703話、ルーク、お前の未来は閉ざされた
SIDE:ルーク・ゾーリンゲン
その日、アイアール・メタボリックは校長室へと呼びだされていた。
何なんだまったく、と憤慨しながらやってきたアイアール。自分の行為がバレたなどとは全く思っても居ないようだ。
察しはいいが頭はだいぶ悪いらしい。よく教師に成れたものだ。
ベルングシュタット家の影は既に校長室で待機済みだそうだ。
アイアールが室内に入ったことを確認し、俺達もまた校長室前で待機する。
俺は視線でメンバーを見る。
皆、200レベルを越えたお嬢式訓練履修済みの猛者たちだ。
毎年数人ずつ確保していた新規組織エインフェリア。その中で今回25名がお嬢に選ばれた。
女性兵のヴァルキューレは今回アイアール捕縛の任には呼ばれていない。
お嬢が万一を想定して男性のみでの捕縛になったのだ。
ゆえに。皆、気合が入っていた。
されど相手に悟られないようにと必死に気持を鎮めている。
何時爆発するかも分からない感情に蓋をし、俺達はただひたすらに待っていた。
「馬鹿なっ! 本気か校長ッ」
おっとしまった。風魔法を使ってなかったな。
誰か使っている者はいるか?
よし、悪いが突入タイミングを任せる。
前の職業の悪い癖が出ちまった。基本自分の身体のみで情報を手に入れてたし、他の情報は仲間任せだったからな。
全く、影として情報収集なんて今じゃ愚か過ぎるくらいに拙いことをやってたもんだ。
あんな行動、風魔法使うだけでもっと多くの情報が手に入るってのにな。
やっぱ、お嬢に付いて来て正解だった。
あの人が俺の仕えるべき主人って奴だ。
あの人の役に立つためならば、俺は、なんだってやってやる!
「ふ、ふざけるなっ! ぼ、僕がどれだけこの学園に貢献していると思ってるんだ!」
「行きましょう」
「全員……突撃!」
扉を開けば丁度校長の襟首を掴みあげ、持ちあげている肉達磨。
俺達は一斉に部屋へとなだれ込み、俺のタックルが肉達磨を吹っ飛ばす。
「あぎゃっ!?」
「げほっ、ごほっ、う……助、かった?」
ちょっと焦った。
今の、後少し遅れてたら校長死んでたんじゃないのか?
さすがにそれはお嬢の信頼裏切るどころじゃねぇぞ。あっぶね。
「ぐ、おおおっ、なんなんだお前らぁっ」
チッ、結構な一撃のはずだったが、気絶してねぇのかよ。
「アイアール・メタボリック、国家重犯罪者として貴様を捕縛する。大人しくに縄に付くならば良し、抵抗するならば……」
「ぼ、僕は伯爵の叔父だぞぉっ」
ああ、まぁそうだろうな。
身体能力にブーストを掛けて逃げようとした肉達磨の背後に回り込んだ兵士が肉達磨を蹴り飛ばす。
力を入れるより早く衝撃が来たため、逃げだすことは失敗。
さらに床に倒れ込み、顔面をしたたか打ち付ける。
「おぶぉっ!?」
立ち上がろうとした肉達磨に追撃のかかと落とし。
ちなみにこれは俺だ。
一応隊長だからな、他の奴より活躍しねぇと。
「あが……」
「おい、捕縛どうする?」
「縄はありますが、すぐ解きそうですね」
「誰か棒持ってきてくれ。こういう気性の荒い生物は棒に手足縛って担ぐのが一番だぞ」
「よし、それ採用」
背中を蹴りつけ。俺が肉達磨を押さえている間に他の兵士達が動きだす。
なんとか及第点、といったところか。
逃げだす前に潰せたのは良かった。
下手に身体能力増加魔法を発動されていたら俺達といえども万が一という可能性だってあったからな。フェイル隊長たちならその状態でも確実に鎮圧出来そうだけどな。
この状態からなら逃げおおせていた可能性も多少存在しそうだし。
そうなったら森とかいろんな場所捜索して見付けないといけなくなるし、被害がまた出てしまうだろう。
可能ならば今のウチに両手足折って動けなくしておきたいところだが、まぁ今回は予想以上に上手くいったため、撃退出来ただけマシだったと思おう。お嬢の信頼を裏切るよりはマシだ。後は牢屋に入れた後の奴等にお任せだ。
捕縛を終えて三人づつ丸太の前後を肩に乗せてえっほ、えっほと校長室を後にする。
俺と数人は校長室の壊れた備品修理だ。魔法でちゃちゃっと済ませて元通り。
校長の怪我具合も確認して治療し、問題が無くなったのを確認してから撤収する。
しかし、アイアールの護送方法、まるっきりイノシシの捕らえ方なんだよなぁ。
……今日は牡丹鍋かな? さすがに無理か? じゃあ豚肉使った料理にするか。
確か食堂にもメニューはあったはずだ。豚丼でもいいや。とりあえずなんか豚系料理をカッ込みたくなってきた。
さて、ヴァルキューレ隊は本家を襲撃してるはずだが、向こうは上手くいったんだろうか?
まぁお嬢式訓練に耐えた女性陣だ。パワーレベリングで恥も外聞も捨て去った漢女どもだしな。
むしろこっちより上手くやってんだろ。なぜかあいつ等にはライバル視されてるし、こっちも男として舐められたままじゃ終われねェからな。しっかりとアイアール捕縛をアピールしてやるぜ。




