890話、ベルゼット、総大将の役割とは?
SIDE:ベルゼット
「全員、集合!」
お嬢さんの声に俺達はすぐに集合を終えていた。
さっきまで対戦していた二チームは息が上がっていたものの、なんとか先に集合してから息を整えだす。
さすがに俺も終わってすぐは息が上がる。真後ろに居るテリーもだ。
「正直言えば、大体一勝二敗か二勝一敗で終わると思っていた。そこのチーム、自分たちが三敗した理由は分かるか?」
結果を言えば、俺達は勝った。
やっぱりテリーのヤツ軍師向いてんじゃねーかな?
あいつの言った通りに動いたら普通に勝っちまったし。
まぁ前回の試合を必死に見てたから勝利出来たんだろうけど。
ちなみに、俺達に勝利したチームはランバル隊長の居たチームにすら勝利して三勝をもぎ取りやがった。あそこ、絶対軍師の奴が優秀だっただろ。
誰だよ軍師向きのヤツ。
「誰か、説明出来る奴はいるか?」
お嬢さんの質問に全敗チームは誰も答えられなかったらしい。
「ではそこの、えぇと……エスター」
エスター? あのいけすかない文官から来たヤツか!
「私の観察した限りですが。三度の戦闘、共に同じ奇襲を受けて浮足立った所に総大将が討たれるか旗を奪われていました。対策も何もなく警護に数人残して他は全員突撃。まさに奇襲してくれと言っているような物でしたね」
俺らは対策したけど、あそこのチームは突撃しかしなかったのか。
「その通りだ。折角の軍師も会議も何も決めず、いや、毎回総大将の護衛役を別の兵に決めていたが、決めるべき場所はそこじゃない。が、こればかりは仕方ないだろう。お前達はまだ何も習っていない素人だ、悔しがる意味も無い」
悔しがる意味が、ない?
いや、全敗だぞ。悔しがるべきだろ?
「次の訓練を告げる。先程と同じく二チームに別れての戦闘を行う。ランバル、総大将は任せる。チームは先程全敗したチーム以外、合同だ」
「は?」
「対するチームは全敗したメンバーのみ。総大将は……私がする」
「なっ!?」
「軍略は軍師に従えと言ったが全体の動きを決めるのは総大将だ。総大将の重要性をしっかりと理解しろ」
ど、どういうことだ。
って、テリー? なんでそんな顎に手をやって考え込んでんだよ。
あの嬢ちゃん戦いに参戦するつもりだぞ。お飾りじゃなかったのか!?
「ああ。一つ言い忘れていた。私は初期位置から動かんし、反撃もしない。戦闘に参加するメンバーはここにいる50名だけだ。バリー、試合の合図は任せる。パンダフとトラヴィスはそこの老人と待機。救助者が出たら放り出せ」
馬鹿な、あの三人を参戦させない気か!?
それはつまり、本気であの弱小チームだけで、三倍の敵を相手取るつもりなのか!?
「ライオネルの総司令官殿。大した自信ですが、軍師は、全勝した私がしてもよろしいので?」
お、おいエスター、いくら何でもそれは……
「問題無い。全力で勝ちに来るといい。では各自初期位置に向かい10分の軍議だ。ああ、そこの兵士、今回の軍師は君にしよう」
「うえぇ!? ちょ、俺なんてなんも考えないですよ!?」
おいおい、大丈夫なのかアレ?
本当に軍略のぐの字も分かって無い普通の兵士だぞ。
そんな奴を軍師にしてエスターに勝てるわけ無いだろ。
あいつ、本当に総司令官やってるのか? 大丈夫なのか?
「不安か、ベルゼット」
「テリー?」
「俺は正直恐いぜ。見ろよあの三人。期待に満ちた顔してやがる」
「パンダフ達が? うわっ。本当だ。何だあの崇拝するような顔は」
「つまり、実力はともかく、軍を動かすことに関して、あのお嬢ちゃん、あの三人が崇拝した目をするくらいにはやべぇってことだ。負ける可能性高いし、エスターの鼻っ柱折られるかもしれん。だから、あのお嬢ちゃんが何するか、注視しといたほうがいいぞ」
「わ、わかった」
テリーのヤツ、なんか本気で人が変わったな。
相手の事よく観察してやがる。
いや。むしろ昔も良くこうやっていろいろ教えてくれたな。
イラッと来る上司の癖とか見付けてそこ攻めてぶっ倒した時とか爽快だった。
そうか、この軍に入ったことで埋もれちまってたテリーの才能があの嬢ちゃんの言葉で息吹き返したのか。
ああくそ、一芸持ってる奴ぁいいな。ぜってぇこれから伸びるだろ。
置いてかれねぇように、気合いれねぇとな。
そのためにも、テリーの言葉通り、お嬢ちゃんに注視してみるとすっかな。
軍議はエスターが饒舌に軍略を披露した。覚えるのも一苦労だ。まずはいつもの奇襲。奇襲は潰されるだろうからうんぬんかんぬん。正直全部覚えれた奴いるのか?
時間になり、対戦が始まる。
開始直後、相手チームは全員が突撃してきた。
いや、お嬢さん!? そりゃ軍略もへったくれもないのでは!?




