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「……、ね、聞いてもいいのかな」
『……あー、返答によってはお宅には答えんよ。俺は忙しいんさぁ。心理学的なことなら、そこの棚のフーコーにでも聞けば?』
……私は、むっとしながら、……読みかけのミシェルフーコーの思想を扱っている……らしい、ポスト構造主義の解説書的な薄い本を見つめた。薄いが難解で、……まだ数ページしか読み込めていない。日本語なのに。
「……フーコーは心理学じゃないし……」
むっとしながら、エビの答えを訂正したが、……訂正しようとした本人が、フーコーがなんたるか、を説明出来ない為、言葉に詰まる。
(……くそ、エビのやつ、私が言葉に詰まるのを見越して、こんな返しを……エビのくせに……)
恨めし気にエビを上目遣いに見上げれば、エビは、最近、購入したポケットサイズのビデオカメラ?(私は詳しくない。全てエビがネット注文してた)で、水耕栽培中のヒヤシンスを定点観察出来るよう、セットをしている。ヒヤシンスは、私の好みの薄ピンクのやつではなく、……エビの好みの白いやつであり、エビは、新たな趣味をそこで構築し始めていた。
エビは、私の知らない曲?を鼻歌っていた。……楽しそうである。
……今は、何故か、エビの作ったカレーが食卓に並ぶ。色々疑問はあるが……エビのお陰か否か、私の殺風景だった何もないワンルームは、エビがネット注文し揃えた食卓用の二人掛けのテーブルや椅子、PC用の棚付きデスク、椅子、ベッド……間接照明など、おしゃれ空間に変貌していた。……エビは、私が創り出した幻覚だとエビは言うが……恐ろしすぎて想像出来ない。もはや意味が解らない状況に私は流され始めていたが、今、……目下一番の疑問は、食卓の上のお皿の上にあった。
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「……忙しいっていうか……ね、エビって……カレー食べてもよいのかな?」
『……』
……趣味に熱中しているエビは答えない。ビデオを片手で定点観察用に細かく動かしつつ覗き込みながら、機械的にエビ自作カレーを口に運ぶ。……しかも
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……しかも、そのカレーは、シーフードカレーだ。
「……エビって残酷な生き物だっけ……?」
ぽつっと呟いた私の独り言に答える者はこの空間には居ない。
『……ん?食が進んでねぇな。うまくねえの?俺自作のシーフードカレー。カレーはやっぱりシーフードだよな……うめえ』
自画自賛したエビは、独り悦に入り、自ら剥いたむき身のエビのプリっとした身をかりッと齧ると、ユーチューブに嬉々として、登録している。エビという謎タイトルにも関わらず、エビの定点観察は、美麗だということで密そかなファンをつかんだらしく、エビは、人気になり始めていた。……私の幻覚なのでは……という私自身の疑問は宙ぶらりんのままだ。
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「……エビとは……」
……今日も今日とて、……私だけの疑問が加速していく