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72話・ライゼリュート、噂の新人

「ふぅ」


 ギルド長室の机を前に、椅子に座っていた私はようやく息を吐いて気持ちを楽にした。

 仕事が一息ついたのだ。


「失礼します」


 タイミング良く、受付嬢兼、ギルドの警護役であるペレーラがやって来る。

 眼鏡を掛けた出来るタイプの女性で、もともと冒険者だったが産休を機にギルド勤めに転向した。

 ちなみに夫は私、ではなく換金所で働くみるからにおっさんな男である。

 こんな良い女がなんであんな粗野な男に嫁ぐのか。世の中不思議なことだらけである。


「どうだった? 今日も平和だったか?」


「ええ。滞りなく。ただ、一つ気になることが」


 新たな書類を机に置いて、ペレーラは眼鏡を直す。

 たまにキラリと光って見える気がするのはなんでだろうな?


「ライゼリュートさん、オルトロスの出現場所は分かりますか?」


「あん? そんなもん邪神の洞窟だけだろ? 今の所そこ以外じゃ誰も発見してねーぞ。そもそもレベル200の凶悪モンスターがあそこ以外で出てきたら大問題だろう」


「その牙を持ちこんだ冒険者が出ました」


 最初、言ってる意味が分からなかった。

 もともと邪神の洞窟を拠点に活動しているAランク冒険者パーティーはいくつかいた筈だ。オルトロスの牙が持ちこまれても全く問題ないだろう。


「ジーニアスの話では先日ゴブリンの魔石を大量に持ち込んだランクFの冒険者だそうです」


「は? ランクF? ああ、誰かに貰ったのか」


「いえ。この街にいるAランク冒険者に尋ねてみましたが誰も彼女に渡してはいないようです。基本オルトロスの牙はここに売られた時点で鍛冶場に卸されるでしょう? 流通することはありませんし、金額もかなりいいので、Fランクの冒険者に差し上げるような気の良い冒険者が居るとも思えません」


「ほぅ、それで、何が言いたい?」


「彼女自身で狩ったモノである可能性が高そうです。ジーニアスの言うことには、普通に換金しようとして俺が驚いた顔をしたらやっちまった。といった顔をして懐に入れていた手を直ぐに戻したとか。どうもまだ持っていた牙を出す前に自分が持ちこむにはレベルの高過ぎるアイテムだと気付いたのではないかと」


「Fランクがねぇ。本当にどっかから貰っただけじゃねぇのか?」


「もう一つ。登録時のミスか何かだと思っていたのですが、ジーニアスやサテラ、フレシカに聞き取りを行った所、どうもそのFランク冒険者のレベルが、400を越えていたそうです」


「へぇ、400越えか、そりゃすげ……400ッ!? はぁっ!? なんでFランクなんだよ!? 普通にAランクでも問題ねーレベルじゃねーか。つかもうSランクだろ!?」


「知りませんよ、サテラが受付したらしいですし、新人丸出しの態度だったと言ってましたし」


 レベル400越え? そんなバケモノがFランク? いやいや事実なら即座に昇格試験受けさせて塩漬け依頼こなしてもらわねぇと。宝の持ち腐れだろ。


「性格はどうだ?」


「同じランクFの孤児院の子供たちと楽しそうにしていましたので性格は問題ないでしょう。ただ、実年齢が8歳だそうで」


 8歳でレベル400越え? 何そのバケモノ?


「次に顔を出した時に面談するか」


「やはりその方がよろしいですよね?」


「ああ、実力者を肥やしにしておくのはもったいない。実力があるならそれ相応の地位を持つべきだ。試験の準備もしておいてくれ。対戦相手は……Aランク冒険者パーティーと闘わせてみるか。レベルが本当に400もあるのなら闘いにすらならんだろうが……」


「皆さん、最高でも300程度ですもんね。事実なら、485レベルですし、赤子の手を捻るようなものでしょう」


 その通りだ。って、おい待て。聞いてねぇぞ!? 400越えじゃなくてもうすぐ500レベルじゃねーか!?


「なんでそんな数値叩きだしておいて私に連絡が来てないんだ!?」


「知りませんよ。サテラが担当したんですからサテラのせいでしょう?」


「良し分かった。次の査定を楽しみにしていろと伝えておいてくれ」


「これ以上下げたらあの子辞めるんじゃないかしら? 今でも生活費ぎりぎりでしょう?」


「それでも雇っているだけまだマシな職場と上司だと思うがな? あいつの勤務態度何とかならんか?」


「それは私の仕事範囲から逸脱していますので」


 と、丁寧にお辞儀をして去っていくペレーラ。

 しかし、期待の新人か。

 本当に能力通りだというのであれば、ぜひともたずなを掛けておかねば。

 我がギルドからSランクの輩出もあり得るかもしれないな。


 ふふ。会う前だがなんだか楽しくなってきたな。

 今日は酒場で一番高い酒でも頼むとするか。

 おっと、これが登録書類だな。名前は? ロゼッタ・ベルングシュタットか。


 ……ん? ベルング、シュタット? 侯爵家じゃねーかっ!? なんで貴族がギルドに登録してんだよ!? あ、やべぇ。呼び出ししちまった。ペレーラ、待てペレーラッ! 侯爵令嬢にギルド長室まで来いとか言うんじゃねーぞ! 私が行く、侯爵家に私の方が向うから、決して……はぁ? ペレーラ帰った!? ふざけんな! 明日私はギルド会議で出張だぞ!? おい、そこの、サテラしかいねェのかよ!? 頼む、頼むぞサテラ。明日、ペレーラに伝えとけ、ロゼッタ嬢にはギルド長室に来いとか伝えるな。俺が訪問するから。絶対だ。絶対だぞ! 分かったなッ!!

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