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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     決断

 溜謎……。

 一体お前は誰なんだ。

 過去の私とも関係があるらしいが……。

 どんなに思い出そうとしても思い出せない。

 「おいで……」

 誰かが呼んでる。溜謎?

 けど、声の感じがとても邪悪には思えない。

 「早く、来るのです……。私の、黎琳」

 誰かの長い髪がからみつく。苦しい。やめてくれ……!


 「……っ!」

 目を見開き、黎琳は飛び起きた。

 見慣れない部屋の寝室だった。どうしてこんな所に居るのか、必死で記憶を辿った。

 ――盗賊の根城が崩れ落ちて、楓姫が裏切り者で、死んだ……

 仲間に裏切られ、互いを理解し合えると思われた矢先に奪われたその命。

 激しい戦いの後で黎琳は不覚にも気を失ってしまった。かなり無理をしたせいだろう。

 ……が、少し休んだせいか、もう身体は軽い。

 肩を回して立ち上がれば、間がいいことに春零が部屋に入ってきた。

 「あ、気付きましたか?良かった……」

 「春零、皆は?その、陳鎌は――」

 「とりあえず一緒に来ています。戦いの傷を癒すために近場の集落へと来たんですよ」

 閉じられた窓を開ければ、そこは湯煙漂う温泉町だった。

 温泉にまつわる商品が名物らしい。あちこちに温泉饅頭だとか温泉卵だとかの幟が見受けられる。

 「この宿の温泉はかなり身体に効くらしいですから、ここでしばらく休息を取ろうって事になってます」

 「そうか……」

 自分は平気だと言っても、衿泉達はまだ休息が必要だろう。

 陳鎌に関してはこれからの事を考えなければならない。

 居場所を失い、かけがえのない存在も失った彼は、未来に希望を見いだせるだろうか。

 ――うん、気になるな……。探してみるか

 「とりあえず、皆に知らせて来ます」

 春零が席を立った隙に部屋を抜け出す。

 しばらく廊下を進んでみると、案の上一人物憂げに茶の入った器を見つめる陳鎌の姿があった。

 空いていた椅子に腰掛け、真正面に陳鎌を見据える。

 はっと気付いて顔を上げるも、特に何も言わずにその顔は沈んでいく。

 「……辛いのは分かるが、お前は今自分自身がこれから進む道を決めなくてはならない」

 「そんなの分かってるさ。けど……やっぱり今まで通りやってけないのかって思っちゃうのさ」

 ふんぎりがつけるはずがない。

 ――私だって、もし衿泉や春零、銀蒐の内の一人が居なくなったら……決意が揺らいでしまいそうだ

 全てを世界のために捧げるという決意が。

 「同じ思いを誰かにさせたくない――」

 思わず呟いたその言葉に陳鎌が素早く顔を上げた。

 「私と共に旅をしているあいつ等はそういう信念で動く。未然に防げず、もどかしい思いをしたのはお前だけではないこと、忘れるな」

 言っている間に胸の痛みを強く感じた。

 黎琳は何となく理解した。これが憐れむ者の気持ちなのだろう。

 ただ上辺だけ何とでも言えるこの無情さ。

 これ以上要らぬ口を挟んでも仕方がない。席を立ち、陳鎌の元を去る黎琳。

 じっと陳鎌は去り行く蒼のなびく髪を見つめた。

 ――何だか、不思議な女だな、黎琳って言うあの女

 最初は棘棘しい女だと思っていたが、今や同じ心を知る者として柔らかな光に包むように接してくる。

 あえてズバズバと図星を突かれるのはうっと思う事もあるが、別にむかつかない。

 むしろ、薬のような感じだ。

 きっと笑ったら……。

 ん?

 「なっ、何考えてんだよ、僕は」

 慌てて頭を振った。

 彼はまだ自分で思っている以上に彼女に惹かれつつある事に気がつかないで居た。


 「黎琳……そんな身体で何処をほっつきまわってたんだ?」

 今にも地響きが聞こえそうな剣幕で微笑む衿泉。流石の黎琳もひきつり笑いを浮かべざるを得なかった。

 しかも銀蒐まで困った人だと言わんばかりにこちらを睨んでくるし、春零はそんなに頼りにされてないだと泣き喚く始末。

 だんだんそれらが鬱陶しくなってきた黎琳。

 くどくど怒る衿泉に対してとうとう怒り爆発。

 「ああっ!もう面倒な奴等め!」

 「え」

 気で衿泉一人ぶっ飛ばす。

 廊下の奥まで飛ばされた彼の姿を見た春零と銀蒐は慌てて大人しくなる。

 衝撃で打った頭を擦りながら未だ悪態を着く不届き者。

 「どうしてそこで逆上されなきゃならないんだ!」

 「五月蝿い!下僕の分際で私に指図するな!」

 「俺だってずっとやられっぱなしじゃないぞ!」

 突き出そうとした拳をあっさりと不届き者は掌で受け止めた。

 「!?」

 「ほら、口答えしてないで、大人しくしてろよ」

 「……お前だって身体本調子じゃないくせに、人の心配ばっかり!」

 動きを止めた衿泉が何を思ったか、顔を近づけてくる。

 ――こ、これは……

 あの時と、同じ。

 逃げたいと言う思いと裏腹に動けない身体。

 もうすぐ触れる、と言う所で。

 急に彼の顔の角度が変わった。触れたのは唇でなく、額だった。

 「変な事を言い出すから、熱があると思ったが……ないな」

 「は、離れろ……」

 恥ずかしさのあまり、顔が逆に熱くなる。だって見て取れるのだ。春零と銀蒐がニヤニヤしてこちらを見ているのが。

 「俺は大丈夫だ。心配かけたな」

 ぽんぽんっと頭を叩く衿泉に黎琳はむうっと唸るだけで文句一つ浴びせられなかった。

 ――私も、いつかは本当に覚悟を決めなければ……

 今のこの居心地いい場所に居続けられはしない。

 腹を括らなければならない時がいずれやって来る。

 そう思うと胸が締め付けられそうになるのは何でだろう?

 「?衿泉、何処に行くんですか?」

 「あいつを探すんだよ」

 その瞳には何か考えがあるように見えた。

 「何処にいるのだろうな。一人にしてくれ、と言ったきり戻ってこない」

 黎琳は素直に陳鎌の居場所を教えてやった。

 衿泉を筆頭に移動する一行。

 彼の元に辿り着くなり、衿泉はいきなり陳鎌の後ろ首を掴んだ。

 「何だよ!?ヤル気か!?」

 突然の事で春零が思わず手で口元を覆い、銀蒐が止めに入ろうとしたが。

 「陳鎌、そんな面してないで、風呂に入るぞ」

 全員、唖然とした。

 完全に思考停止した状態のまま陳鎌は衿泉に連れられて行くのだった。

 「……何なんでしょうか?この常識を並外れたあの思考は」

 「――いや、意外とそうではないかも知れない」

 「え?」

 「何せ、ここは温泉の町だから」


……話が完全逸れてますってツッコミはなしでお願いします

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