951話、ガレフ、人材過多だろ?
SIDE:ガレフ
おいおい、どーなってんだこりゃ?
今、俺はザルツヴァッハの殿下と宰相と共に、街中を歩いていた。
いや、本来は暗い部屋にでも隠れるべきなんだがな、なんか街が騒がしくなって、ツイテルたちが戻ってくると同時に俺に言ったんだ。
「すまん、やりすぎた」
「ちょっとやっちゃった」
そしてその日、殿下派は1名から9000名へと増えた。
この町と隣町二つが一斉に反旗を翻したのだ。
そしてその掛け声が……
「我らが背には国がある、国の中には民がいる。民の中には家族がいる!」
そう、ようするに、
「ならば! 守り切れっ! あらゆる難敵襲えども!! 我らを越えては行かせるな!!」
こいつら民を焚きつけやがった!?
「我こそが! ザルツヴァッハを守護する兵である!!」
いや義勇兵!? お前ら兵士じゃないだろ!?
なんで一致団結してんの? しかも闇街のヤバそうな奴らまで一緒に剣付き合わせて気合入ってるじゃねーか!?
「殿下! 共に弟帝派から我が国を取り戻しましょう!!」
「……が、ガレフどの、こ、こここ、これって一体……?」
「怖いのは分かる。今まで宰相さんしかいなかったもんな。でも、弟帝派の考えに賛同してない奴らってのは民間の方が多いんだ。しかも皆兵士達に虐げられ、無理矢理兵士に男手を連れ去られと不満が爆発しそうになってたんだ。そこをツイテルたちが一人で街中の兵士粉砕とかしちまって、ライオネルは殿下に付く、共に王を盛りたてよう、とか弟帝派を倒して平和を、とかいっちゃったんだろう」
「お、おおぅ……」
「しかし、士気が高い気がするのだが……一体何を吹き込んだので?」
「あーおそらく俺らの心得? ライオネル式の心得を聞いた民間人が真似してるみたいっす」
どーすんだよツイテル?
「いや、俺としてもだな。ただ皆の前で相手を無力化しただけでだな」
「ちょっと魔法放っただけなんだけどねー」
お前らのちょっとはお嬢のちょっとと同じだろぉがよ!?
ええい、仕方ない。集まっちまった以上は面倒見ねぇとな。
「どっちかは敵軍が来ないか警戒、俺は殿下と一緒に挨拶してくっから」
「ガレフ、頼んだ。プリムローズは南西側の索敵を頼む、暗殺者とかは遠慮なく倒してくれ」
「任せてダーリン。レベル差の脅威ってものを教えてあげるわ」
そのレベル差が開き過ぎてて俺らの指先一つで相手が消し飛ぶんだが?
お前ら一体何やらかす気だよ!?
……
…………
………………
歓声と共に市民兵たちが熱い思いを真上に掲げて叫びだす。
あんな感じのお話でもいいのかお前ら……
まぁいいんだろうな。
「うぅ、緊張した。皆あんなのでよかったの?」
「充分だ殿下さんよ。なぁガレフ」
「殿下はよく頑張った、ただ、これで俺らが何処に居るかは弟帝派にバレただろ。一層の警戒を……」
「ふぉっふぉっふぉ。その心配は無用ですじゃ」
なんだ? って、壁際に老人がいる!? 何時の間に。
「あんたは?」
「お嬢の影、それ以外の名はありませぬ」
めっちゃ仲間じゃん。焦ったわ。
「心配無用ってこたぁ……」
「ザルツヴァッハ殿下護衛に影が10名、先程到着しました。ワシらに警護はお任せ頂き、皆さんは自在に動いてくだされ」
やっべぇの来ちまった。
さすがに戦力過多過ぎじゃね?
大丈夫かザルツヴァッハ? お嬢本気で灰燼に帰すつもりじゃね?
「つか影の人って老人もいるんだな」
「ふぉっふぉ、ワシはこれしか出来ん不器用な男でしてな。結局別の何かもできず、引退の時期も逃し、こうして生き長らえておる耄碌ジジイですじゃ」
耄碌してんなら引退しようか?
お嬢、コイツ普通に大丈夫か?
「あー、ご意見番についてはお気になさらず、簡単な任務に付いてくるだけの方なので。腰やることも結構あるので我々がフォロー致しますので」
めっちゃくちゃ若手に迷惑かけてないですかね!?
とはいえ、10名も影が来てるなら殿下の護衛はこちらに任せてしまえばいいだろう。
自由になった俺とツイテル、プリムローズでザルツヴァッハの街や村を一つ一つ征圧していくか。
「おー、いたいた、すっげぇ人気だなガレフ」
と、ライオネルの兵装をした巨漢が俺めがけてやってきた。
「ぶっふぉ!? ゴルディアス隊長まで来たんすか!?」
「俺だけじゃねーぞ。主な隊長格が解任されてザルツヴァッハに行けっつわれてる。俺らの後任に部隊長を任せて行きたいらしいな。お役御免って訳じゃ無く部隊長クラスを集めて何かさせるための試用試験をここでやるらしい。まぁ、ここの総大将はガレフでいいだろ」
「他国の問題を試用試験に用いないでくれませんかお嬢!?」
あの人一体何考えてんだよ!?
畜生、苦労が巡り巡って俺に来てやがるっ。




