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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     強さを求めて

 次の日。黎琳はもう回復したと言うので都の市へと繰り出した一行。

 「こんなものか……」

 刀の切れ味が鈍ってきたので、新しい対の二刀を買った。

 ついでに食料やら汚れてシミになったり破れたりしていた服も新調した。さすが都だけあって値段も少々するが機能もありながら見た目にこだわった品が多い。

 かなりスリットの入った濃紫のチャイナ服を買った黎琳。春零のは裾に刺繍糸の艶やかな模様が刻まれている。衿泉のは生地が少し高価なものを使用された緑のいたって質素なものである。

 「流石は都ですね!」

 「そうだな。賑わいもあるし、いいものが買えるし……」

 「一体お前はいくら持ってるんだ?こんだけの物を買い揃えるなんて……」

 ――げっ、怪しまれている!?

 「ま、まあそこそこ……?」

 「……」

 怪しみの目はしばらく黎琳に向けられていたが、ふうっとため息を着いて逸らされた。

 ――最初逢った時から黎琳はかなり世間離れしているとは思っていたが、どうやらそれなりの有力者の娘のようだな

 身の上話をしないものだから、そんな風に思うようになっていた。

 縁談でも持ちかけられ、何も言わずに家出をしてきた。そんな所だろう。

 見た目はまあまあ美しいし。亜麻色の髪に見惚れて中にはすれ違って振り向いてしまう人達が居る。

 口をきゅっと引き結び、衿泉はツカツカ歩く。何だか自分らしくもない。

 ――何だろう、このジリジリとした胸の痛みは

 苛立ちが募るばかりだ。

 「――貴方達」

 誰かが三人を呼び止めた。

 掲げた紋章から、城からの使いであると悟った。

 「帝王がお呼びです。城へと参上下さい」

 「承りました」

 「行きましょう、黎琳」

 「そうだな」

 案内され、三人は再び城内へと向かうのだった。



 鎮座する帝王の前に三人は跪いた。脇に控える一部の大臣の目が鋭く光っているのを感じ、黎琳も従った。

 あれは余計な事をしてくれた、と言わんばかりの卑しい目だ。

 「お前達がこの王を、城を悪しき力から救い出した者達だな。褒美を取らせよう。真ん中の娘よ、前へ」

 「……は」

 前に出るよう言われた黎琳は心の中で焦った。

 昨日夜に自分の姿を見せたのだ。どんなに色が違っていても、それ以外は全く同じであるのだからばれてしまうだろう。

 それは構わない。その後、王はちゃんと約束を守れるだろうか。

 こんな中で応龍である事が知れたら、あの鋭い目の持ち主達は間違いなく襲ってくる。抵抗すれば応龍である事を証明してしまうし、そのまま殺されては元も子もない。

 玉座へと続く浅い階段を上る。

 出来るだけ顔が隠れるように俯き加減になる。

 階段を上りきり、王の前に黎琳は立った。ぐっと奥歯を噛み締めた。

 「少し話を聞きたい」

 「お答えします。……殿下」

 「お前達はこの都の者ではないな。旅人なのか」

 「作用です」

 「その旅の目的は何だ?」

 「……私達は、妖魔によって大切なものを奪われました。もう同じような思いを誰にもさせたくはないのです。そのために――各地を旅します。私達には帰る場所もありませんから」

 「つまりは、妖魔退治であると見てよいか?」

 「……構いません」

 衿泉と春零が顔を見合わせた。

 しばし見つめ合って、二人こくっと頷いた。

 「ならばこの王はこの三人に最大の支援をしようぞ。銀蒐よ!」

 「はっ!」

 「この者達の旅の力添えをせよ!」

 「承りました!」

 命ぜられたその人物は先程城からの使いとしてやって来た二十歳くらいの青年だった。王のお気に入りの臣下のようだ。他の周囲の臣下達とはまた別格の服を着ている。

 その脇には鎖を巻かれた槍が無言で立っていた。

 短く切り上げられた茶の髪に、同じく茶の瞳の持ち主だった。

 「帝王よ、お心遣いに感謝します」

 王付きの戦士なのだ。実力の高い者なのだろう。心強い。

 全く、王はやってくれる――。

 踵を返す時に微かに笑みを浮かべる黎琳の横顔が昨晩の応龍の姿と重なった。

 ――!!

 思わず出そうになった声を無理やり押し込め、彼らが退出していくのを見送った。

 重々しく謁見の間の扉が閉じられ、王はふうっと息をついて玉座に座る。

 妖魔の事は彼らに委ねよう。

 だが、問題は別にいくらでもある。

 誰の操り人形にもならない。妖魔だけでなく、王家を弄ぼうと陰謀を秘めた臣下達にも。

 人間を統べる者として、更に強さを求めなければならないのだ。

 「皆の者、これより今後について集会を行う」

 両方の敵との戦いは長くなりそうだ。



 「銀蒐殿」

 「いかがした」

 一行の泊まっている宿へと向かう途中、衿泉は銀蒐に口を開いた。

 「俺に……稽古をつけてくれ」

 「戦いの、か?」

 「ああ」

 はて、と銀蒐は首を傾げた。

 「話からすれば、かなりの強者であると聞いている。私から学べる事などないのでは?」

 「いや、まだだ。まだ、足りないんだ」

 そう、こんな所で満足などしていられない。

 上には上が存在している事を痛感してしまったから。それに太刀打ち出来る力を身につけなければ。

 強い決意の念が銀蒐にもはっきりと伝わってきた。

 「それなら、案がある」

 「話してくれ」

 「都を出て北に四日行った所に滝のある湖がある。あそこは修行の場に打ってつけだ。現に私もあそこで修行し、今にあたる。私が直接叩き込むより、そこで自ら修行を積むほうがいいだろう」

 「分かった。後で二人に提案してみよう」

 こそこそと話し合っていたのが変に思われたようだ。黎琳がこちらを向いていた。

 「何話してたんだ?」

 遠慮というものを知らずに問うてくる彼女に、衿泉は

 「ちょっとな」

 と言葉を濁すのだった。

 言いづらい部分を突かれてしまうのがただ怖かった。

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