704話、ロゼッタ、想定通りなんだよ
朝、学園に入ると、緊急全校集会が開かれ、運動場へと皆が集められた。
内容は私達が既に理解しているアレだ。
要するにアイアールが辞めることになったことと奴の犯した罪状。そして校長が責任取って辞任するという内容だ。
しかし、既に生徒会を通じて全校生徒に私から伝えてあったので校長が辞任を告げようとしたその刹那、生徒会代表でエリオット王子が前に出る。
一応、まだ在籍しているのでユルゲン君に頼むよりエリオット王子に頼むことにしたんだよ?
「え、エリオットお……エリオット君、なんだね。今から私は重要な……」
「話し合いの結果、貴方には校長のままでいて貰った方がいいという結論に至った。私としてはこのような甘い裁決はすべきではないと思うが、ここは王城ではなく学園。ならばこそ、生徒達の意見を取り入れるべきだろう」
そこでサクラの生徒たちに校長辞めないでーっとヤジを飛ばして貰う。
生徒達の声に感動する校長先生。
自分は慕われていたのだと気付き、あまりの感動で滂沱の涙を流す。
ソレをみた生徒達の数人が貰い泣きを始め、私とカルシェットの目論見通りに事が進んだ。
「校長。今回の事、陛下は重く受け止め、学園に兵士の常設を決められた。そして貴方には学園の管理を引き続き任せたいとのことだ」
いちおう許可の返事は来たんだよ? 凄く不満そうだったけど。
「それは、ですが、よいのですか?」
「皆がそうあってほしいと願っているのならば、貴方は残るべきだろう。アイアールが起こしたことを肝に命じ、他の先生たちがやらかさないように監視し、新しい新人を雇うのならば徹底的に調べ上げる。その心持があるのは、貴方だけだ」
「……エリオット王子」
ちなみに、台詞は私とカルシェットが考えました。
「常時学園の平和を管理する兵士達は兵舎をここに移し、いつでも駆け付けられるようにするつもりだ。総司令官、兵士の管理、監視は任せるが、よいか?」
「御意に」
エリオット王子の言葉にカーテシーで返す。
とりあえず今日の放課後にでもローテーションを組んで回せるようにしておこうか。
兵士達も学生が闊歩するここでいかがしたものかと不安があるだろうし。情報共有しておこう。
さすがに朝の声出しをされると学生寮が阿鼻叫喚になりそうだし。その辺りもしっかり説明しておかないと。
全校集会というよりは報告会が終わったので、学生たちは一部を除いて教室へと向う。
残ったのが先生方と私とエリオット王子。
「校長、よかったですな」
「教頭……ああ。しかし、本当に、私は残ってよかったのだろうか?」
「構いませんわ」
今だ夢現といった表情の校長先生に私は声を掛ける。
「ロゼッタ嬢? しかし……」
「むしろ居て貰わなければ困ります」
「……どういう、意味ですかな?」
「そもそも、学園の状態維持をしているのは校長先生でございましょう? 結界の張り直しや設備の点検。不正者の摘発、学生たちの悪意の発見。さすがに一人では大変でしょうが後任に教えることにも貴方は必要ですし、今までの横の付き合いは教頭にはありませんでしょう」
「それは……確かにそうですな」
「つまり、下手に貴方が辞めると学園が潰れます」
「そんな!?」
教頭、そんな心外そうな顔しない。どうせあんたが校長になっても何にも出来ないでしょうが。
「とりあえず、最初に教頭に貴方の全てを教えるつもりで校長の仕事を教えておいてください。辞めるでなくとも病気などで一時的に動けなくなった時でもフォロー要員がいれば学園運営に支障はないでしょうし、学園の安全に関しては兵士達に任せてしばらくは後任育成をしてくださいまし」
「りょ、了解した」
「これからしばらく、被害者貴族の親たちから突き上げもあるでしょう。しかし、ソレに耐えてください。アイアールを教師にしてしまった罪の償いはそれを耐えること、そしてこれから来る新しい生徒たちが安全に学べる組織作りに使ってください」
「ロゼッタ嬢……私に、できるだろうか?」
「出来るかではありません。やりなさい。辛くとも死にたくとも、貴方がやらねばならないのです。アイアールが悪い、そう責任を押し付けることも出来るでしょう。でも、貴方自身はそれでいいのですか? 罪を罪だと認識しながら裁かれることもない人生で、いいのですか?」
彼からすればアイアールを雇ったのは確かに失態だが、あいつのせいで自分の栄華が奪われたのだ。憎くて仕方ないだろう。
罪を償うというよりは、なんで私まで奴のせいで、そんな思いがあるはずだ。
だから、その気持を変えてしまおう。
「アイアールが悪いから私が巻き込まれた。そう悲観するだけならいつでもできる。学園を辞めたくなればいつでも辞められる。でも、折角の人生なんですから、そんな無駄遣いしたくないと思いませんか?」
「う、うむ?」
「家族はいますか?」
「あ、ああ。両親と、妻と、娘が二人」
「またアイアールのような奴が出れば。きっと被害が出るでしょう。それはもしかしたら貴方の娘かもしれません」
「うぐっ」
「ここにいる学生達も貴方の娘たちのように、守るべき存在だと思ってください。そうすれば、きっと今より学園をよくできます。さぁ、目を瞑って。思い描いて。娘さんたちが学園にいる時期を。そうすれば、大切な娘を学園に送りだした親の気持ちが分かるはずです」
「少し懐かしいが、確かに長女は学園にいた。凄く可愛らしくてな。ああ、我が娘もついに学生となったのだと、感慨深かった。だが、アイアール等に襲われるなど、吐き気がするッ。ああ、そう、だ。……次女が来るその時のためにも、私は……いえ。私がやらねばならぬのですな」
「そう、嫌々やることではないの。貴方自身が貴方の大切な者を守るために、やらねばならないのです」
そこに、好々爺といった男はいなかった。
何かを決意した漢の顔があった。
「不思議ですな。心に火がともったような不思議な感覚です。今、すぐにでも行動に移したくなってきました。やりましょう、私が出来る全ての事を、この学園を卒業する生徒達が、この学園で学べて良かったと思える場所にするためにっ。我が人生の全てを賭けてッ!!」
……どうでもいいけど、次女さんって高齢出産なのかな?
さすがに今聞くことではないか。




