845話、ミリア、魔竜島の異変3
SIDE:ミリア
それは、想定外も想定外だった。
どうせロゼッタがやったことなんだから適当に誰かと仲良くなればすぐに脱出できるでしょ、と軽い気持ちでいたことを、今更後悔している自分が居た。
へたり込んだペルグリッドを見付けたのはついさっき。
狼煙が上がった場所へとディムロスと共にやってきた私は、想像すらしていなかった光景を見付けてしまい、ただただ呆然とソレを見つめるしかなかった。
現場に居たのはペルグリッドとエレイン。
発見者はエレインだろう、さすがとしか言えないけど、この光景を見ても我を忘れなかったエレインは狼煙を上げて皆が来るように合図を出したようだ。
そんなエレインは近くの木に背もたれ、腕を組んで渋い顔をしている。
「え、エレイン、あれ……どういうことだ?」
「見たままだ。土に埋められて、あの紳士が死んでいる」
それは全く想定していない現状だった。
地面には雑に埋められた紳士服を着た筋張った腕が一つ、まるで助けを求めるように地面から突き出され、それ以外の身体は地中深くに埋められていた。
唯一、紳士服とその腕の老化状態から、あの紳士の腕だろう、と分かるだけ。
本来、私達の監視役兼司会進行役だったはずの老人は、目の前で死体となり、私達は完全にこの島に取り残されているということを、見せつけていた。
もしもロゼッタがここの状況を把握してるなら、あの紳士が死体で発見される訳がないし、あいつが処理したならこんな雑な殺し方はしないはずだ。徹底的に存在が無くなるようにするはず、つまり、殺人犯は……まだこの島に居る!?
「こいつが死ぬ? 変だな。こいつは確かビルと一緒に……となると犯人はビル? いや、それはありえん。しかし、ロゼッタもその付き人関連もここには居ない……何が、どうなっている?」
エレインが本格的に思考し始めてる。
ふぅ、なんかあいつ見てたら落ち付いて来たわ。私だけ混乱してもアレだし、あいつみたいに落ち付いといたほうがよさそうね。
ディムロスは……やっぱダメね。人の死を受け入れられないみたい。
「誰か見付かったんですかっ! あっ……」
ナッシュとマリアネージュが、そして少し遅れてバルバロイ先生とカルシェット。
そして別々の場所からジームベルクとデリーラが現れる。
「まぁ、紳士さんが死んでますわね」
いや、デリーラさん、そんな何でもないような言い方……
蝉の死骸じゃないんだからもうちょっと言い方があるでしょうに。
「デリーラ、さすがに落ち付き過ぎだろう。まさかとは思うが、貴様がやったのか?」
「え? デリーラさんが!?」
思わず声を上げてしまった私に、デリーラは何とも言えない微笑みを浮かべる。
「まぁ恐い恐い。なぜ私がこのようなことをしたのでしょうか? 冗談にも程がありますわ。それより皆さん、ビル様はどこかしら?」
「まだ捜索中だ。だがビルと一緒に居なくなった紳士がこの状態だ。加害者であれ被害者であれ無事かどうかわからんぞ」
「……」
うっわ、恐っ。
デリーラのあの怒りに満ちた顔を真正面から見つめ合えるとかエレイン頭おかしいんじゃない?
「ともあれ、ビルが何処に居るか探さないことには無事かどうかもわからん。とにかく皆、一人きりにならずビルの捜索は二人、いや三人以上で行動するといい」
「するといい、ってエレインはどうする気?」
「この場の処理をするモノが一人はいるだろう」
え、ここに残るの? しかも死体処理すんの!?
「正気なの、あり得ないっ」
「ならばここは放置か?」
「それは……死体放置は腐るから凄い臭いになるらしいし……」
私が思わず言葉に詰まると、エレインが溜息を吐く。
「生理的嫌悪か何か知らんが、やらねばならん物は誰かがやらねばそのままだ。俺のレベルは高い。不意打ちされても鎮圧できる。他にやりたい者がいるなら譲るが?」
誰も、立候補者はいなかった。
「ついでだ、ペルグリッドも持って行け」
そう言われてしまえば、私達はこの場を去る以外選択肢が無い。
「そう、ですね。一先ずキャンプ地に戻りましょう。ビル君も戻っているかもしれません」
バルバロイ先生に促され、皆、のろのろと歩きだす。
あ、しまった足がもつれ……
「おっと、大丈夫かミリアさん」
「あ、ありがと」
うぐっ、またディムロスに助けられた。
なんなのよ、まるでディムロスエンドに行けとばかりにディムロスイベント起きまくってるし。
嫌よ。私は逆ハーエンド、あるいは地位の高い男と結ばれて玉の輿を狙うんだからっ。
あんたじゃないのよ、私がグッドエンドを向える相手はッ。
「早く行くわよ」
「え? おわ、ちょ、待ってくれよミリアさんっ」
何なのよ、私主人公なのよ。なんでルートが自分で選択出来ないのよ、おかしいでしょっ!
絶対に、思い通りになんてならないわよロゼッタ。こんな場所さっさと脱出してやるんだからっ。私は帰るッ、こんな場所に居られるかッ!




