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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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第一章:下僕 

 両手に剣を持ち、妖怪の攻撃を受け止める。それだけでも分かる。それなりの実力の持ち主である事が。

 ――人にこの姿を知られるのはまずいな。あれほどの腕があれば助けなど要らないだろう

 そう思ったが、その一匹が片方の剣の刃を握った。

 「!」

 ――流石にいくら腕がたっても、あれでは……

 飛び出す前に黎琳は物陰に隠れる。

 刃を握りこまれ、動けない少年に背後から妖怪が襲いかかる。

 もう駄目だ、と少年が死を覚悟した時だった。

 突如目の前まで迫った妖怪が弾き飛ばされた。何が起こったのか分からない妖怪は辺りを見回す。

 「何処を見ているんだ?」

 何処からともなく響いた声。

 いつの間にか、少年のすぐ脇に少女の姿があった。深みのある亜麻色の長髪を一つに結って、全てを見透かすような蒼の瞳が印象的な少女だった。この少女が元々銀髪と深緑の瞳の持ち主であったなど誰も気付かないだろう。

 彼女は動揺して動けない刃を握る妖怪を吹き飛ばす。

 見せ付けられた圧倒的な力とオーラに妖怪だけでなく少年も身を震わせた。

 人間のようで、人間じゃない――。

 「雑魚が。消え失せろ」

 何の躊躇いもなく黎琳は気を放った。それに触れた瞬間、妖怪は痛みを感じる事なく粉砕した。細かい破片が円状に散る。

 自然と少年の身体は動いていた。二つの剣の先を彼女の背中に向ける。

 気配でそれを感じ取ったが、臆する事無く黎琳は振り返る。

 「お前も、妖怪なのだろう!助けて油断させようとしたって無駄だ!」

 「深く考え過ぎだ」

 きっぱり言い、どつき倒す。

 倒れた少年を足蹴にする。

 「命の恩人にそれはないだろう。え?それから……」

 加減して気を放つ。

 「私をお前呼ばわりするな!馬鹿め!」

 「ぎゃあぁぁ!」

 吹き飛ばされ、地面に倒れた少年は気絶した。

 「折角加減したのに、それでもきつかったか?」

 意識のない彼に言っても返事は返ってくるはずがなかった。

 

 

 とりあえずあまり崩れていない民家を探し、そこへと少年を運んだ。

 中にあった死体は外へと放り出し、寝床と思われる場所に少年を寝かせた。疲労と傷のせいでしばらく意識は戻りそうになさそうだ。

 ――私の正体は知られるわけにはいかないが、このまま放っておくのも面倒だ。もしこのまま放っておいて、目覚めたら私を倒しにくるかもしれない。それも困る。

 気を集中させる。治癒力を高め、傷を塞ぐ。

 それなりに回復させ、黎琳は力を止める。

 正体は知られてはならない。敵に知られても、人間に知られても、後々面倒な事が起きる。

 ましてや自分は応龍なのだ。特別な龍なのだから特に注意しなければならない。狙われる訳にはいかないのだ。

 だから黎琳は姿を変えたのだ。以前しつこく教わった変化の技を使って。

 それでも長い耳は残ってしまうので髪で隠しているのだが。

 ――とりあえずはこいつから地上の情報をそれなりに搾り出してやろう……

 横でしゃがみ、卓に頬杖しながら黎琳は彼が目覚めるのを待った。


 外には雨が降り始めていた。

 「んっ……」

 ようやく彼が目覚めたのはここへ運び込んでから二時間ほど経っていた。

 ただ待っているのは退屈過ぎてもつわけがなく、外で色々やらかしていた黎琳の騒音で目を覚ましたらしい。機嫌が悪そうで、眉間に皺がよっている。

 「お前、何やってんだ?」

 「お前って呼ぶな!」

 質問に答える前に黎琳は彼に跳び蹴りを喰らわせていた。

 「ごふっ」

 そのまま腹を抱えて倒れる少年を見下ろし、いい眺めだと言わんばかりに黎琳は口の端を持ち上げた。

 「私には黄黎琳と言うれっきとした名前があるんだ!黎琳様と呼べ!」

 「言っておくがな、俺だってお前じゃなくて、劉衿泉だ!覚えておけ!」

 「何が覚えておけ、だ。私の足元にも及ばぬ者の名前など覚えんわ!」

 譲らぬ両者。

 猫の縄張り争いと言わんばかりに歯を剥き出し、毛を逆立ていがみ合う。

 が、大人しく引き下がったのは少年の方だった。

 素直に言う事を聞くのかと思いきや。

 「いちいち様をつけて呼べるか。黎琳でいいだろ」

 とうとう堪忍袋の緒が切れた。

 「何を言うか下僕の分際で!」

 そこらのものを投げつけてやる。やはり剣の腕前は惜しい。

 ――色々聞きたい事があるが、いちいち癪に障る……。それにこの剣の腕前は使えるだろう

 「よし、決めた。私がお前を雇ってやる」

 「!?」

 「お前、ここが故郷なのだろう?故郷がこれではここには留まれないだろう。だったらその剣の腕前をかって、私と共に来い」

 「……お前、一体何者なんだ?」

 適当に言ってのけた。

 「退治屋だ」

 こうでも言っておけば、それなりの強さがあっても納得がいくだろう。

 それで全部誤魔化しきれた訳じゃない。疑いの目がしばらく向けられた。が、衿泉はそれを信じる事にしたらしい。その事に関して問いただそうとはしなかった。

 「なあ、お……じゃなくて黎琳。言っちゃ悪いが、目が悪いのか?さっきの見ただろう。俺は黎琳に助けられた。あれほどの妖怪すら倒せなかった」

 「口の悪い奴め。……叱るのも面倒になってきたから、それで今は許してやる。だったら実践を積むことだ。素質は十分にある。ただ、場馴れしていないだけだ。それなりに経験を積むことで、お前の剣はかなり磨かれるだろう。なあに、この私が太鼓判を押すんだ。自信を、誇りを持て」

 「……」

 気難しい表情をする衿泉。それもそうだ。守りたいものは守りきれなかった。そして黎琳には分からないだろうが、男が女に助けられるだなんて、情けなくて恥ずかしいことだ。そんな自分に誇りや自信を持てるわけがない。

 だけど……。

 いい事を言うだろうと言わんばかりに誇らしげな彼女の姿はとても輝いていて。

 未だ自分を認める――許す事は出来ないけど、彼女と共に居たら、その道は開いていけそうで。

 立ち上がり、ゆっくりと決意を表明する。

 「俺は、強くなる。強くなって、この剣で、守るべきものを守ってみせる」


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