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954話、ガレフ、誰も助けにきやがらねぇ

SIDE:ガレフ


 なんだ、これ?

 ザルツヴァッハのとある町、そこに反抗組織のメンバーが集っていた。

 普通なら、街一つ組織化したら纏めてやられるはずなのだが、既にやってきた正規軍はゴルディアス無双によって壊滅し、敵主力部隊は無力となった。


 今頃帝王様周辺はてんやわんやだろうなぁ。

 ライオネルにちょっかい掛けた奴らは全部捕虜になって、反乱軍に差し向けた軍も捕虜になって、後何が残ってんだろうか?

 近衛兵くらいか?


 つかツイテルとプリムローズが戦闘に参加しようとする前にゴルディアスが独りで部隊壊滅しちまったからなぁ、他の兵士も折角やって来たのに相手を死なさないように風魔法で助けるしか出来なかったみたいだし、完全に戦力が余り過ぎてやがる。


「かー、美味ぇ!」


 んで、やることがなくなっちまった兵士達がやることと言えば、訓練もしくは酒盛りである。

 反乱軍のメンバーも俺達の快進撃にテンションが高かったので訓練よりも酒盛りにシフトしてしまった。夕闇が迫る空、篝火を焚いて街の中央に集まった皆が酒盛りで盛り上がる。男も女も老人も子供も、人間も亜人も皆纏めて楽しそうに笑い合う。

 今まで逃げ一辺倒だった殿下と宰相さんは、一番目立つ席で口をぽかんとあけながら、騒ぎ続ける人々を見ていた。


「そら主役がぼーっとしてどーすんっすか。ほれ、飲んだ飲んだ」


「え? あ、ありがと?」


「ちょ、ちょっとお待ちくださいガレフ殿! い、いくらなんでも酒盛りをするのは」


「反乱軍だから忍ぶべきだってか? 正直に言えば敵が居ねェのに忍ぶ意味がねぇ。皆弟帝派の暴虐で鬱屈してんだ。ここらでぱーっと騒いで多少のガス抜きしねぇとな。なぁに、殿下と宰相閣下の警護はライオネル軍が責任持ってやりますよ。ささ、ぐぃっと飲んで日頃の不満を叫びましょうぜ。無礼講無礼講」


「んぐっ、ぷはっ、ああ、質の悪い酒だな。だが、美味い。はは。美味いや……」


 今までさらに質の悪い食事しか出来ていなかったのだろう。

 殿下は涙を流し声を震わせながら酒の不味さを謳いだす。不味いと言いながら美味いって、矛盾してんだけどなぜか理解出来ちまうなぁ。まっずい酒なのに久々に飲める酒だからこそ美味い。

 泣きながら食事を食べだしたじゃねぇか。

 何時もなら毒味役が食べた後の食事を食べるだろうに、躊躇なくがっついたのはそれだけ美味しそうな料理に我慢できなくなったからだろう。


 鑑定済みだからここに毒物は無い。

 無効化結界で敵意ある攻撃は弾くようにしてっから不意な暗殺も防げる。

 なにより、皆楽しんで心の底にたまったもんぶちまけちまった方が楽しく反乱できるからな。

 心の持ちようは陽気な方が前を向けるってもんだ。


 ……

 …………

 ………………


「ガレフ殿、ボクは頑張ったんだ。幼いころから次の王になるからって王族教育させられて。厳しくて逃げ出したかったけどそうして逃げた父さんの弟みたいになりたいかって何度も怒られて必死に覚えて。婚約者も好きじゃなったけど決められて。我儘で冷たい印象の、でも頭は良い女だった。結局父が死んだ瞬間僕を見捨てて叔父さんを城に引き入れて王にしてしまったんだ。叔父さんの婚約者になった、というより叔父さんがあの女と密通して堕としてたんだって気付いた時にはボクの傍に居てくれる存在は宰相だけだったよ、こんなひどい事ってある!?」


 殿下は酒飲むと絡み酒になるらしい。

 既に日は沈み星々が輝き始めるが、赤ら顔の街人たちは一層楽しげに笑い合っている。終わりそうにねぇな酒盛り。

 宰相と殿下の間に座らされた俺の首に腕を回して肩に乗せ、思いっきり引き寄せながら睨み付けるように言葉を吐きつけて来る殿下。酒臭ぇ……


「おお、なんという、ガレフ殿、私がどれ程この国に尽くしてきた事か、あの男が簒奪さえしなければ殿下が王となりこの国は再び平和な日々を送っていたというのに、あの毒婦を見抜けなかったばかりにぃぃぃ」


 そして宰相さんは泣き上戸だった。

 俺の裾に縋りつくおっさんが俺の裾で鼻をかむ。

 俺の一張羅……お嬢に新しいの請求しよう。マジでしよう。俺のささやかな反乱だ。


「おい、聞いておるのか。ボクは怒っているんだ。理不尽なこの世界に、なんでボクがこんな辛い思いをしなければならない、叔父さんなんかくそくらえだ! そうだ、あいつが全て悪いんだ、ボクの人生めちゃくちゃにしやがって、あの女諸共全裸で国中歩かせてやるっ」


 それはそれで嫌な罰だな。

 というか、この殿下かなり溜め込んでたみたいだなぁ。

 普段は理性で物凄く自分をがんじがらめにしているようだけど、お酒に酔って本来の彼が表に出てきてしまったようだ。まぁ、暴力的じゃないだけマシか。


「ああ、なんという不条理。私がどれ程国に尽くしても国は私に何も返してはくれぬというのか。何故宰相などになってしまったのか。投げ出してしまいたい。でも投げだすと陛下が、殿下が、ああ、ガレフ殿、どうすればよいのでしょうか」


 宰相は先程自分が鼻かんだ場所に顔を埋めて泣きだした。

 こいつはもう、ダメだな。完全に出来あがってやがる。

 溜息一つ、俺は満天の夜空を見上げる。


 あー、二人ともさっさと酔い潰れてくんねぇかなぁ……

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― 新着の感想 ―
[一言] プチカオス空間なんだよ。
[良い点] ゴルディアス隊長もキャラ立って良いよねー でも軍最強キャラはシュバイデンさんと心の中で決めてるのだーシュバイデンさんまだかなー(厄介なファンがとおりまーす) [気になる点] 我儘で冷たい…
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