762話、ロゼッタ、ダンジョン核が現れた! ダンジョン核は怯えている
「はい、という訳で、ここが邪神洞窟最下層です。出現するボスはー……ありゃ? ボスが居ないんだよ?」
―― あの、あちらに誰か居らっしゃいますが ――
メイズに示された場所には、しゃがみ込んで頭を抱えてこちらに背を向ける小さな女の子。
いや、女の子?
ちょっと人間とはかけ離れてるけど女の子なのは確かだ。
なんか恐い生物がやって来たかのように震えて小さくなっている。
「えーっと、君、そんなところで何してるのかな?」
出来るだけ優しく、覗き込むように声を掛ける。
「ひぅっ!?」
え? なんでさらに怯えだしたの!?
―― これはすごい。人型を取れるのですか、さすがここまで強力なダンジョン核は想定しておりませんでした。人間の声帯も真似できるのですね、参考になります ――
え? じゃあこの娘ダンジョン核?
「君ダンジョン核のアバターなの?」
「ご……」
「ご?」
「後生ですお願いしますお許しください殺さないでください私経験値なんて持ってないです安全安心最安値なダンジョン核です生きててすいませんほんと許して下さい私じゃないんです私が悪いんじゃないんです邪神様が居たのは訳の分からない魔術師が邪神様封印して私を脅して凶悪な魔物生み出せクソ雑魚ダンジョン核と脅してきたからであって私のせいじゃないんです魔物もあいつがダンジョンなんだから生み出さないと破壊するぞと言ってきたから生み出したのであって私はここまで大きくしたくなかったのですがひぃっ睨まないでください近寄らないでぇ暴力反対ひどいことしないでもうしません私はモンスターパレード引き起こさない良い子ですぅぅぅごめんなさいごめんなさいごめんさいごめんさいごめんなさい産まれて来てごめんなさいぃぃぃっ」
邪神洞窟のダンジョン核は私がさらに近づこうとした瞬間、ばっとその場に土下座して早口になんかまくしたて始めた。
早口すぎて何言ってるか全く分からないんだよ?
「えっと……メイズ、何これ?」
―― メンタル的なものが付いて来れなかったといいますか、ほぼ確実にマスター殿のせいです。私だってレベル8000超えとか意味不明な存在が自分の中にやって来た時は焦りましたし、あの時グリムリーパーなんて出さずに何の変哲もないダンジョンに擬態していれば……いえ、おそらく最後までは精神が持たなかったでしょうね。結果は何度やっても同じになっていたでしょう ――
うーむ。私ってそんな恐いの、ダンジョン核にとって?
―― レベル考えてくださいマスター殿。いくら邪神洞窟のダンジョン核といえども最高レベルは300程度の邪神だったのでしょう? ――
「まぁ正確には弱体化された邪神かな」
―― そんなダンジョンに8000超えの意味不明な生物が来たらどう思いますか、どんなに頑張っても罠も魔物も瞬殺で、さらに階層無視してショートカットとか言いながら破壊不能なはずの地面割り砕いて自分の居る最下層まで一瞬で来るんですよ。私だったら耐えきれず発狂してます ――
「そうですっ、そうなんですよッ! 別のダンジョン核さんっ、この人やって来る度にレベル上がってるんです、最初の時ですらアホみたいなレベルだったのに最近はレベルに磨きがかかって何もしてないのに重圧垂れ流しなんですからっ!」
ええぇ、理不尽っ。
「最初に来た時に邪神にやられるかと思えばまさかのテイムしちゃうし、次に来た時は邪神と一緒になって最下層から魔物殺しまくるし、なんで普通に最上階からじゃなくて一番強い魔物のいる最下層から攻略始めてるんですかっ、この人が最下層に来るたびに生きた心地しませんでしたっ。最初に来たとき、この人何レベルだったと思います!? 700ですよ700超え! 邪神以来そんな生物初めて会ったわっ!」
うん? ここに来た時ってまだ600くらいじゃなかったっけ? まぁそこまでレベル差は無いから問題は無いけども?
「この人自分の能力フル活用で凶悪な異物を大量生産しだすし、大量生産された兵士とかいう異物が単独突破まで始めるし、折角ここまで大きくなったのは異物たちに攻略されてレベル上げさせるためじゃないんですからぁっ」
改めて半泣きの少女を見る。
赤い目は黒目部分が全てを占めており白目部分が存在していない。
たしか地球外生命体グレイとかがこんなアーモンド形の目だったよね。
全体的なフォルムはメストカゲって感じかな。体色からしてヒトカゲかしら?
赤みがかった肌に鎧のような硬い表皮が局部や肩、胸を隠してる姿だ。
サラマンダー系少女? ちょっと人外感が凄いけどこれはこれで可愛らしい姿だ。
―― やはり、マスター殿、恐いですよね? ――
「それはもうっ、逆らったら死しかないって本能で理解してますっ」
えーっとつまり……
―― 私も死にたくないのでテイムされました ――
「なるほど……なるほど?」
一度頷き小首を傾げ、彼女はギギギっとこちらに視線を向けた。
―― ダンジョン核・アステルが仲間になりたそうにしている ――
……だと思ったよ。
―― テイムしますか? ――
はいはい、テイムテイムー。この分だと竜の谷のダンジョンも意思、ありそうだなぁ。




