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669話、マルコ、歴史探訪・はためく旗はライオネル

SIDE:マルコ・ポロポロ・サイエンスフィア


「森の、主……? シャドウテールタートル!?」


 シャドウテールタートル!? おい、魔術師、それは、それは災害級の魔物じゃないか!?

 生きた邪神とまで称されるレベル150代の凶悪な魔物だぞ!?

 あれが……生きた邪神シャドウテールタートル!? こんな近場に存在していたのか!?


 普段は土の中で森の養分を吸い取っている亀型の奇怪生物だ。断じて亀ではない。浅黒い肌が亀のそれに似ているのと甲羅のような丸みのある体躯に五肢が出ているためタートルに類推されているだけである。

 夜行性で身体が黒いため、夜中に出会うと気付くことなく踏みつぶされる凶悪な魔物。

 昼間は滅多に遭遇しないが、通常の戦闘であっても一個大隊で勝てるかどうか、下手な国ならば即座に滅ぼされる程に凶悪な魔物だ。


「チッ、全隊、そのまま戦闘維持、バリー、トラヴィス、パンダフ……やるぞ!」


「「「応ッ!!」」」


 ……は? ま、まさか、あの魔物相手に、たった四人で、やるきなのかフェイル!?

 隣を見れば、魔導師もまさか、といった顔をしている。


 まずはバリーが矢を番え。一射。

 魔力を乗せた一撃は、魔物の腕部を的確に穿つ。

 悲鳴と共に、シャドウテールタートルが暴れようとした、その刹那。


「こっちは貰うぜッ」


 パンダフが突撃し、残っていた前足を切断する。

 普通の剣ならば届かないはずだが、魔法剣をつかっているのか、遥か遠くの前足が宙を舞っていた。

 怒り狂うシャドウテールタートル。

 その背中に画面が移る。

 何故背中? いや、背中を誰かが走っている!?


「急所、頂きッ」


 いつの間にか背後に回って急所へと辿りついたのはトラヴィス。

 そのまま敵の急所を突き刺す。


「クソ、しぶといッ」


 悲鳴こそあげるがまだ死んだりはしていない。

 シャドウテールタートルが攻撃の意思を示した、その刹那。


「うおぉぉぉぉぉッ!!」


 魔物へと走り寄る一人の兵士。

 手には、風にはためくライオネルの旗を持ち、シャドウテールタートルの元へと駆け抜ける。


「オリールッ、氷の魔法で足場を作れッ」


「は、はいっ!」


 慌てて反応した兵士が高さと位置を変えて三つの氷を作りだす。

 ソレを足場にジグザグに飛び乗ったフェイル。

 手にした旗を振り被る。


「土へ……還れッ!! 死亡フラグ起動デスフラグ・アクティベートッ!!」


 そのまま頭蓋目掛けて旗を突き刺す。

 魔力の乗った一撃が真下へと駆け抜け、シャドウテールタートルの顎下へと貫通した。

 しばしの硬直。

 遅れ、巨大な身体がゆっくりと倒れて行く。


 その頭蓋の上には、旗を突き立て仁王立つフェイルの姿。

 凶悪な魔物を討伐した彼の傍には、雄々しくはためくライオネルの旗。

 兵士達が勝鬨を上げ、さらに残った魔物達へと殺到して行く。


 画面が切り替わり、ゴーレム馬で走り抜ける二人にフォーカスが向う。

 総司令官を守る二人もまた、迫り来る魔物を蹴散らしライオネル王国に向かっていた。

 その決死の働きに、またも手に汗を握ってしまう。


 たった二騎にこれでもかと迫り来る魔物達。

 これをたった一人の兵が弓を射り、的確に蹴散らし道を空けて行く。

 もう一人は総司令官を大事に抱え、ただひたすらに前に。

 後ろの弓兵を信じて走るその姿には、何か熱いモノが込み上げる感覚を覚えた。


 ライオネル王国が見え、リオネル王子が引きとめられている姿に、婚約者二人の愛情度が伺える。とても愛されているのだな、この総司令官は。この二人は、安泰だ。そう思うほどに、王子は婚約者を大切に受け取り、抱きしめていた。


 総司令官とリオネル王子は城へと戻り、一人の兵士がギルドへと駆け込む。

 さすがにドラゴン退治は想定外だったようで、ギルド長が倒れていたが、これが子供たちに大ウケで、ギルド長が人気者になっていた。倒れ方の真似が流行りそうだ。


 そして、話を聞き、素材回収部隊が出立。

 辿りついたギルド員たちが見たモノは……

 うずたかく積まれた魔物達の死骸と、未だに戦い続ける兵士達の姿。

 そして巨大な魔物の頭蓋に突き刺さったままのライオネルの旗が風に揺らめいていた。


 彼らが辿りつくまでかなりの時間が掛かったはずだ。

 それでも兵士達はひたすらに闘い続けた。

 継戦能力の高さが伺える。

 それに、いささかも衰えない戦意と、ギルド員達に気を回す余裕。フェイルも予備の旗を手にして闘っていた。

 子供たちも、これを見て歓声を上げている。

 兵士達への憧れを抱いた子供がどれ程増えたことだろうか。

 ライオネル王国は孫の時代までも安泰であろうことはこの光景を見ただけで想像に難くなかった。


 そして最後。

 夕焼けに染まる王宮の一室で、ベッドに寝かされた総司令官と、傍らに寄り添うリオネル王子。

 決意と共に眠る少女の頬に口付る王子の姿に、女性陣が色めき立つ。

 しかし……どうせ口付するならそこは唇じゃないのか王子様よ?

 さすがに日和った等と言ってしまうと王族への侮辱になりそうなので、口元まで出かかった言葉を飲み込み、微笑ましいモノを見た、と自分に言い聞かせて物語のフィナーレを見送った。


 この映像、仮想敵国の一員である私ですらもライオネル兵士達へ親近感のような物を抱いてしまう程に感動を覚えたのだ。この国の国民ならば憧れの対象になるだろう、いや、下手すれば崇拝されるかもしれない。

 話だけでは俄かに信じがたいが、この映像を見てしまえば信じざるをえまい。

 ふふ、記事を書くのが今から楽しみだ。

 この記事が各国に配られた頃には、きっとライオネル王国は世界一、今行ってみたい国となることだろう。さて、帰りにはプリンとやらを食べて帰るか、あいつ、ちゃんと買ってるかなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絵面的にとても美味しそうな映画ですね。 お子様ランチ以外にもライオネル王国の旗を突き刺すのがレストラン街で流行ったりして!? リオネル様は、うん、日和殿下で決定。
2022/07/30 00:47 退会済み
管理
[良い点] この動画を見た他国のスパイは何人か移籍しそうだな。 デーバルデ帝国の彼みたいに。 [一言] ???「すみません、美味しかったので残りもたべてしまいました。」
[良い点] フェイル達始まりの4人の兵士は、最高に格好良くなったね ライオネル王国なりたい職業ランキング 1.兵士 2.ブライダル商会 3.城の文官(お嬢に、会えるかも?) くらいになりそう 因みに、…
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