってつけた記憶なのですから、都合よく兄の存在を抹消されていても当然の事です』
「何故兄の事を隠す必要があったんだ?」
『鈍いのか、そういう振りをしているだけなのか……』
馬鹿にされているような気がして、むっとすれば、母親は口を噤み、目を逸らした。
正しい答えは後者の方に決まってる。七神は統治の邪魔になるものは全て排除する癖がある。排除の対象になるのは、神に背く者、闇に支配されし者。元はどうれあれ、一度排除するとなったら彼らは抜かりがない。まさに悪意感じる暗殺部隊のようなものだ。
恐らく兄は闇に支配されし者として、排除を受けてしまったのだろう。どういう訳か、自分は排除せずに手元へ置く事にして。
と、目の前の幻影で激しく爆発が起こった。
『香耀!』
『吹き渡る風よ、我の呼び掛けに応え、背反者を捕縛せよ』
風が強く吹く事で急激に炎が燃え盛り、爆発のように弾ける。
爆発そのものは回避したものの、民家から降り注ぐ炎が燃え移った木片までに気はいってなかったらしい。
服に火の粉が飛び、燃え移る。
『あつっ……!』
『待って――。今、私が……』
男子の方が酷い火傷を負い、気を集中させて治そうとした女子の方に藍樺は飛びついた。
『もう止めなさい!貴方はちゃんとその聖なる心を保っているじゃない!他人を気遣う心を――!』
『……っ、お、母、さん……』
纏う気の効果もあって、女子は正気を取り戻した。
『お母さん、――も、――も助けてあげて!――は、私とお母さんのために……!』
痛みに呻く我が子を放って置く事は出来なかった。
治療を施そうとした矢先に一筋の風が吹いた。威嚇するように我が子から遮り、手の甲を切り裂いた。
こんな事をしているのが誰なのかは明白だった。
『お前にその子供は扱えない。我々が、責任を持って管理しよう。それが、せめてもの情けだ』
『返して、香耀!その子は火傷のせいで動けないのに……!』
『お兄ちゃん!』
妹――本当の黎琳が手を伸ばす。
と、同時に時空がうねるのを藍樺と香耀は感じ取り、その場に膝をついた。気持ち悪いその感覚に思わず吐きそうになる。
はっと前を見れば、目の前の我が子の姿がもう一人の火傷を負った我が子の姿へと変わっていった。
気付けば黎琳とその兄の位置が交換されていた。
香耀は最初こそ戸惑っていたものの、子供の一人を手中に収めた事に変わりはないので、すぐに冷静さを取り戻した。
更には子供の持つ力を肌で感じ、危機感をより一層募らせてしまったようだ。
『怪我をした子供など、御しやすい』
そう言うなり攻撃を開始する。
渡せない。
動けない我が子を抱え、後ろへと飛び退く。
『……――そう言えば、上に子供が双子であったと言う報告は届いていなかったな……』
思い起こしたように呟くと、香耀は更に生み出そうとしていた竜巻を消した。
『片割れだけで十分だ。情けをかけられたな、藍樺』
『情け?何を言うのよ!――を返して!』
『子供は一人であった。そういう事だ。分かったなら早く去れ』
しばし瞬きをし、香耀の心境を悟った。
裏切られた訳ではなかった。彼女は最善の道を取ろうとしてくれていたのだ。
本来ならば両方を連れ帰らなければならなかったのだろうが、生憎上に双子であったという報告はされていないのだ。
そのまま逃すと言う方法が一番有難いとは思ったが――彼女には複雑な立場がある。
どうしてもっと早くその事に気付いてあげられなかったのだろう。
夫を殺したのも止むを得ず。彼女はそういう境遇にある事をすっかり忘れていた。
香耀は七神の中で最も人間側に近い考え方をする。それを疎んでか、七神の中では一番立場が低い。いわば都合よく使える「駒」なのだ。
命令に背く事となれば七神同士での争いが勃発する事間違いなしだ。それを避けるためにも彼女は如何なる命も背かずに受けてきた。言うなれば、いじめの分類に入るだろう。
これも主神がつい最近交代してから酷いものだ。
何も言わさずに香耀はその場を去った。双子の片割れをその手に大事そうに抱えて。
――香耀なら、悪いようにはしない。そう、信じていいのよね……
『貴方……どうか、導いて。あの子と、この子を、光へと――』
そして優しい雨がやがて降り注ぎ、村の火は鎮火した。
全ての家屋が全焼し、大量の死体が辺り一面に広がっていた。自分達にとっては最善の道を選べたのかも知れないが、村の人々にとっては史上最悪の悲劇としか言いようがなかったであろう。
「……何て、恐ろしい」
ぽつり、と春零が率直な感想を述べた。
一番頼んではならない存在に世界の命運を託そうとしている自分達が未知すぎて、情けなかった。
応龍は陽の気に満ち溢れた光の救世主だと思いこんでいた物がひっくり返されたのだから、動揺を隠す事なんて出来るはずもななかった。
けど。
「……でも、希望が失われた訳ではないらしい」
「え?」
「我々の前に現れたのは女の応龍――香耀と呼ばれた七神の一人らしい女に引き取られた方だ。あちらは香耀殿を信じてもいいのならば、大丈夫のはず」
そう言って、銀蒐自らある一つの疑問にぶち当たった。話を聞いていた三人も同じ事に辿り着いたようだ。
――では、もう片割れはどうしているのか?
『それは今、教えてあげますよ』
気付けば、左の奥から手招きする天龍の姿があった。
「さっさと黎琳を返しやがれ!」
苛立ちを一番募らせていた陳鎌が急発進して駆けて行く。
どうせ今更制止を試みても既に手遅れなのは分かっていたので、残りの三人もため息を着いてから走り出す。
遠くでは母の力を感じてか、黎冥が鼓動していた。