946話、オリール、俺、別国のスパイなんだけどなぁ……まぁいいか
SIDE:オリール
ライオネル王国東砦。
ザルツヴァッハとの国境に位置するこの要所は今、二つの部隊が相対する危険地帯となっていた。
灰色に染まった空の下、小高い草原に位置するのはザルツヴァッハ軍総勢2000名弱。
ザルツヴァッハ曰く東砦をたやすく蹂躙してしまうほどの数らしい。
「はっ、軍として集めるならこの100倍は持って来やがれってな。そう思わないかオリール?」
「まぁ、なぁ……」
正直何も知らず吠えているザルツヴァッハが可哀想に思えてくるのは俺だけじゃないはずだ。
もともとスパイとして別の国からライオネルに来てるはずだった俺からしても、今の戦力でライオネル軍を突破するのは不可能だ。
というかもう、この砦いらんだろ。クレイラだけで勝てるじゃないか。
お前一人さっさと突出して潰してこいよ。弓兵だし得意だろそういうの。
ここ数日威嚇だけして来るザルツヴァッハがムチャクチャ煩いんだよ。昼夜問わず威嚇してくるからぐっすり寝られねぇし、昨日なんて六時間しか寝れなかったんだぞ。
あいつら交替しながら威嚇してるから二時間ごととかで起こされてるんだざまぁねぇな。っていうか、見るからにあいつ等疲れた顔になってきてるんだけど、いいのかアレ?
「正直、あいつ等になら兵糧攻めされても余裕で勝てるなぁ」
「俺ら空飛べるから兵糧攻め意味ないだろ。夜間に空飛んで別の街で腹いっぱい食って帰ってくればいいだけだし。なんなら相手の国で食ってくのもありだぞ」
「いや、そこは相手の国行けるんだから頭獲って来いよ、その方がすぐ済むだろ」
「そういう訳にも行かんのよ。ほれ、お嬢からの指令書」
―― 総司令官より指令なんだよ。面倒なことだけど攻めて来た兵士全てを捕縛しなさい。一人も逃がさず影も斥候も関係なく誰一人相手国に返さない事。捕虜返還は宰相閣下がするそうなのでとにかくひたすら蒐集してね。追伸、やっぱり私が一撃した方が早いし楽じゃない? 宰相閣下に陳情しちゃってもいいんだよ? みたいな ――
「クレイラ、これって……」
「お嬢が相当お冠だ。手紙なのに取り繕ってすらいないだろ、普段はお嬢様言葉使うんだぜ手紙だと」
「いつものお嬢って感じの言葉遣いだが、確かに言われると書類系は畏まってたなお嬢。つまり、本心はさっさと片付けたいわけか」
「学校始まって二学期だからな。二期目の休みに入るまで学校を満喫したいんだろうさ。たった三年だしな」
「そういや、今更だけどお嬢ってまだ学生だったんだな、俺ら何年も訓練受けてるからお嬢の年齢すでに二十台位の気分だったぜ」
「はは、貫禄だけはもう大人だしなぁ。っと、なんか動きが変わったぞ」
今まで威嚇しかしていなかったザルツヴァッハの兵士たちが慌ただしく動きだしている。
どうやら後発隊が到着したらしい。
「こりゃ半日後くらいに来るな」
「やってきた兵を休ませるのに半日、その後全軍で突撃、一気に兵站を広げてライオネル本国に雪崩れ込もうってか。おーおー、あいつが隊長さんかね? 随分とにやついてるなぁ」
「クレイラよく見えるな、俺にゃ太ったおっさんだとしか認識できねぇぞ?」
「弓矢を扱う関係で遠くのターゲットを見ないといけないからな。今だとあいつ等の顔や手の動きとかまで見えるぞ?」
「あいつらは気付いてすらいねぇんだろうな。俺らに丸見えだなんて、なぁ、相手の口見て言葉とか分からないか?」
「あー、お嬢が一時期教えてくれてた読唇術だっけか? えーっと、後続が着いたか。休憩を少しとったら作戦会議だ。代表者をここに来させろ、かな?」
「普通にそれ言ってそうだな」
「お、あいつ等戦闘開始を早めるみたいだぞ」
「え? 後続の疲れ取らないのか?」
「司令官が無茶振りしてるみたいだな。兵士達も不満顔になってるぞ」
「なんか普通に空中分解しそうだけどなぁ。俺らならそれで十分勝てると思ってるんだろうな」
「全く、随分と軽く見られたもんだな」
「いや、砦に常駐させてる兵25名じゃん。そりゃ楽に勝てると思うって。他のメンバーどうしたよ?」
「ん? お嬢の指令通りに一人残さず捕えるために配置済みだが?」
「あー、既に網張り巡らした後かよ。ザルツヴァッハ、負けるために戦争仕掛けるとか、可哀想に……」
「お嬢が良く言ってるだろ。戦争とは行う前から勝敗は決しているモノだ、ってな。相手より情報を上手く手に入れ、戦力を如何に把握させずに配置するか。的確に相手の戦力を奪い、こちらの戦力を温存するか。その点に於いて、あいつら斥候が戻ってこないことすら気付いてないのはどうしたらいいんだろうな?」
「ああ、気付いてねぇのか。もう十人くらい捕えてんのにな」
「今頃斥候隊長は誰も帰ってこなくて慌ててんだろうな。余計に人員使って、全部捕まって、気付いた時には部隊壊滅だ。さて、そろそろ俺らも準備しようか。一応、戦争だからな」
「……そうだな。っし、久々に実戦といくか、訓練より歯ごたえがあるといいけどなっ」
仕掛けて来たのはそっちだ。話が違うとか言われても退却はさせてやらねぇから、覚悟しろよ? 俺はもう、お嬢のためにこの国に骨を埋める覚悟が出来てんだ。
「おし、突撃任せた。今日は全て譲るよ」
「……え゛?」
あれ? 俺が一人でやんの? マジで?




