898話、テリー、この嬢ちゃん、容赦ねぇ……
SIDE:テリー
『こちらα、西地区より順当に粉砕中どうぞ』
『こちらβ、東地区より順当に粉砕中どうぞ』
『こちらγ、対象の安全継続中どうぞ』
「さて、これより全軍に通達する。既にパンダフ、バリーが東西から闇組織を一つずつ潰している」
いや待て。
いろいろ待ってくれ。
情報が多過ぎる。
「ま、待ってくれ嬢ちゃん、えっと、まずは順番に。今聞こえた声ってなんだ?」
「パンダフたちの定期報告だ。皆にも聞こえるようにしているだけだが?」
だけだが? だけだがって、それは【だけ】で済む話じゃねぇだろ!?
「正確には風魔法による情報伝達だ。離れた相手とやりとり出来るので覚えれば便利だぞ?」
だめだ。この魔法だけで一国滅ぼせるってこと理解できてねぇ。あまりにも軽く使えるからって他国であるメルクナードの兵に教えてどーすんだ!?
え、っていうか、ライオネル兵はこの魔法全員使えるの?
ダメだ。ライオネルに敵対する未来があったら俺は逃げよう。勝ち目がなさすぎる。
「あー、なんとなく理解した。それじゃ、そのパンダフさんとバリーさんが今やってるのは……」
「この国の闇組織東と西から順番に潰して回っているだけだ」
だから【だけ】じゃねぇんだよ!? おかしいだろ!?
「ああ、それとベルゼット。これを」
「これは……地図、ですか?」
「ええ。娘さんが居る組織はそこよ。行ってきなさい」
「うをいっ!? なんで既に知ってンだよ!?」
「この風魔法の応用で、この国の闇組織の動きを探っていたのだ。丁度ベルゼットの家襲撃の話を聞いてトラヴィスを向わせている。隠蔽を使って襲われそうなら救出するように伝えているが、まだそこまで危険には至っていないらしい。だから……行ってきなさいベルゼット。娘さんは私たちならいつでも助けだせるけど、私達が助けて良いの? 守りたいのは誰なのかしら?」
「つまり、お膳立てしてくれてるわけ、ってことですか?」
「少し違うわね。闇組織を一掃しようと思っていたところにあなたの娘さんが攫われたからコレに便乗して娘さんを救うために片っぱしから闇組織を潰している。という理由を付けたってところね」
ベルゼット、その……
「いや、気にしないでくれテリー。娘の安全までフォローしてくれるってんなら、冷静に動ける。娘を助けるのは俺の役目。そういうこったろお嬢さん」
「ただし、早く行かないとどうなるかは保証できないわよ。娘さんが怖い思いをしているのは事実。このままトラウマを背負うかどうかは貴方次第よ、行ってきなさい」
「……恩に着る」
ベルゼットが走りだす。
どうすればいいかとベルゼットとお嬢さんを見比べていると、お嬢さんが頷いた。
「貴方達の想いのままに」
「ベルゼットの加勢に行く。止めないでくれよっ」
「止める意味は無いわ、むしろ行ってきなさい」
止めないのかよ。これ、下手すりゃ総司令官殿の顔に泥塗るような兵士達の暴走になるんじゃねぇのか?
いや、もともと作戦の一環だったからいいのか?
まぁいい、うだうだ考えるより闇組織の場所にいかねぇとな。
地図はベルゼットしか持ってないから急いで追い付かねぇと。
「テリー、俺らも手伝っていいのか?」
「あの嬢ちゃんの目的からすりゃ俺達はベルゼットの手助けしてりゃいいらしい。その間に闇組織は二人が倒して行くんだとよ」
「はぁ、ったく、ライオネルの兵士は一人だけで闇組織壊滅出来ンのかよ」
「まぁあの実力がありゃ充分だよな。だが、これでメルクナードの風通しがよくなるって思えば、嬉しい限りだな」
「俺らが実力で撃破したわけじゃねぇけどな。けど、皆が外に出ても犯罪に巻き込まれにくくなるなら……」
「ともかく、俺らは俺らにできることを全力でやる。全員、死ぬんじゃねぇぞ!!」
「当然だッ!!」
ようやくベルゼットに追い付いた。
俺達の姿を確認したベルゼットは、こっちだ。と指示を出しながら速度を上げる。
なんだよ。お膳立てされたってのに腹立ってるどころかめちゃくちゃ嬉しそうじゃねぇか。
「娘を守る栄誉を譲られたんだ。これほど嬉しいこたぁ、ねぇだろうが!」
「ただし、相手は闇組織だ。手加減も何もねぇ、向こうにいるらしいトラヴィスはヤバい時以外に手伝ってもくれないらしいぜ?」
「だったら手伝われないよう、全力で守り切るだけだ。違うか?」
「ふふ、その通りだぜ、ベルゼット」
「その、よ……あんがとなテリー」
「あん? なんだよ、気持悪いな、照れてんのか?」
「うっせぇ。絶対に娘を助ける、手伝えテリー、他の皆もッ、頼む!!」
「へっ、言っただろベルゼット。俺達は守るために来てんだよ。テメェの隣に立つ仲間と共に、絶対に助け出そうぜ!」
むしろ助け出せない気がしない、一気に向って全員で笑って帰ろう。
その為に、ベルゼットとその家族は全力で守ってやるさ。




