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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     何も出来ない者

 どれだけ担がれていただろう。

 ふいに乱暴に突き落とされた。

 「帝王よ、この者達がのうのうと都へとやって来た旅人達です」

 「うむ、こやつらにはあの方のために邪気を各地へ放ってもらう重大な任務がある。しばらく牢に入れておけ。より強力な香を用意させる」

 「はっ」

 どうやら王は気付かなかったらしい。

 気を失ったふりをしながら黎琳は遠くに君臨する帝王の気配を探っていた。

 人々に感じられたものより、はっきりとした邪気を感じ取れる。少し強めのものを使われたようだ。

 再び担がれ、移動する。

 本当は今のこの機会に王へ直接気を打ち込んで正気を取り戻させても良かったのだが、少し黒幕を油断させようと思ったのだ。

 動揺を煽れば、戦いやすくなる。

 生身の人間を相手にするのは少し気が引ける。と言うより、上から叱りを受けるだろう。そっちの方がこちらにとっては都合が悪い。

 風が冷たくなってきた。地下へと潜っているようだ。

 ひたっ、ひたっと不気味な足音。

 そしてまた乱暴に突き落とされた。ガチャンと扉が閉められ、鍵がかけられる音がした。

 足早に民は去っていく。確かにずっとここに居たら気味が悪いだろう。

 完全に誰も居なくなったのを確認して、黎琳は起き上がる。隣に同じく放り出された衿泉と春零の姿がある。二人とも何ともないと言わんばかりの顔をして眠っている。

 まあこんなものの耐性をつくっておけなどと言う方が無茶なのだろうが、多少は耐えてほしかったものだ。ここまでぐっすり寝てしまわれては起きそうにもないし、一人で二人を担いで抜け出す事も出来ない。

 ――龍化して大暴れしてもいいんだが、その後の説明が面倒だし……

 とりあえず一人で抜け道でも探すか。そう思い、立ち上がる際に壁を支えにした所、何かの仕掛けを作動させてしまったらしい。壁の一角がへこみ、ガコガコと下から音がする。

 「まずっ……!?」

 気付いたときには足元に床がなくなっていた。

 少しの間浮遊していた身体が支えを失って降下していく。

 「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!」

 何処が果てなのかさえ分からない真っ暗闇を垂直に落下していく。先に落ちていっているはずの衿泉と春零の姿は捉えられない。

 ふいにドシンと音がした。直後に柔らかい抱き枕のような物体に腹から落ちた。

 「ぐっ!」

 思わず咳き込む黎琳の下でその人物は起きた。

 「ん……何だよ……!?」

 この時黎琳も初めて気付いた。着地したのは抱き枕の上なんかじゃない。衿泉の上であった事に。

 もちろん何が起こっているのか彼に理解が出来るはずがない。

 「ここは何処だ?俺達は宿で一寝入りしてたはずじゃ……!」

 「それが……、気付いたら牢の中に閉じ込められていてな。そして更に突然変な仕掛けが作動してこんな所まで落ちた」

 突如灯された明かりに二人は目を細めた。明るい、蝋燭の光。数本じゃない、数十本はまとめて灯されているようだ。

 こちらに影が一つ近づいた。思わず身構えた二人にその影は問う。

 「貴方達は……都の外から来た者ですか?」

 「へ?は?」

 「口を慎め!」

 その後ろから罵声が飛んだ。

 「女王陛下の御前だぞ!嘘偽りなく話せ!」

 よくよく目を凝らして見れば、目の前の影は女性だった。美しく結い上げられた髪と、豪華な装飾品。どうやら本物らしい。

 だけど、王は操られているのに、どうして女王は無事でこのような場所に居るのだろうか。

 「はっ、無礼をお許し下さい、女王陛下。我々は旅の途中都に立ち寄った者です」

 「旅人でしたの……。しかし、よく外から入れましたね」

 「……どういう意味でしょうか?確かに周辺は妖怪の数が多くはありましたが、門番は簡単に中へと導きましたが」

 「奴らめ、一体何を考えているのでしょう」

 懐から扇を出して口元に当てる。

 「女王陛下、この者達は我々に任せて、隠し部屋の方へお急ぎ下さい」

 どうやら城にはそれなりの隠し通路やら隠し部屋がしっかり存在しているようだ。

 もしかすると、王の異変に気付き、判断のよい臣下達がここへと連れ出したのかも知れない。

 人間も考えたものだ、と感心する。

 促されるがままに女王はゆっくりと道の先へと進む。

 「そなた達も来るがいい。女王陛下はお前達を放っておけはしない」

 上から目線にむっとしながらも黎琳は立ち上がった。ここで暴れて賊扱いされては困る。

 今の自分は民の一人として振る舞わなければならないのだ。そう言い聞かせた。

 純粋な国民である衿泉、春零は素直に付き従う。

 ――こいつ等は私の所有物だ。決してお前達の盤上の駒の一つなどではないんだぞ。何しろ、この私が選んだ平和を導く戦士達なのだからな

 無駄な嫉妬をする黎琳なのであった。


 壁の一角にある仕掛けを発動させる。

 行き止まりだと思われていた壁が左右に開き、中にそれなりの広さを持つ空間が広がっていた。

 その真ん中にあるふかふかの椅子に女王は腰掛けた。

 開けた入り口をしっかり閉鎖しておく。でも万が一ここを襲撃されたらもう逃げ場はなさそうだ。

 「さて、どうしたものやら。ずっとここに留まる事も出来まい……」

 優雅に風を仰ぐ女王。

 「女王陛下だけでもお逃げ下さい。貴方様さえ生きていれば、いつかは好機が訪れるでしょう」

 「逃げては国民に指し示しがつかんであろう!」

 だんだん激しくなる会話の様子を見つめながら、ついに黎琳は堪え切れずに吹き出した。

 その場の空気が凍りついた。シンとなった広間に黎琳の高笑いだけが響く。

 顔を真っ赤にして震えていたこの場の君臨者は激怒した。

 「そこの者!何がおかしいのだ!無礼者が!」

 扇の先をピシャリとこちらへ向けた。

 ようやく笑いがおさまり、黎琳は少し涙ぐんだ目でその君臨者を見た。鋭い光に彼女はぐっと息を呑んだ。

 「お前達はただ逃げ惑ってわあわあ騒ぐ家畜の鶏か!?実に滑稽だ!」

 「何を言うんだ、黎琳!女王陛下の御前の前だぞ!」

 衿泉が割って入る。

 反吐が出そうだ。過去の自分を見ているかのようで。

 「必死で足掻いているその様は無様だぞ、女王!何も出来ないのなら、大人しくしていたらどうだ!」

 次の瞬間、女王は黎琳に飛び掛っていた。


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