76話・ロゼッタ、あれ? なんか、楽しくなって来たんだよ?
「痛てぇ!! 痛てぇよっ」
大の男が親指抱え込んで地面をごろごろー、ごろごろー。
んー、ちょっと大人気ない気がするんだよ?
「お、おいガリオン!?」
「ガリオンを一撃だと!? やはり手が抜けない相手か! 全員戦闘準備! 一斉に掛かるぞ!」
「えぇ!? 嘘だろリーダー!?」
「な、なぁ、ガリオンが偶然親指叩かれたくらいでなんでそんな警戒してんすか!?」
「気付かないのか!? 奴は狙って親指に軽く叩きつけたんだ。技量も力量も相当だぞ!」
「魔術師、補助から始めろ!」
「全パーティー同時行動だ。レイド戦を想定しろ!」
おお、なんだか全員やる気充分なんだよ!?
待って待って、華奢な女の子相手にレイド戦はおかしいんだよ!?
「突撃ーっ!!」
わーっ!! じゃないんだよっ!?
なんでアタッカー全員一斉特攻しちゃってるの!? みんながんばれ! じゃないんだよ!!
魔法使いたちが補助魔法で普通に攻撃力とか上げてるし!
ええい、そういうことなら私だって身体能力向上させちゃうんだよ!!
全身に魔力を込めて、ボーエン先生に教わった理論で理論武装だ!
よし、これで……あれ?
なんだか皆さん足止めちゃったんだよ?
なんでそんな冷や汗垂らしながら足を引いてるの?
ちょ、ちょっと、アタッカーが全員元の位置まで下がっちゃったんだよ!?
「な、なんだ今のは!?」
「俺が、重圧を感じた?」
「プレッシャー? 今のが? 俺はアレ以上近づいたら首が斬り落とされる気がしたぞ!?」
ちょ、皆私に酷いんだよ!?
こんな可憐な美少女相手にバケモノみたいな言い方はどうかと思うんだよ。
あ、いや、可憐な美少女なんて自分で言っちゃうのはちょっと恥ずかしいんだよ。
「皆、俺が行く、全員しっかりと相手を見てくれ」
「死ぬ気か!?」
「誰かがあいつの動きを見せなきゃいかんでしょ、出来るだけ長引かせる」
「分かった、骨は拾ってやる、後は任せな」
いや、だから反応がおかしいんだよ!?
剣士のアタッカーさんが一人突撃して来たんだよ。
せっかくなので剣舞を披露だ。
「くたばれっ!」
接敵の瞬間、飛び上がって身体を捻り、剣筋を見えなくしてからの双剣による回転斬り。
って、凄く隙だらけなんだけどどうすればいいんだろう?
とりあえず殺陣を思い出しながら剣を受けて、くるりと逆に回転してから彼の追撃を受ける。
二人して回転しながら剣を打ち合う。
カンキンコンキンカンカンキン。
なんか、楽しくなって来たんだよ?
「これはっ! クソ、こんな筈じゃ……」
焦った顔をしながらも私と動きを合わせて来るお兄さん。
この人両手に剣持ってるから双剣使いだね。
だから私も回転しまくるんだよ。
でも、私がこれだけ手を抜いてようやく殺陣になるって、この人大丈夫?
ランクはDかな? あんまし強そうじゃないんだよ?
「喰らえ! スラスタースラッシュ!」
おお、回転速度上がって二連斬になったんだよ!?
でも普通に対応出来ちゃう速度なんだけど、いいのかね?
よっ、ほっ、はい、そいっ、ほいやっ!
あはは、なんかテンション上がって来たんだよ。
って、なんで剣の動き戸惑わせたのッ!? 勢い付いてるから避け止め損なって剣を叩き込んじゃうんだよ!?
「がぁっ!?」
あーあ。脇腹直撃だよ。痛そう。
崩れ落ちたお兄さんを見て、皆がバリアノールッ!!
とか叫び出す。うん、この双剣使いさんはバリアノールさんだと初めて知ったんだよ。
「ナイスファイト」
倒れ込んでしまったバリアノールさんに小声で健闘を湛え、私は走りだす。
テンション上がっちゃったから誰か剣舞の相手をしてください。
あー、なんかこう、刀を使いたくなって来たんだよ。でもさすがに我慢我慢。
相手は殺陣ど素人だから下手したら普通に切り裂いちゃうんだよ。
「来るぞ! 全員、死力を尽くせェッ!!」
って、なんでそんな決死隊みたいな顔で闘おうとするの!?
ええい、もう、良いんだよ。こっちは無双武将のつもりでやってやるんだよっ!
そりゃー。
一番近くに居た人に斬りかかる。
お、ガードは上手い、でも弾いちゃうんだよ!
「なにぃっ!? がぁっ!」
弾いた剣は上へと振り上げた状態なので、そこで肘を折って剣の柄をおっちゃんの胸元に叩きつける。
無防備などてっ腹に一撃必殺なんだよっ。
残心すべきなんだけど、そのまま足を進めて次の敵に突撃。
巻き込む様な一撃を下から上、と見せかけて胴ッ!
「ごはぁっ!?」
「ひぃっ!?」
お兄さんを倒した足ですぐ近くに居た回復役の神官さんを峰討ち。
お、ひるんだ魔法使いのお姉さん無防備だ。
とりゃー。
うなじに一撃加えて気絶させると、おっちゃんが雄叫び上げながら突撃して来た。
なんでガタイのいいおっちゃんは斧持ってるんだろうね。
この人も斧なんだよ!
よぉし、ならば斧相手に中心打ちしちゃうんだよ! そりゃーっ!!