907話、ロゼッタ、貴方の常識、私の非常識
「貴様等、どういうことだっ!!」
エルヴィル王子の怒声が響く。
付き人はもう死に体だ。
どう考えてもやらかしてるのは丸わかりである。
「まぁまぁ、これでは他にも常識ではない常識を教えられているかも知れませんわね」
「ぐぅ……ゼルディス、貴様常識はあるか?」
「え? お、おぅ、まぁ王族としての常識はある程度、だがあるぞ?」
「ならば、ならば、だ。王族になれば法律を自由に改変できる、合っているか?」
えーっと王族って確か法律を改変出来るんじゃなくって変わった法律の許可を出すんじゃなかったっけ? 帝国とかだと王様の独裁で自由に変えられるはずだけど。
「兄上、王は決まった法律に許可するかどうかを決めるだけだぞ。基本法務大臣が法律の改変や新しい法律の制定を考え、あるいは王の考えた法律を問題あるかどうか吟味して、各大臣の……兄上? 聞いてるか?」
「……難しい話はいい。要点だけ言え」
「あー、大臣たちの賛同があれば決められる」
「チッ、自由にとはいかんということか。他には何が違う!?」
「何処が違うのか分からんだろ、折角だし父上から王族について聞くか? その方が間違いが無いぞ」
「む、だが父上がそういったことは大臣達に聞けと……」
「あら、その大臣達に良いように言われているんじゃ頼る先には出来ませんわねぇ」
「いちいち横から煩いぞ小娘。大体貴様はなんなのだ?」
「ライオネル王国の総司令官だ、兄上」
「は? こいつが?」
「ごきげんよう第一王子。ライオネルの常識でしたらいつでもお教えいたしますわよ?」
「他国の常識などいらぬ」
「あら、ヘルツヴァルデの常識は教わっているのに?」
「……だったらどうだというのだ」
「ヘルツヴァルデの兵を借り受け兵役を解除する」
「っ!?」
「自国の兵が居ないため、ヘルツヴァルデの兵無くしては国が成り立たない。重要な国防は他国任せ。まさにヘルツヴァルデの属国ですわね」
「な、なんだと!?」
「当然でしょう? 国を守る兵は無く、ヘルツヴァルデの商人がヘルツヴァルデの商品を高値で売り捌きメルクナードの商品を安く買いたたく。結果は国の資金力低下。回収出来る資金が減れば国庫も減る。そして待つのは兵を雇う金を無くし、借金だらけのまま国を売るしか無くなった王の成れの果て。最後に待つのはヘルツヴァルデに接収された属国、あるいはヘルツヴァルデ国メルクナード地方領。王だった誰かは軟禁生活か地方領主に格下げですわね」
「な、な……」
「まぁ兵を雇う金があるうちは他国の兵に守らせるってのはいい案かもしれんが、兄上、まさか近衛兵までヘルツヴァルデ兵に任せたりしねぇよな? 王族の生活情報も何もかもヘルツヴァルデに筒抜けになっちまうぞ?」
「だ、だがヘルツヴァルデはそこまでする気は無いと……」
「する気が無くても後々考えを変えたら情報抜き放題なんだよ? スパイ大国?」
「う、嘘だ。そんなはずは……へ、ヘルツヴァルデに聞けば……」
「それこそ、無駄ですわね。ヘルツヴァルデからすれば王子はヘルツヴァルデ側で居てほしいもの。当然のように自分たちを信じるように告げて来るわね」
「で、では誰に聞けば……」
「父上はどうだ? 俺やそこのロゼッタ嬢の意見もヘルツヴァルデ側の意見も今はまだ何も聞いてない状態だろ? 兄上の常識と俺達に言われた事を告げてみれば何かしら反応するだろ。父上はメルクナードのためにどちらの言い分が正しいか教えてくれるだろうさ」
「行ってくる」
硬い表情で踵を返すエルヴィル王子。
お馬鹿な王子だとは思っていたけど、もしかして王の器、今からでも育てられたりするのだろうか? 問題は思い込んだら猪突猛進らしい性格だけど、どうかなぁ? ゼルディスを王にした方がいいかな? ライオネル的に得になるのはどちらかしら?
「おい、ロゼッタ嬢、あくどい顔になってるぞ」
「あら、失礼。ちなみに、エルヴィル王子を徹底的にライオネル式で鍛えたら、どうなるかしら?」
「おい、やめろ。兄上が脳筋になっちまうっ」
「あら、今の状況よりは好転すると思うわよ?」
「頼むからやめてくれ。兄上が報われ無さ過ぎる」
失敬な、今の状況こそエルヴィル王子は報われない未来しかないんだよ。ちゃんと常識も教えるし、戦い方も教えるし、今より素敵なエルヴィルさんになるだけなんだよ?
「それはもう、兄上と呼べるものではないナニカになってないか? 嫌だぞ、会話途中でお嬢サイコーとか言い出す兄は」
「ははは、そんなことある訳……いや、なんか学校でそういうの聞いた気が……いや、ナイナイある訳ないじゃないですかーやだー」
うん、たぶん気のせいだ。先生達がたまに脈絡もなくお嬢サイコーとか叫んでた気がしなくもないけど、最近は収まってきたし問題は無いはずである。




