897話、テリー、親友だろう?
SIDE:テリー
ベルゼットと別れて皆で飲もう。と思った俺達だったが、何故か皆酒場に足が向かわなかった。
なんとも不思議な感情なのだが、今酒を飲んだら後悔する。そんな感覚を覚えたのだ。
だから、誰からともなく別の場所行くか? と皆で街をぶらついていた。
良い店はあったし、美味そうな匂いに入ってみたいと思う店もあった。
だが、誰もなぜか入ろうとしない。
そればかりか、妙にせわしなく周囲を見回してしまう。
まるで全員で哨戒任務でもしているような気分だ。
もう兵士業務外だってのに、なんで……
あん? なんだ?
今、すげぇ形相のベルゼットが?
いや、そんな訳がない。
だってベルゼットはもう家に帰って家族の団欒中のはず。
ざわり、嫌な気配がさらにまとわりついて来る。
「なぁ、思ったんだけどこの感覚、総司令官ちゃんが言ってた気配察知とかのスキルによるもんじゃねぇかな? 俺らいつの間にか覚えてたろ?」
仲間の何気ない一言。
ソレを聞いた瞬間、漠然とした不安は俺の中で確かな何かに変化した。
だから、駆け出す。
「お、おいテリー!?」
「全員抜剣準備! テリーを追うぞ!」
「ちょ、なんでだよ!?」
「不安なんだろうがっ、だったら走れ! テリーが何かに気付いた。恐らくそこが俺らが感じ取った不安の出どころだッ」
俺を追って仲間達が走りだす。
がっしりとした男達が夕闇が迫る街を駆ける。
人波を掻き分け、遅れてはならないと必死に足を踏みしめる。
こっちだ。
なんとなく、分かる。
いや、むしろ、誘導されている気すらする。
小道通りの奥の奥。
普通なら絶対に通ることのない路地裏に、彼は居た。
普段絶対に見せることのない憤怒の顔で、泣きわめき許しをこう男に拳を振り上げる。
ソレを俺は……後ろから腕を掴んで止めた。
「っ!? 邪魔をするなっ!! って、テリー?」
物凄い形相で俺を睨み付け、相手が俺だと気付いて慌てたように表情を和らげる。
「な、何の用だ?」
「そりゃこっちのセリフだベルゼット。何してんだよお前はッ! 妻はどうしたッ! 娘さんはッ、こんなところで暴力事件起こす奴じゃ無かっただろッ! 今頃家族で楽しくやってるはずだろッ!!」
「う、うるせぇっ! 俺が何してようと俺の勝手だろうがッ!!」
腕を払いのけられる。
が、今コイツを野放しにするのはダメだ。俺の理性が叫びを上げる。
当然、俺も放置する訳がないので、今度は両手で顔を掴み引き寄せる。
キスする程に顔同士を近づけ、目を合わす。
バツの悪そうなベルゼットは視線を逸らした。
「何があった?」
「お、お前には、関係ねぇ」
「関係ない訳がねぇだろが間抜けッ!!」
ちょっと唾が飛んだが、すまん、気にすんな。
「いいか、テメェが何を抱えてようが一人で何か解決しようとしてようが、お前の隣に誰が居るッ、俺がいンだろぉがッ!! 普段怒った顔すらしねぇテメェがそんな顔してんなら何かあるって分かんだろッ! 何があった! 言えッ!!」
「巻き込みたく、ねぇんだよ……」
こいつは……
「変な気ぃ使ってんじゃねぇ馬鹿野郎がッ! 巻き込め、巻き込めよッ! テメェの幸せ壊す何かがあンのなら、俺を巻き込めッ! お前らの幸せ守るのだって俺らの役目だろぉが!!」
「だ、だが、お前はもうすでに充分失い過ぎだ。敵は恐らく、この国の闇だ、生きて帰れる保証が、ねぇんだ」
「だからどうしたッ! いいか、俺には確かに何もねぇ! だが、そんな俺に希望与えたのは誰だッ! 酒場で飲んだくれてた俺に負けんなっつってくれた奴は、誰だよッ!! 俺に残ってるのはそれしかネェンだよッ! テメェと家族が笑っていられる幸せ、守らせろよッ!!」
「テリー、お前……」
「テリー、ベルゼット。お前らだけで何するつもりだよ」
背後からの声に振り向けば、仲間達がそこにいた。
皆、瞳に炎を宿し、たった一言を待っていた。
「「「「「行くんだろ?」」」」」
「ベルゼット……」
「あ……ぐ、うぅ……娘が、攫われた……皆……助けてくれ」
「「「「「任せろッ!!」」」」」
涙するベルゼットに肩を貸し、俺は仲間たちと合流する。
「訓練所への連絡に一人、街勤務の兵に知らせに行くのに一人、後は片っぱしから調べていくか」
「急いで探そうぜ、時間との勝負だ。いそ……嬢ちゃん? なんでそこにいんの?」
不意に、一人が気付いた。
彼の言葉に、俺達の視線が一か所へと集まる。
そこに、あり得ない存在が立っていた。
「話は聞かせて貰ったわ。さぁ、始めましょうか。やるなら徹底的に、相手のメンタルぽっきぽきに圧し折ってあげましょか。【メルクナードの闇一掃作戦。当たりを引いても終わらない】、なんだよ?」
なんだろう、今までの不安が一瞬で吹き飛んだ気がすんの、気のせいかな?




