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龍神烈風伝  作者: 鈴蘭
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     芝居好きの操り人形

 全速力で走って数分。

 途中で出くわした妖魔は春零の歌で退けた。

 息切れしかけた春零を春蘭が乗っ取り、走る。

 やがて大きな門が見え始めた。

 「すいません!すぐ通してもらえますか!?」

 「怪我人が居るんだ!」

 門番に叫んだ。普通都に入るためにはそれなりの手続きを踏まなければならない。入都申請に、通行許可証の発行など、普通は一刻以上かかるのだ。

 すんなりと通されるはずがないのだ。この中には守るべきこの国の長が住まわれているのだ。

 だが門番はうんうんと頷いてあっさりと言った。

 「どうぞ、どうぞ」

 「え?」

 巨大な門が手招きするように開く。

 ――怪我人だから特別、か?

 「ありがとうございます!」

 不自然に思ったが、今はそれを考えている場合じゃない。

 礼だけ述べてその場を走り抜けた。

 その姿を見送り、門番はニヤリと笑った。その場に跪く。

 「何も知らない一般人が中へと入りました。殺しますか?」

 「いや、待て」

 いつの間にか彼らの目前には一人の女が立っていた。

 降ろされた長い真っ直ぐな金髪。人間のものではない、むしろ狐の類の耳がぴょこりと立っていた。丸い緑の目は可愛らしさがあるが、瞳孔は鋭い。

 「その間抜けな人間を操って、どんどん都から放てば支配は広がる。殺さず、操るんだよ」

 「かしこまりました」

 門番が仲間の兵士に黎琳達を捕らえるように命じる。

 「帝王が操られ、都に住む者達は全て操った。あとはその支配を広げていけばいい。気付かぬうちに人間は闇に侵食され、完全に我らの掌中に収まる……!」

 けれどもこの支配は始まりにしかならない。

 本当の目的を果たすための、大きな一歩でしかないのだ。

 「応龍の姿は銀髪に緑の目をした女だと言ったな。先程の人間達はそんな姿をしていなかったし、応龍は入り込んでなさそうだ」

 あっさり注意は背けられたのである。



 その足ですぐさま宿へと駆け込み、応急処置を受けた黎琳。

 傷自体もそれほど深くはなかった。だが服装が服装なので、傷がしっかり見えてしまうのだ。

 包帯で巻かれてしまい、動きがとりづらい。

 「とりあえずこのまま一休みするか……結構疲れも溜まってきてるし」

 「そうですね……何だか眠いです」

 ふああっとあくびをして、衿泉は椅子に、春零は黎琳の寝かされている布団の隣の布団に横になった。

 しばらくすると規則正しい寝息が聞こえ始めた。どうやら相当疲れていたようだ。

 それも仕方がないだろう。連続しての戦闘に、黎琳を運びつつ妖怪の森を走り抜けたのだから。

 ――どうせこんな傷なんて

 痛む箇所に手を当て、集中する。

 表面的には分からないが、痛みがひいていくのを感じる。元々龍というのは治癒力が高い。更に治癒術をもっているので、傷など一瞬で消す事が可能なのだ。致命傷を負ったら話は別だが。

 ――おせっかいなんだから……。でも、感謝するべきなのだろうな

 一人の仲間として見てくれている。そう思うと心が温かくなる。

 これが人々の付き合いの中で芽生える感情なのだろうか。

 ほんの一時しか感じられないとしても、今はこの感情を押し殺さなくてもいいだろうか。

 瞼を少しずつ閉じた。襲い掛かってきた睡魔に身を委ねようとした時だった。

 背筋が凍りついた。身体がビクッと反応する。

 ――な、何だ……!?妖魔の気配はしないと言うのに、このとてつもない邪気の気配は……!

 春零の時と同じだ。

 もしや、人間が放っているのか――?

 「よく眠っておられますね」

 宿屋の主人の声がした。とりあえず無視して寝ているふりをしてみる。

 がさごそっと音がした。隣に居たはずの春零の気配や、衿泉の気配が遠ざかる。運ばれているらしい。

 「流石に入り口で嗅がせた香の効果が強いようですね」

 入り口で香と呼べるような匂いはしただろうか。もしかしたら、自分には気付かない、人にしか効果がないものなのかもしれない。

 「この娘も運びましょう」

 手が伸びてくる。

 瞬時にその手を掴んでやる。

 「なっ!?」

 「一体こそこそ何をしでかそうとしてるんだ?この大きな鼠め」

 閉じていた目をしっかり開け、睨みつける。

 主人は最初は驚いたものの、ご丁重に説明してくれた。

 「そうか、この方はあまり眠り香の匂いが届かなかったのですね。担がれ、背を向けるような形でしたから……。貴方達はこれから殿下の元へと運ばれるのです。殿下の命令ですから」

 何だか目が虚ろだ。様子が明らかにおかしい。

 微量に感じる邪悪な気配。人間なのに、妖魔が身を潜めているような気配を持っている。

 何か、術をかけられているのか――。

 「香を持て」

 用意させる間もなく黎琳は強力な陽気を周囲に放った。元々陽の気をしかと持っている衿泉や春零には傷一つ付けず、その他の人間は気に当たり、その身の邪気を弾かれる。

 パアンッと殴られたような音と短い悲鳴。

 連鎖して倒れた人々。頭を抱えている共通点がある。

 「大丈夫か?」

 反応を確かめる為、黎琳はその一人に駆け寄った。

 「うっ……」

 気が付いたその男は真っ先にこう言った。

 「貴方は……?私は、一体今まで何をして……?」

 やはり、操られていたようだ。記憶が吹っ飛んでいる。

 運ぶために毛布でくるまれていた衿泉と春零を見るなり慌てて解こうとする人々。

 「ちょっと待て」

 「!?」

 「お前達は一体いつから記憶がない?」

 「確か、年に一度の王のお姿を拝見出来る祭りの時に――」

 ――王、だと?先に王から操ったのだな

 「恐らく操りが解けたと知れたら命はない。お前達は予定通り私達を城へと運び出せ」

 「何処のどなたか知らないけど、一体何者なんだい!?」

 「今は何も聞くな。見ても見ぬふり、聞いても聞かぬふりをしろ。いいから、操られたふりをしておくんだ」

 蒼の瞳が緑の輝きを放った。

 「……分かりました」

 大人しく言う事を聞き始める。黎琳が操りではなく、暗示をかけたのだ。

 操りを行うとどうしても不自然な点が出てきてしまう。暗示ならば脳が働いている状態で、正気を一応保ってはいるのだから、気付かれにくい。

 きっと城には王と、操っている張本人が居るだろう。

 ――とにかく、隙を突いて行かねば……

 操り人形と化していた人々は意思の持った忠実な僕となった。

 ――芝居がかった操り人形に自ら滅びの階段を上らされるがいい……

 三人は闇が暗躍する城へと運ばれていく。

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