959話、ラグナ、この国は生まれ変わるんだから、邪魔をしないで貰いたい
SIDE:ラグナ・ザルツヴァッハ
「いやはや、この度は王位を取り戻せたようで、とても喜ばしいことであると私共も歓喜しております。それでですね……」
「世辞はよい。カスタローレル王国からの賛辞は受け取っておこう。しかしながら我を見限ったそちらの国から、これ以上の接触をされても我が国としては不要と言わざるを得ないのだがな?」
「な、そ、そのようなことは、我が国はラグナ陛下を何度もお助けしたと思っておりますのに、ソレを無碍になさると!?」
本日、折角立て直しに動きだした矢先のことだ。カスタローレル王国から使者を名乗る男がやってきた。小太りで揉み手が良く似合う男はボクの前で世辞を言いながらカスタローレルも手伝ったから一枚噛ませろと言って来たのである。
当然。さっさと身を引いたこの国を我が国の流通経路に組み込みたくは無い。幸い、この国を放置しておいても我が国の流通が滞ることはないため、全ての要求を却下するつもりである。
「ガレフ殿、こう言っているが、どう思うかな?」
「え? 俺が発言するんっすか?」
宰相は今人生で一番忙しい日々を送っているはずだ。なので玉座でカスタローレル王国の使者と雑談なんぞやってる暇は無い。その為代わりにガレフ殿に隣に立って貰っているのである。
護衛兼相談役だ。大いに役立って貰おう。
「そうっすね。意見言うのはいいんですがね、俺はカスタローレルが何をしたかを知らんのですわ」
「ああ、そうだったか。エスティナーダ……いや、もう毒婦と呼んでおくか。我が殺されかけて宰相と逃げた先で接触して来たのだ。叔父、いや偽王を討ちたくないか、と兵を貸すからと言われてね。その時は二人きりでの逃走だったので喜んで借りたさ。まさかならず者集団とは思ってもみなかった」
アレは酷かった。
正規兵だとばかり思っていたのに、街に入るなり市民に迷惑掛けるわ、衛兵と揉めるわ、女性を襲うわ、気に入らない奴を殴りはじめるわ。
戦いになればボクの言うこと聞いてくれるかと思えば半数以上が一瞬でいなくなる、戦闘そっちのけで村に攻め込み略奪を始める。
あまりにもならず者過ぎたので村に泊まらないようにして野宿を始めれば数がどんどん少なくなって行き、一週間もしない間に一人も残らなかった。全部野盗になっちまったよ。
さらにカスタローレルから使者が引き上げボクと宰相だけが残された。
あとは攻め寄せてくる偽王の兵に追われに追われてようやく辿りついた街でツイテルさんに助けられるまで物乞いと同じような生活を強いられたのである。
「え、手伝ったってそれだけっすか?」
「ああ、それだけだ。手伝うというよりも要らない犯罪者を押し付けられて国内に散逸させられただけだね。今その散逸した残党共を正規兵で狩ってもらってるところさ」
「ああ、ゴルディアスがミリスタシオン引きつれて楽しそうにしてたのはそれでか」
「そういうことだね。さて、どう思う?」
「カスタローレルがやらかしたせいで追い詰められてる訳だし、何度もつか一度も助けてねぇよな?」
「彼ら的には人材を数度に分けて補充したって話だけど、正直ならず者増やされてもね、あいつら食費だけは常人の二倍位消費するからほんと邪魔でしか無かったね。もしもアレが無ければ村人たちを説得して民兵を作れてたんだけど、それもあいつらへのヘイトが高過ぎて敵意すら抱かれてたから民兵なんて作れる下地もなかったし」
むしろカスタローレルは叔父さんを手伝ってたんじゃないだろうかとすら思えているよ。
「むしろ足引っ張っただけじゃね? それで一枚噛ませろは厚かましいにも程があんだろ」
「ぐ、ぬぅぅ、い、いいのかラグナ殿、これは我が国への宣戦布告に等しいですぞ!!」
「え、マジで、いやー有りがたいっすわ。ウチの兵殆ど活躍出来なかったんでぜひぜひ戦わせてほしいですね。ゴルディアスだけで終わっちまうから他の兵士が何も出来てねぇんだよ。折角来たんだから多少はぶっ倒したいし? ちゃんと全員生かして捕虜にするからいいだろラグナ王」
「戦争を訓練感覚で言わないでくれないかな。まぁそういうことだ。カスタローレルが敵対するというのならいつでも来ると良い、受けて立つ。まぁライオネルが、だけどね。あと潜在敵国と言うことであれば我が国はカスタローレルとの国交を断絶するつもりだ。以上、そちらの王としっかりと話し合ってくるといい」
と、ボクはカスタローレルからの使者をさっさと追い出す。
謁見者がいなくなった玉座の間で、僕はふぅっと息を吐く。
「ガレフ殿、カスタローレルは戦争するかな?」
「いやー、ウチを警戒して戦争はしないっしょ。あとは王様がこちらをどれくらい脅威と捉えるかだな。脅威とすら思っていなければ上から目線で友好条約を結ぼうとしてくるな。戦争は仕掛けないでやるからウチからの商品しっかり買えやオラ、って感じで」
「それは、突っぱねないとだなぁ」
「逆に脅威と思っているなら即座に別の使者を用意して適正価格での不可侵条約を結ぶかな」
不可侵なのか。それはそれでどういう意図かわからないなぁ、ガレフは分かってるみたいだけど、ボクにはまだまだ先の事を考える余裕は無いのである。
「まぁ、一番可能性高いのはそこまでこっちを危険視も重要視もしてないからご機嫌伺いに妻候補でも送ってきてカスタローレルの王族候補を作っておこう、後年に介入するために、が一番可能性高いかな」
「なるほど……じゃあ向こうからの女性は送り返すのが良いのか」
「あー、それが一概にそうとも言えんのよ。まぁまずは相手の出方から見てみようぜ」
ガレフ、どうでもいいけど口調が砕け過ぎだよ。一応ここ謁見の間だから他国とはいえ王様相手にため口はダメだと思うんだ。いや、ボクとしてはガレフに畏まられる方がなんか嫌だけど。




