778話、ロゼッタ、今回の武闘大会出場者は……君に決めた!
さて、そろそろ武闘大会の出場者を決めとかないと、ルークには我に秘策ありとか言っちゃった手前誰もでませんでした、じゃ恰好付かないもんね。
でも訓練兵は既にレベル差が付き過ぎて武闘大会に出られる存在じゃない。エキシビジョン辺りなら問題なく出せれるけど通常で出す訳にはいかない。
何しろレベルが3000超えちゃったのだ。
T男君でもまだ200くらいだし、下手に出したら優勝確定で面白くないんだよ。
だからここは一度初心に戻ろう。
まだ手垢のついてない戦闘初心者を促成栽培だ。
「と、言う訳でぇ……君に決めた!」
「はい?」
学園の教室で、私はずびしっと指で指し示す。
指を差された男子生徒が思わず自分を指差し、俺? と驚く。
「前に一度武闘大会に出てましたわよね、ディムロス君」
「え、あー、まぁ一度な。さすがに実力不足は痛感したし、分不相応だってことでもう出るつもりはないんだけど……」
「ロゼッタ式訓練で、貴方も大会優勝目指しましょう。そうしましょう。というか出ろ」
「確定!? なんでだよ!?」
授業と授業の合間の休憩で、私はディムロス君を指名した。
さすがにいきなりは困ったようだけど、私の話を聞くにつれ、やってみてもいいのかも、と次第乗り気になって来る。
「いやいやいや、騙されないでディムロス、悪役令嬢の常套手段よッ!」
チッ、ヒロインちゃん邪魔だなぁ。
「あ、あぶねぇ、思わず大会出場するとこだった」
しかし、まだ諦めるには早かろうなのだ。トドメの一撃を、喰らうがいい。
「あら、残念。大会で頑張ってる姿みれば……モテるのになぁ」
「でますっ!」
「うをい!?」
ヒロインちゃんは邪魔。キーリ、アレ、排除で。
「了解やー」
アイコンタクトでキーリを動かし、ディムロス君の逃げ場をなくしていく。さぁ、蜘蛛の糸に絡め取られるように、私の兵士見習いとおなりなさーい。なんだよ。
「でも、一人だけってのもアレねぇ。最近二人くらいでてるし。んー、よし、丁度目の前通ったナッシュ君、君もでようか」
「ふへ?」
丁度トイレを終えて帰って来たらしいナッシュ君。さえない青年は衣類の股間部分にシミを作った状態でこちらを振り向き驚いた。
トイレ行った後の男子ってたまにそこ濡れてるよね? なんでだろ。
「え、と、何?」
「あきらめろナッシュ。お前は目を付けられちまった。もはや逃げられん」
おいディムロス君、まるで魔王からは逃げられない、みたいな事言わないでくれない。私ただの侯爵令嬢だからね。
「まー、安心しぃな。大変やろうけど必ず身になることは確定しとるで」
「もはや武闘大会まで一週間と無いので促成栽培なんだよ?」
「あ、これアカン奴かも」
「「キーリさんそこは嘘でも大丈夫って言ってくれ!!」」
おお、二人とも息ぴったり。
よし、これで兵士見習いでもこの強さ、って謳い文句で今年の武闘大会は問題無しね。来年からは新人入るし、武闘大会終わってからレベリングすれば問題なくなるだろうから、これは今年だけの苦肉の策なんだよ。
「んじゃー、今日の放課後から始めるんだよ。あ、そこの兵士さん、ルークに訓練用の兵士一人貸出お願いって伝えておいてほしいんだよ」
隈の濃い目元の兵士が廊下を通っていたのでお願いしておく。幽霊みたいに返事してすぅっと去っていった。あれ、ウチの兵士でいいんだよね? 大丈夫? 卵臭いんだよ?
「そういえば今日の兵士達ってなんか幽霊みたいに疲れてるわよね。なんかまた卵潰れたとか卵料理はもう嫌ぁとか呟いてるんだけど」
ケリーアの言葉から推理すると、手加減覚えるのに苦戦してたようだ。
それでも通常業務には差し障りなく作業出来てるみたいだから問題は無いんだよ。
ちょっと目が座ってて今までより恐くなってるだけだし。
犯罪率は減りそうだから問題無し無し。
「昨日ちょっと、レベリングして来たんだよ」
「兵士達に、アレを体験させたのかっ」
おっと、どうしたのエレイン。
「エレイン? 何か知ってるの?」
「知ってるも何も体験した。酷いものだぞあのレベリングというものは。そうか、兵士達がアレを。つまり……少なくとも平均レベルは2000を越えたか、それでは確かに武闘大会に出る訳にはいかんな」
「あー、一人だけなんか分かってる顔して、っていうか、2000? え、レベルおかしくない?」
「何もおかしくは無い。奴らはそのレベルに達し、そして昨日、地獄の手加減訓練をしたのだろう、ロゼッタ」
「あはは、多分手加減訓練が一番地味で辛い作業だったんだよ。問題無くなった兵士だけが見回りしてるみたいだね」
いまだに手加減覚えてない面子は寮にも入れず寮前で卵を割ってるんだよ、叫び声が風魔法で拾えるから煩いったらないんだよ。




