817話、ロゼッタ、地下牢談義
「……というわけで、クラムサージュに子供ができるんだよ」
「それ、私に言う必要ある?」
そこは薄暗い地下だった。
鍾乳洞のような岩の部屋を利用した部屋で、鉄格子を埋め込み室内から外に出られないようにした簡素な地下牢だ。
そこに、その女は一人、呆れた顔で座っていた。
地下牢と言っても最低限の生活は保証してるので内部にはテーブルや椅子、ベッドなどが存在しており、トイレもシャワーも完備されている。
残念ながら吹き抜けなので全ての私生活が鉄格子の先から丸見えなのだけど、そこは罪人を入れる場所なので理解してもらうしかない。
そう、兵舎の地下に造られたここに幽閉されているのは、ペルグリッド=レレア=ファーガレア。今はもう国が滅んでいるのでただのペルグリッドである。
私が丹精込めて教育してるんだけど一向に性格改変が見られないんだよ。頑固だな?
「たかが子供が出来たくらいで何を苛立っているのかしら? エルフレッドさんの子が欲しいなら抱かれに行けばいいじゃない?」
「いや、エルフレッドさんに抱かれたい訳では無くてね。クラムサージュに先越されたのがもやっとしてるだけなんだよ。私はリオネル様一択だからね」
「ああそう。あー、そうだぁ、私も既に初めて捧げちゃったし、子供出来てるかもー。ジームベルクとの子供、できてるかしらねー」
「妹の彼氏寝取って子供まで出来たらもう妹との仲修復できないんじゃない?」
「別にマリアネージュとの仲なんてどうでもいいわよ。私が欲しいのは私だけを愛し私だけに尽くしてくれる人よ。どうせだしファーガレアを再興してみようかしら」
あー、コレ放置したら勝手に暴走する可能性が高いんだよ?
放逐したらそこでファーガレア興して侵略開始しはじめるだろうし、置いておいても誰か誘惑して逃げだしそうだし、扱いに困るなぁ。性格変わってくれればいいのにそれも無理そう。
私の言葉って基本相手が守りたいモノとかがあった場合とか倫理感や常識に訴えて相手自身が自分を奮起させるように仕向ける感じらしいからなぁ。
初めから倫理も常識もへったくれもなくてとにかく邪魔するやつブッコロな行き当たりばったり刹那思考のペルグリッドさんには効かないんだよ。守りたいモノもないらしいし、プライドもないから自分を最下層に堕としてでもやりたい事を成そうとするので、脅しも通用しない。
奴隷にするぞ、とかゴブリンの巣に投げ込むぞ。とか言っても恐れないし、実際にそんな状況になったとしてもその環境を利用して復帰して来るタイプだ。
ようするにご主人様を操りだしたりとかゴブリンたちを自分の身体を使って言う事聞かせてゴブリンの女王に君臨したり。
ああいう社会的な死に関しては自分が凋落したというプライドが踏みにじられるからバッドエンド扱いされるけど、現実的にはそこで終わりじゃないのだ。ペルグリッドはそこを過程として成り上がりを目指してくるから何度慰みモノにされようともどれ程の不細工や気持悪い生物、生理的に無理な存在に穢されようともそれらを利用してでも成り上がろうとする。だから本当に彼女の性格を矯正させようと思うなら、彼女の人格を完全に破壊したあとで理想の性格を上書きするくらいしないと無理なのだ。
そんなことは私には出来ないので、実質ペルグリッドの性格矯正は私には不可能だと思ってもいいだろう。
となると、ペルグリッドの脅威を取り除きたいならば息の根を止めるしかないんだけど、そこに我が国に亡命中という元王族の地位が効いてくる。
亡命した相手を殺したり放逐するのは対外的にマズいのだ。
うーん。世界中の国が敵に回るとして、今の戦力でも十分勝てなくは無いと思うんだけど、さすがにそれは回避したいよね。
何しろ双子の神様はこの世界をしっかりと監視している。
下手に私がやらかし過ぎると、兄の方が介入してくる気がするのだ。
このレベル帯でもさすがに神様が敵に回って来ると不安しかないなぁ。
どっかで神殺しな神具とかないだろうか? 一つでも持ってれば交渉も出来そうな気がするんだけどなぁ。
っと、違った。神と闘うのじゃなくてペルグリッドの処遇だった。
とりあえず、現状私の話じゃペルグリッドが心根を変える気はなさそうだ。
つまり、現状維持でペルグリッドを監禁するか、諦めて人が居ない場所に放逐するか。
あるいは別の国にパスするか。
できれば穏便に済めばいいなぁ。宰相閣下に相談するしかないか。
「そろそろこの生活も飽きて来たんだけど。ロゼッタ。私の矯正とかいうの諦めたら?」
「そうね。性格が変わることは無いってことは理解したし。次のステップに行くしか無さそうなんだよ。まいったな」
「……まだ、次のステップあるのね」
「拷問で性格矯正とかも考えたけど、私はそういうの得意じゃないし。宰相閣下にまずは相談するんだよ」
「……賢明な判断だと思うわ。ええ、本当に」
さすがに拷問は嫌らしい。まぁ好きな人はまずいないよね、変態じゃない限り。




