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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     中に孕みしモノ

申し訳ありません。話の番号を間違えて投稿してました。

今回訂正したこの話が先です。

前回投稿した話がこの次の話となります。

混乱させてしまって本当に申し訳ありません。

 時は少し戻って、夕方。

 言いつけどおり、黎琳は宿に戻っていた。

 しばらくして衿泉も帰って来た。が、黎琳は早速言葉を吐き捨てる。

 「遅い!私を待たせるとは相変わらずいい度胸をしているな」

 返ってきたのは冷静な回答。

 「どうせそんなに待ってないんだろう。それより、情報をいくつか集めてきたぞ」

 「そんなあっさりと話を変えるな!」

 「……お前って、そういう事には五月蝿いな」

 「お前って言うなぁ!」

 ばしっとそこは綺麗にしばきがきまった。

 しばかれた頭を撫でながら衿泉は聞いた情報を話した。

 変死体は必ず顔以外の場所を何かで粉々に断裁されているという事。貴重品は奪っていない事。犯行は夜行われているものの、それは就寝時刻前だったり、夜中だったり夜の間で時間が毎回違う事。そして、犯人の姿を誰も見ていないという事。

 普通に考えて当たり前な情報も入っているが、これもまた一つの鍵となるだろうと衿泉は言う。

 「当たり前の事が重要だったりするものだ」

 「……衿泉、お前書を読むのが好きな方か?」

 何だか作り話の影響を受けているようにしか思えない。

 その問いには衿泉は答えなかった。無言の返答だ。どうやら図星だったらしい。

 聞いて呆れる。

 「現実と書き物の世界を一緒にするな」

 それ以上責め立てる気も起こらなかった。

 しかし衿泉の推測は後々正しいものであったと知る事になる。


 漆黒の闇が辺りを覆った。

 僅かな隙間を空け、二人は外を監視していた。

 とはいえ、明かりも何もなければ殆ど目視はきかないのだが。

 気を集中させる。

 昼間にはなかった妖魔の放つ邪気が禍々しく感じ取られた。

 ――何処からやって来ていると言うんだ。しかもここまで強い気配はいくら何でも隠しとおせる筈がない……!

 その気配はだんだんと近づいてきている。

 それも、真っ直ぐにこちらへと……。

 「衿泉、剣を構えろ!」

 「!?」

 悟られている。自分達が監視している事に。

 ここへ踏み込まれてはまずい。人を守りながら戦うのには慣れていないからだ。

 窓を開放し、そこから飛び降りる。着地音なしに着地した。

 先に広がる暗闇を睨みつける。

 雲に隠れていた月がほんのりと明かりを灯す。

 黎琳の視線の先には黒い布を被ったいかにも怪しい人影。

 ――人の形に似た妖魔か。

 手が伸ばされる。

 次の瞬間、黒い衝撃波が黎琳に襲い掛かった。

 「黎琳!」

 直撃していたはずだった。だが、彼女は傷一つなくその衝撃波を相殺した。

 再び見せつけられた圧倒的な力。ついついその力に甘えてしまいたくなる。

 だがそれは間違っている。

 ――俺は、この手で!

 「はあっ!」

 身に纏う漆黒の布に斬りかかった。

 相手は身体を翻したものの、切っ先が纏う漆黒に触れて、僅かに裂いた。

 驚いた様子で裂けた部分を見る相手。その隙を逃さず衿泉は更に斬りかかった。

 頭に被っていた部分が大きく裂けた。手の甲にも赤い線が走る。

 避けた部分から覗かせたのは月に照らされ同じく呼応するかのように輝く金色。羽根のように風に踊る。

 ――!?

 慌てて隠し、闇へと還っていく相手。

 「待て!」

 掴んだはずの手は空を泳いだ。

 気配が完全に途絶えてしまい、黎琳は苦々しげに暗闇を睨んだ。

 剣を収め、衿泉が呟く。

 「あれ、人間のようだぞ」

 「……しかも、女」

 予想が的中している事を互いに確かめた。

 衿泉には具体的な事は分かるわけがなかったが、黎琳は該当する人物を頭の中に思い浮かべた。

 でも、あの時にはあれほど禍々しい気配などこれっぽっちも感じられなかった。ただの人間そのものだった。

 仮に彼女だとしても、一体どうなっているのか理解しかねる。

 ――本人に問いただしてみる必要があるな……

 「とりあえず、朝を待とう。ここで突っ立っていてもどうしようもない」

 「あ」

 一つ重大な事に気付く。

 「何処も鍵をかけてきっちり閉めてあるんだよな?だったら、部屋に戻るには――」

 壁を這って登らなければならない。

 一気に顔を青ざめて、二人は意気消沈した。

 結局夜な夜な二人は必死で壁に這い蹲るのだった。




 朝日が人々を眠りから目覚めさせる。

 人が出始めたのを合図に二人は外へと出た。

 眠たい目を擦りながら歩く村民に声をかける。

 「なあ、春零の家は何処にある?」

 「春零?あの子の家なら村の出口あたりださ」

 指差す方向に、縮こまる小さな家があった。人二人がやっと生活出来そうな空間があるかないかと思われる。

 質素な暮らしをしている模様で、壁は土が剥がれ、骨格が所々剥き出しになっている。

 金なら少しくらいあるだろうに。

 強く押せば壊れてしまいそうな扉を軽く叩いた。

 中で物音がした。が、大砲を撃ったような大きな音が混じり、二人は顔を見合わせて何をしているのか心配になる。

 ゆっくりと扉が開いた。

 扉を開けた春零は自分の頭をさすりながらこちらを見た。

 「ああ、黎琳じゃありませんか!あとで伺いましたのに……」

 「宿で話すのも何だしと思って」

 「まあ!じゃあしっかりおもてなしさせていただきますわ!じゃあ片付けないと……!」

 踵を返すなりすっこける春零。思わず二人は口をあんぐり開けて冷や冷やした。

 そんなこんなで掃除もそこそこにしてもらい、居間で茶を飲みながら話をする事にした。

 「ごめんなさい、ろくなことも出来なくて……」

 万全の態勢でもてなせない事が思わしくないらしい。

 全然気にしなくていいぞと頭を撫でてやると褒められた飼い犬のように顔を輝かせた。

 出された茶を少し飲み、本題へと入る。

 「ところで春零、昨日の夜はよく眠れたか?」

 「……また、出たのでしょうか。あの恐ろしき者は」

 「――それが今日は犠牲者が出なかったらしい。死体が何処にもなくて、行方不明者も居ないらしい」

 衿泉の言葉に春零は頬を緩めた。安堵のため息をついてから、

 「良かった」

 そう笑みを浮かべて言った。

 様子をしばし窺ったところで衿泉が黎琳に耳打ちする。

 「金髪で女であることは当てはまるが、どうもあれと同じとは思えない」

 「私の思い違いだと言うのか……」

 と、春零が突然席を立った。

 「すいません、ちょっと」

 そう言って立ち去る。

 彼女の顔が先程とは一変して酷く青ざめているように思えたのは気のせいだろうか。


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