888話、テリー、こんなのもはや戦争じゃねェか
SIDE:テリー
「そこから、それと、そこからで少し距離を空けて。ええ、そんな感じ」
魔法訓練が終わり、俺達はお嬢ちゃん指示の元、四つの組みに分けさせられた。
「そこの兵、ええ、貴方。それとそこの兵。あと貴方、貴方も。今指名された人を総大将とし、別れているチームを率いて貰う」
今度は何をやらされるんだ?
四つのグループで代表者が四人。その内一人がベルゼットだった。
まぁ俺のチームの要がコイツなら、納得か。
「さて、これから何をするか、といえば、各チーム総当たりで対戦をして貰う。各チーム旗持ちと軍師を決めろ。戦術の提案は軍師からのみ、各兵士は軍師が選んだ軍略を遂行せよ」
はぁ!? 指名された奴が軍師!? 軍略なんざ考えたこともねぇぞ!?
げ!? ベルゼットのヤツ俺に頼む気満々じゃねーか。即座に視線を逸らす。
「ちなみに、戦いに負けた場合責任は全て総大将にある。軍師を任命したのもソイツだからな。知り合いだからと安易に指名しないように」
だよな。ベルゼットもあからさまに溜息吐くんじゃねぇよ。
「最初は手前に居る二チームに対戦して貰う。他の二チームは右側はバリーの居る場所に、左側はトラヴィスの居る場所で他チームの戦略をしっかりと観察しておけ。では10分の軍略タイムの後、対戦を行う。10分は先程の休憩の2倍の時間だ。では移動開始!」
やることが決まれば即座に動く。
最初にやる二チームは手探り状態、俺達はその結果を踏まえて軍略を組める訳か。
ベルゼットが誰に頼むか必死に考えてるな。俺に任されても困るからな。それはやめろよ。
片方にランバル隊長が居たからだろう、凄く押しまくっている。
さすが、ランバル隊長を軍師に指定した御蔭で圧倒的だな。
ん? あれ? でもそうなると……おいおい、あれ大丈夫なのか?
いや、誰も気付いてないのか。戦線が上がってるせいで総大将が手薄過ぎだぞ。
あー、でもそのまま押し込まれて決着ついたな。
そうこうしているうちに俺達の番になった。
ベルゼットはランバル隊長の軍略をよく見ている兵士に軍師を頼んだらしい。
んで、ソイツのとった軍略は、ランバル隊長と同じく押せ押せ。だった。
そりゃ軍略じゃなくね? でも、他の奴もソレで勝てるだろ、と楽観視しているようだったのと、お嬢ちゃんの話じゃ軍師に意見はダメらしいので、黙っておくことにした。
細かい軍略は無しで各自自由に行動していいということなので、まぁ俺は自由に動くとするか。
なんとなく、嫌な予感もするしな。
「なぁテリー、そろそろ教えてくれよ」
「うるせぇぞベルゼット。いいだろ俺が何のためだろうがガンバッてりゃよ」
「そりゃそうだけど」
まったく、顔を合わせるごとに聞いてくんじゃねぇ。
言いたくねぇんだよ。特にお前には絶対にだ。
「しかし、ベルゼット、お前その武器なんだよ?」
「モーニングスターだってよ。重量武器だぜ、いいだろ?」
「邪魔でしょうがねーよ」
「そういうお前はまたゴツい武器になったなぁ」
「なんか斧と槍が得意なタイプだって言われてな。方天戟っつーらしいぞ」
ちょいとデカくて動かしにくいんだが、慣れれば万夫不当と呼ばれるほどになるらしい。お嬢さんの言葉はたまによくわからんが、ライオネル王国でのみ通用する言葉なんだろう。その辺りは基本聞かなかった事にしておくのが良さそうだ。
方針は突撃だけだったのですぐ終わってしまった。
向こうは時間一杯まで軍師が何か喋っていたようだが……
やっぱ嫌な予感するな。
戦闘が開始され、兵士達が激突する。
俺は中衛で戦場を俯瞰、なんとなく、やっとくべきだと思ったんだ。
すると、やはりだ。
ふと、思い出すのは、先程の会話。
俺が何のために頑張るのか、何を守りたくて立ち上がるのか。
そんなモノがないと言われているのに。
妻に先立たれ、家族が居なくなり、次こそはと信じた女には裏切られた。
後に残ったのは何もなく、ただ借金だけが膨れていた。
酒場で飲んだくれるくらいしか、俺には残されていなかった。
軍も、辞めようって思ってたんだ。
でも……でもな?
そんな俺に、話しかけてくれる奴がいたんだよ。
負けんなつって、俺が付いてるって言ってくれた奴がいたんだ。
そいつは妻がいて、娘がいて幸せの真っただ中で、最初はクソ野郎って思ってたんだがよ。
よく、考えたら……ソイツだけだった。
俺自身を見て、声を掛けてくれる友人は、ソイツだけだったんだ。
他の友人だった奴らは腫れもの扱うみたいに疎遠になって、俺自身、俺を諦めていた。
そいつだけが、俺をまだ諦めないでいてくれていた。
だから、あのお嬢ちゃんの声を聞いた時、俺にも居たんだって気付いた。守りてぇと思った戦友が。
あいつが笑ってられる平和のために、家族と幸せ過ごす時間の為に。ただ一人、俺自身を認めてくれた友のために。
立ち上がったなんて、ベルゼット本人に言える訳、ねぇだろうがッ。
方天戟を使い、飛んで来た矢を弾く。
完全に気付いてなかったベルゼットは弾いた音でこちらを振り返った。
「テリーッ!? お前なんでここにッ」
「相手の動きがおかしかったんでな。総大将がガラ空きだ。奇襲部隊来てんぞ!!」
「うげっ!? こっちの作戦完全に読まれてんじゃねーか!?」
既に殆どの兵が前線に上がってしまい、ここにいるのはベルゼットと俺だけだ。
向こうも数こそ少ないが、さすがに総大将と旗持ち守って戦うには一人だけじゃキツい。
だが、ベルゼットを背にして武器を構える。
ああ、こういうことなんだよ、な。
俺の背に、守るべき者がいるってことは。
絶対に……負けられねぇ!!




